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次の「ドライブ・マイ・カー」にもミニシアター文化欠かせない

明日からユーロスペースなどで公開されるレオス・カラックスの新作『アネット』。ジャン=リュック・ゴダールの再来」と評されたレオス・カラックスは、『ポンヌフの恋人』や、2012年『ホーリー・モーターズ』などの作品でご存知の方も多いと思う。

遂に出た新作

その難解さや複雑さといったものを背景にした、作家主義的な作品を、かなりの長い制作スパンの中で生み出していくレオス・カラックスの作品は、ある意味オリンピックよりも長く待たなくては次回作が見れないので映画ファンの渇望を呼ぶ。映画史的にも重要な彼の作品。ただそのかなり長い時間が経過する制作スパン、そして必ずしも興行的に儲かる訳でもない彼の作品の制作環境を整えることはとてつもなく大変なことであろうことは容易に想像ができる。

そんな9年ぶりのカラックスの新作『アネット』。

23歳のときに発表した初監督作『ボーイ・ミーツ・ガール』(1983)でフランス映画界に鮮烈なデビューを飾りながらも、およそ40年にわたる監督人生のなかで発表した長編は6本。度重なる事故による延期で、フランス映画界史上もっとも高い制作費となった『ポンヌフの恋人』(1991)や、カンヌ国際映画祭で賛否の嵐に見舞われた『ポーラX』(1999)など、作品を発表するたびに、大きな反響を巻き起こした。

そんな彼の9年ぶり、7作目にあたる新作が、アダム・ドライバーとマリオン・コティヤールを起用したロックオペラ『アネット』だ。伝統的なミュージカル映画とは一線を画し、踊りはなく、セリフがほとんど歌という試み。さらにロックとオペラ、辛辣な笑いと壮大な悲劇の融合を斬新な映像で表現した本作は、カラックス自身もファンだったというアメリカのロックバンド、スパークスの原案を、彼らの希望でカラックスが脚色した。

またまたなんとも表現が難しい、だけれども間違いなく必見の映画となっているのだが、そのワンショットワンショットの素晴らしさも含め、完成までの道のりの困難さまでヒシヒシと伝わってくる。この作品が如何にして生まれたのか、そしてこの作品を生み出したのはどのようなひとなのか。そんな記事が日経新聞に上がっている。

どうしてこの作品が誕生できたのか

世界の中でもとりわけ多様な映画が公開される日本。ユーロスペース(東京・渋谷)代表の堀越謙三さんは1980年代からミニシアター文化をけん引してきた。上映にとどまらず配給や製作も手掛ける。フランスの映画監督レオス・カラックス、イランのアッバス・キアロスタミら世界の鬼才も黒子として支えた。

そう、渋谷・ユーロスペースの堀越さんがその立役者であり、何十年もカラックスを支えてきたのが、本作にもつながっていることが分かる。この記事では堀越さんの来歴を振り返っているのだけども、ユーロスペースから始まり、映画美学校、東京芸術大学映画学科と、作家の才能が発揮できるプラットフォームをこれまで色々な形で作ってこられたんだなあと改めて実感しました。

その中でも特にハッとしたのが垣間見えるアート博打師的なところ。

今は若い人が採算をシミュレーションし断ってくる。「アネット」は10社ほど回りましたが、出資も配給も全社に断られました。もういいや自分たちでやろうと決め、劇場を担保にさらに借金しました。

歴史をつくるには、そんなバランス感覚がある人が、敢えてバランスを崩してでも実現に向けて色々なげうってしまう、そんな”黒子”が必要なんだなと強く実感した。もしかしたらその先にしか、シンギュラリティー的な作品を生み出すことはできないのかもしれない。

それは『ドライブ・マイ・カー』も同じかもしれない。

そういう意味では当然そんな歴史的作品が、つい最近日本からも生まれたのは記憶に新しい。『ドライブ・マイ・カー』だ。

日本の映画史上初めてとなる、米・アカデミー賞4部門ノミネートなど、ものすごい歴史を打ち立てた濱口竜介監督。

僕としても一緒に取り組んだミニシアター・エイド基金だったり、1月20日の開館から、下北沢のミニシアター「K2」で、濱口竜介特集上映や最新作「偶然と想像」を上映させて頂いていたりと、ご縁を頂いているので自分事の様に嬉しい気持ちでいっぱいになる、と思っていたけどいざ授賞式を見ているとそのすごすぎる快挙を目の当たりにして、もはや唖然としてしまった。

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(授賞式当日は、下北沢のミニシアター『K2』に、濱口竜介監督の作品をこれまで上映してきた、東京のミニシアター関係者で集まって見守りました!)

この『ドライブ・マイ・カー』の快挙にあたっては様々な声が挙がった。
「日本の映画の実力を世界に示せた!」「日本の映画人の魅力が伝わった!」という旨の発言もSNSでは飛び交ったが、同時にこのようなクリティカルな指摘も同時に挙がった。

非常に的を得た指摘である。
日本の映画業界の「内向きさ」だったり「保守的」だったりするところに、恐らく見切りをそうそうにつけて、日本の映画業界的な製作の在り方から逸脱して、独自の製作の形で映画を作り続けて来た濱口監督の快挙が、日本映画業界の快挙であるわけがないのは間違いない。ただこの”業界”のメッシュについて今回ちょうど明確にできる話でもあるかなと思った。

僕が常に次回作を見たい修了生は「宮本から君へ」の真利子哲也監督。黒沢清さんが「こいつに教えることは何もない」と言って入試で落としたら「そんなこと言わないで入れてください」と翌年また受けに来ました。

修了した濱口さんに監督の話は来ませんでした。ドキュメンタリーをやるのも勉強になると思い、東北に送り出しました。手掛けたのが「なみのおと」など東日本大震災の3部作です。今年のゴールデングローブ賞では僕が製作した「アネット」が「ドライブ・マイ・カー」に負けたけど、学校をつくった側として、これ以上の幸せはありません。

最初の堀越さんの記事に戻ると、こんなコメントも出ていたが、これは改めて濱口竜介という才能に光を当てた存在があるのだとしたら、それは作家の才能が発揮できるプラットフォームを作ってきた堀越さんを始めとしたミニシアター業界の人たちだろう。

いわゆる「映画業界」といったときに指すような業界のメインプレイヤーでは到底到達できない成果を、利益よりも作家性を大事にし歯を食いしばり運営を継続している全国のミニシアターだったり、薄い制作支援の中で製作に取り組んでいるインディペンデントな製作者達が出したといっても過言ではない。

なので、言いたい。
示されたのは日本映画業界の実力ではない。ミニシアターという小さい力たちのバランスを崩してでも支えようとする力なのではないかと。


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