多様に広がるお酒の世界。
すっかり弱くなった。まん防が解除され、外で飲む機会が再び増えてきたのはよいが、そこには数杯で酔ってしまう自分がいた。しかも次の朝にお酒が残る。なんとも変わったものだ。決して、お酒が強いとは思っていなかったが、5-6杯なら全く問題なかった。いまではノンアルにしようかなと思う時すらある。様変わりだ。
最近は、お酒を飲まない人、飲みたくない人を、「シラファー」と呼ぶらしい。とはいっても、シラファーが飲みニケーションを否定しているわけではない。潤滑油としてのお酒は適度であれば歓迎だろう。秋葉原にはノンアル飲料を提供する「LOW-NON-BAR」が人気で、来店客は通常より10歳若く、女性が6割を占めているという。「お酒でなければいけない」ではなく、「お酒もノンアルもある」といった感じだろうか。目的はあくまでも「親交を深める」だ。道具はそれぞれが自由に選べばいい。
酔い易くなると、良いお酒を少量飲みたいという願望が湧いてくる。目についたのはアーティストとのコラボ日本酒だ。黒龍酒造、三宅彦右衛門酒造、常山酒造の3酒蔵が連携し、クリエーター集団「PERIMETORON」がプロデュースしたお酒で、値段は3本セットで1万9800円。福井県産の「五百万石」で、精米歩合50%を揃えて、製法や水の違いなどによりそれぞれの味わいが出ているという。これはかなりそそる。美味しいおばんざいと共に、違いをゆったりと味わってみたい。身体に染み入ると思う。
コロナ禍による酒余り、サーキュラーエコノミーへの意識向上もあってか、新たな酒文化も広がりを見せている。北海道函館市の蔵元の箱館醸蔵は、様々な会社に日本酒「郷宝」の酒かすなどの酒造りの副産物を無料で提供し、酒米栽培から食までを含む地域の輪を生み出している。
大人の松前漬「ねばいかす」、酒かすをつかったレアチーズケーキ、酒粕リップ、函館塩からあげなど新たな商品が次々に生まれた。冨原剛取締役は「酒かすを売るよりは、無料で広く使ってもらうほうが、地域全体に貢献できると考えた」と話す。米ぬかもシイタケ栽培の菌床などに提供しており、初年度は酒かすを含む副産物の全量が有効利用できたという。このストーリーはお酒に別の美味しさを加える。味わいながら地球に優しい社会に想いを馳せることができると思う。
伝統という別の魅力も見つけた。東京の青梅で江戸期の製法を守り続ける酒蔵の挑戦だ。なんと創業は1702年。仕込み水は当時から組み続けている井戸の水を使っている。「澤乃井」のブランドで知られている酒蔵だが、サブブランドの「東京蔵人」というお酒がある。「乳酸菌を自然発酵させる「生酛(きもと)づくり」で仕込む」と書いてある。これが江戸時代と同じ製法だ。東京蔵人は、「酸の感じがワインにも通じ、肉料理にも合うとの評価を得ている」という。
さらに、1966年から酒蔵見学を始めたようだ。まさに「酒蔵ツーリズムの先駆け」だ。これは行かねばならない。井戸や酒蔵に江戸を感じて、試飲。なんとも楽しみになってきた。そして、美味しい食事とマリアージュしてくれる食事処を教えてもらう。年間1万本少ししか製造していないお酒だ。いつ実現できるか分からないが、美味しい食事と美味しいお酒が待ち遠しい。
お酒との付き合い方、楽しみ方はどんどん広がっている。酒本位社会、駆けつけ3杯、一気飲みなどは今は昔だ。お酒とは、豊かで優しい社会の潤滑剤として付き合っていこうと思う。
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