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貧乏子沢山なんて無理。裕福じゃないと子ども産めない時代へ


毎度のことながら、政治家がまた失言をして発言を撤回するというニュースが話題になりました。

「3人以上子どもを産み育てていただきたい」と結婚式で発言したらしいですね。

これに対して、ネットではいろいろな意見が飛び交っていました。今回は、この発言の是非はともかく、現代において「子どもを3人生み育てること」って可能なのか?という話をデータから見ていきたいと思います。

2012年就業構造基本調査から、夫婦世帯の収入別で子どもの数の分布をまとめてみました。調査資料では、子あり夫婦と子なし夫婦は別にされていましたので、20~50代の子なし夫婦も「子ども0人」扱いで一緒に見ることとします。50代までに区切ったのは、60代以上の夫婦のみ世帯は、「子なし」ではなく「既に子が独立した」夫婦である可能性が高いからです。

分布を積み上げグラフにして見てみましょう。

© 荒川和久・無断転用禁止

400万円から600万円未満の世帯収入の夫婦が一番多く、子どもの数もそれに順じて多くなっています。が、一見しておわかりの通り、ボリューム層は「子ども1人」層です。

「貧乏子沢山」なんて言葉もありますが、世帯収入に応じて子どもの数は変わるのでしょうか?

一人っ子世帯比率と子どもが2人以上の世帯の比率だけを抽出して以下グラフ化しました。

© 荒川和久・無断転用禁止

これでわかるのは、「貧乏子沢山」どころか、高収入世帯でなければ子どもが産めない状況であることがわかります。年収300万未満の世帯では「子どもが1人」が過半数を超えます。年収500万円を超えてやっと、「子どもが2人」が「一人っ子」比率を上回るのです。つまり、子どもを2人産み育てるためには500万円以上の所得がないと無理なんです。ということは、「3人産み育てる」のはそれ以上必要だということです。

では、年収が高ければ高いほど、子どもの数は増えているのか?というとそうでもありません。「子ども3人以上」世帯はどの収入ゾーンでもわずか1割程度しかいません。裕福だから子どもが多いということでもないようです。

収入1250万台あたりまでは収入増に応じて増えていき、「子どもが2人以上」比率が50%に達します。が、その後はそれ以上収入があがってもむしろ比率はさがり、「一人っ子」の方が増えていくことになります。1500万円以上の富裕層夫婦ほど子どもを複数産まない傾向にあるということです。

富裕層で一人っ子が増えるというのは、また違った事情も含まれていると思いますが、平均的な収入の夫婦においては、子どもの数はほぼ収入に影響されるのです。

結婚も同じですが、「子ども産み育てる」ということも、まさに経済問題のひとつなのです。

1夫婦が子どもを3人産めば、確かに全体の合計特殊出生率は、人口置換水準である2.07を上回るでしょう。しかし、子どもを産み育てるという行為は数字遊びではありません。

夫婦の所得だけの問題でもない。フランスのように、出生にインセンティブを付ければ子どもの数が増えるという議論もありますが、そんな簡単な問題ではないでしょう。事実、フランスの出生率は直近3年連続で減り続けています。また、昨今の晩婚化の影響もあり、一人目を産んだ時点で40歳を超えている母親も多くなっています。離婚率の増加も影響があります。産んだとしてもきちんと育てられるかという不安が、常に多くの夫婦の中に存在していることも事実です。そして、中には、心から「産みたい」と願いながら恵まれない夫婦も多くいらっしゃいます。

夫婦それぞれ、それこそ夫婦の数だけ事情はあるし、環境も違えば、子どもに対する思いや考えも様々でしょう。「たくさん子を産んだ人間だけが偉くて、産まない人間は価値がない」なんてことはないんです。

子のあるなしに関わらず、それこそ未婚者であっても、私たち大人は子どもたちの未来に責任があります。「将来、自分を支えてもらうために子どもがいる」なんて古い昭和的な発想は捨て去るべきです。むしろすべての大人が、すべての子どもたちを支える社会であるべきではないでしょうか。


長年の会社勤めを辞めて、文筆家として独立しました。これからは、皆さまの支援が直接生活費になります。なにとぞサポートいただけると大変助かります。よろしくお願いします。