原油高が世界経済に及ぼす影響
OPECプラス追加増産 サウジ、米大統領歴訪にらみ譲歩: 日本経済新聞 (nikkei.com)
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻により世界経済の先行きが不透明となり、資源高や円安、米金利高など様々な面で悪影響が出始めています。
特に、ロシアに対する全面的な経済制裁が短期間で解除される可能性は低いことからすれば、ロシアのウクライナ侵攻に伴う直接的な影響は化石燃料の高騰です。
すでに原油価格は、米国のロシア産原油輸入停止の報道を受けて130ドル/バレルまで上昇した後、各国の備蓄放出や停戦交渉進展期待などにより110ドル/バレル前後で落ち着いています。しかし、そもそもウクライナ戦争以前の原油価格は80ドル台程度だったことからすれば、ウクライナ戦争の影響により化石燃料価格が上がっていることは明白です。そして、こうした化石燃料の高止まりは電気料金やガソリン価格をはじめ多くの商品価格に反映されることから、化石燃料純輸入国から純輸出国への所得移転をもたらすことになるでしょう。
既にコロナショックや世界的な脱炭素化の流れを受けて、一次産品の高騰やサプライチェーンのひっ迫、輸送の混乱などにより世界経済はインフレ率が上昇していました。そこにウクライナ戦争に伴うロシアへの経済制裁が加わったことで、ロシアとの貿易が妨げられることになったため、世界的なインフレ率はなかなか下がりにくいでしょう。となると、世界の多くの国が経済的な悪影響を受ける一方で、対ロシア貿易の代替品を供給する一部の国については逆に恩恵を受けるところも出てくる可能性があります。
国別で見ていくと、まず米国経済については、ロシアとの貿易比率も低く、化石燃料や穀物の国内自給率も高いため、直接的な経済の影響は限定的と予想されます。米国については、コロナショック以降に世界で最も積極的な金融・財政政策を施したことから、家計金融資産は潤沢にあり、化石燃料価格の高止まりが逆に国内でのエネルギー関連設備投資の促進につながると考えられます。しかし間接的には、ウクライナ戦争にともない国内のインフレ率加速に拍車がかかれば、FRBが当初の想定以上のペースでの金融引き締めを余儀なくされることから、オーバーキルのリスクがあることには注意が必要でしょう。
こうした中、化石燃料高の悪影響を最も受けやすいのがユーロ圏の経済です。特に、ユーロ圏はロシアからのエネルギー供給に最も依存してきた地域であることから、インフレ加速と景気後退が共存するスタグフレーションリスクが高いと言えるでしょう。そもそもユーロ圏は地理的に近いこともあり、化石燃料以外にも穀物をはじめロシアやウクライナ産の商品への依存度が高いことに加え、消費者物価に占める食料エネルギーの割合も高くなっています。なお、英国については地理的に離れていることやロシアに対するエネルギー依存度が低いこと等から、ウクライナ戦争から受ける経済的影響はユーロ圏よりも小さくなることが予想されます。
こうした中、逆に化石燃料高で経済的な恩恵を受けそうなのが豪州やカナダといった資源国でしょう。なお、一部でロシアとの貿易拡大によりウクライナ戦争の恩恵を受けるとする向きのある中国ですが、国内的にもゼロコロナ政策や不動産向け融資規制などを行っていることから、明確な恩恵を受けるかは微妙です。
なお、新興国に及ぼす影響としては、ウクライナと地理的に近い東欧やトルコ、ロシア・ウクライナに対する一次産品の依存度が高いアフリカやアジア諸国(除くインドネシア・マレーシア)にはマイナス、逆に一次産品の価格高騰や代替需要の恩恵を受ける中東や南米、インドネシアやマレーシアなどは恩恵の方が上回る可能性があるでしょう。
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