フィンランドを見習うのであれば、ありのままの現状を見よう

一時期「少子化対策は北欧を見習え」みたいな話がものすごく流行った時期があって、Xで界隈が叫んでいるだけならまだしも、大新聞やテレビまでがそれを言いだしてうんざりしたことがある。

まず、事実を正確に認識することが大事。

世界最高レベルの子育て支援と言われてきたフィンランドでさえ出生率は1.26にまで激減している。1.26は2022年の日本の数値と一緒で、その時は「過去最低の出生率」とかでマスコミが大騒ぎしたよね。

フィンランドの出生減については、ものすごくわかりやすく解説しているのでこちらの記事を読んでください。

子育て支援では出生増につながらないのは明らかで、日本含め先進国のほとんどが出生減=20代の結婚減。若者が若者のうちに結婚や出生できなくなったという本質の課題に向き合わないといけない。

少なくとも、この記事をお読みいただいた方には事実認識していただきたいのは「子育て支援にどれだけ予算を投入してもそれは出生増にはならないし、日本でも2007年以降予算かけても出生は減り続けているし、諸外国も同様」ということてある。

ここで、擁護するわけではないが、一応言っておくと、政治家や官僚がそのことを知らないわけではない。さすがにそんな無知ではない。十分すぎるほど知った上で「聞かなかったことにしている」だけだ。

本質的な出生減の課題は認識しているが、特に政治家はそれに対処することができない(与党も野党も)。

なぜか?

子育て支援金がいい例だが、あれは「少子化対策という誰もが反対しにくいお題目を悪用して増税しようとする」ものだが、それと同様、予算つけても効果のないことに延々と予算つけるのは、少子化対策という錦の御旗の下に群がって、効果のない政策を公金使ってやろうとする公金チューチュー輩が多過ぎるからだ。完全に利権構造に組み込まれているからどうにもできなくなっている。

おまけに、御用学者は鉛筆なめなめで小遣い稼ぎ。記事にも書いたが、1.2兆円かければ出生率が0.1あがるとか、来年にはわかってしまうような嘘(出生率はあがらないから)をよく平気でつけるものだなと思う。

「ハンガリーの家族関係政府支出GDP比を見習え」などと言っていた家族社会学者もいたが、そもそもハンガリーの同政府支出GDP比と政府支出内構成比の数字を間違えているのにそのまま報道する新聞とかテレビとか…。間違い流すなよ、と。

「未婚率改善なんかどうでもいいので、結婚した夫婦が3人目を産めば少子化解決、だから第三子に1000万円支給」などという妄想を言い出す大学教授(元財務省官僚)に至っては呆れてしまう。まあ、出自からして財源を減らすことにしか興味がないのだろう。

出生減の本質がまるでわかっていないと思ってしまうのは、第三子が産まれないから出生減なのではないからだ。むしろ、今子どもを産んでいる夫婦は第三子出生率があがっている。

結婚した夫婦の子ども数の問題ではなく、それ以前の結婚に至らない20代の若者の問題である。むしろ、今は「裕福でタワマンに住めるような経済力がある夫婦だけが子どもを産んでいる」のだ。

だから、人口ボリュームの多い中間層が子どもを持てなくて、結果出生減になっている。2人→3人を増やしたところで、0人→1人が発生しなければ出生増にはならない。

女性の生涯無子率は日本ですでに3割、2040年には4割になる。それで出生が増えるわけがない。ちなみに、フィンランドの無子率もすでに2割以上へと急増中。
婚外子が~という指摘は的外れ。無子かどうかは結婚の有無とは関係ない。

同様に、「男性育休を増やせば出生率があがる」などというトンでも論法を展開する東大教授をありがたって有識者として使うマスコミもどうかと思う。


よく界隈が金科玉条のように使う、例の「日本のジェンダー平等指数は世界の125位だからダメなんだ」論も、世界3位のフィンランドと出生率は同じなんだから相関すらないでしょって話。

もちろん、子育て支援も育休制度もジェンダー平等もそれ自体は否定しないし、やればいいと思うが、それを改善したところで直接的に出生増にはつながらない。別物なのだ。

フィンランドを見習えというのなら、正しい現実認識をしている者を有識者としてとりあげるメディアの姿勢こそ見習うべき。

フィンランドの家族連盟人口研究所のアンナ・ロトキルヒ氏は「フィンランドの家族支援政策は子を持つ家族には効果があったのかもしれないものの、本来の目的である出生率の上昇には結びついていない」と述べている。


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荒川和久/独身研究家・コラムニスト
長年の会社勤めを辞めて、文筆家として独立しました。これからは、皆さまの支援が直接生活費になります。なにとぞサポートいただけると大変助かります。よろしくお願いします。