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マーケティングだけ勉強しても、マーケティングできる様にはならない〜その8〜

「マーケティングが出来る」とはどういうことか、の構造を考えるために始めた本記事。
ここまではマーケティングを下のスライドの様な四階層

に分け、「マーケティングができる、とは何か?」を構造的に考えている。

本日はマーケのアプリ階層にかかるアジェンダ、ターゲティングについて。

富永は昔から、「人より意図」という駄洒落めいた言葉を座右の銘の一つにしている。

これは、ターゲティングを考えるときは、人の単位ではなく、その心にある意図に着目しよう、ということだ。

例えば、スーパーマーケットで、人を単位としたターゲット設定をしたとしよう。二十代女性、既婚、世帯年収800万、というところだろうか。

これにより、ブランド価値規定の設計や、広告・インストアコミュニケーション作成といったことは一見やりやすくなるように感じられる。だがこのターゲット設定はマーチャンダイジング施策への反映が難しい。

なぜならば、スーパーマーケットには、商圏の人がくまなく訪れるので、ある一定の層に阿った品揃えにしてしまうと、他の層のニーズが満たせなくなってしまうのだ。筆者は50代の男性であるが、いも焼酎が買えないスーパーで買い物はしたくない。

では、どうすれば良いのか?

人の心にあるスーパーの来店目的に着目するのだ。すなわち「人より意図」である。

筆者がかつて、西友/ウォルマートに勤務していた時に行った調査では、スーパーへの来店意図は17種類あった。当時のチームではこれをショッピングミッションと呼び、マーケティング施策構築の重要なツールにしていた。

17種類のうち、どのチェーンでも、一番シェアが高かったのは「夕食準備」で全体の35%程度あった。次点はチェーンによって違っており「安くなっているものを買いに」「面白いもの、珍しいものを買いに」「今すぐ食べるもの・飲むものを買いに」と言ったあたりが顔を出していた。当時は第二位の来店意図がチェーンの個性となるのか、などと考えたものだった。

また、個人の中にその17種類がどのように分布しているか、ということも調べたが、面白いことにすべての目的がすべての人にあった。もちろんその人の価値観や役割により、重視する来店意図の順位は違ったが。

ショッピングミッション、すなわち意図をターゲティングの単位にすると、品揃え・売り場の編集・コミュニケーションを一致させることにより、世代やプロファイルによる制約を受けることなく、全ユーザーに向けて施策を構築することができた。

また、ブランド価値規定の記述も、かなり手間がかかる複雑なものにはなるが、ショッピングミッションごとに違う項目と、全部に共通する項目、という具合に因子を分類して組み立てた。つまり、ブランド価値規定の構造をショッピングミッションの数だけ面がある多面体のような形で記すのだ。

ちなみに、全部に共通する項目とは、会社のミッション、ブランドパーソナリティ、Base of Authority(そのブランドの権威付けの元になるもの=そのブランドが信頼するに値する理由)など、ショッピングミッションごとに違う項目は、機能・価値・便益にかかるところなどだった。

さて。

この考え方は、スーパーマーケットに限らず、もっと汎用的に使えるものである、と思う。

飲料や食品などの商品にも、複数の購買目的(=商品がはたすジョブ)がある。例えば飲料ならば、その購買目的には、「止渇」「緑茶が飲みたい(のでティーパックでもペットボトルでもどちらでもいい)」「特定の成分を補給したい」「気分を上げたい」「落ち着きたい」など色々想定できる。

それぞれのジョブに対して、その商品が提供できる価値は異なる。例えばペットボトルの緑茶で考えると、

ジョブ     :機能・価値
止渇      :ごくごく飲めること
緑茶が飲みたい :緑茶であること
気分を上げたい :カフェインが入っていること
落ち着きたい  :緑茶というカテゴリーイメージからの連想
冷蔵庫のストック:大容量であること

という具合で、目的と価値(の例)は対応している。
ここから、小売のみならず、メーカーが作る商品のブランドも、そのジョブの種類に応じて多面体をしている、と言えると思う。

さらに面白いのは、ジョブによって、競合となる商品が異なることである。
筆者の感覚ベースなので、もしかしたら読者の実感とズレるかもしれないがざっくり言ってこんな感じだろうか?

ジョブ     競合
止渇      :ごくごく飲める全ての清涼飲料
緑茶が飲みたい :ティーパックや茶葉など、あらゆる緑茶関連商品
気分を上げたい :スパークリングワイン、コーヒー、エナジードリンク等
落ち着きたい  :寝酒にするようなリキュールや果汁など
冷蔵庫のストック:全ての大容量清涼飲料

ここから導けることは何か?

読者は、マーケティング戦略を立てる時に、自社の競合や自社製品の便益など、先入観的に決めつけていることはないだろうか?

しかし、あるブランドが使われる理由はたくさんあるし、その理由により競合や強調すべき便益は違う。

であるならば、まず小売ならばショッピングミッション、メーカー製品であればジョブに相当する要素を洗い出し(ジョブ・ショッピングミッションを元にセグメンテーションする)、そのどれにフォーカス(ジョブ・ショッピングミッションを元にターゲティング)をするか、ということを、決めなければならない。

その上で、ポジショニングを決めるのだ。

ここのところカテゴリーエントリーポイントという考え方が重視されてきているが、その背後にあるのは、こういうことであると、筆者は思う。

バイロンシャープさんの「ブランディングの科学」を読んだら、STPいう考え方との整合がつかない気がしてモヤモヤした、という声を時折聞くが、上のように考えるとスッキリすると思うので、モヤモヤにお悩みの読者は一度このように捉えてみていただきたい。

先日の日経にあったこの記事。

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN230YK0T20C24A7000000/

サードパーティクッキーは、あるサイトを閲覧したり、広告を踏んだりすることは、興味・関心(=意図)の証左であろう、という考え方で作られており、「人より意図」という考え方の実行の一方法である。

人の意図を本人の意思に関係なく計算可能にしてしまう、のは確かにまずそうだ。さりとてこうしたことが本当に全面撤廃されてしまうと経済の活性化の一助にもなり得るマーケティングの可能性がグッと狭まってしまう懸念もある。

今後また議論再燃した時に備え、直接的な行動はマスクしてメタ情報で消費者と広告主を紐づけるなり、もっと原始的な方法として本人の承諾をとりやすい仕組みを作るなり、何かしらの方法は模索・構築しておいたほうが良い、と筆者は思う。

読者の皆さんはいかがだろうか?


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