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ストレス過多の時代にどのように向き合うか。「個人が意識すること」と「企業が対策すべきこと」を考える。

皆さん、こんにちは。今回は「メンタルヘルス対策」について書かせていただきます。

4月に入社や人事異動などで新しい生活が始まり、5月の大型連休を経て生活リズムを取り戻すのに苦労しているこの時期、社員が新しい環境に馴染めず、メンタルヘルス不調に陥るケースが多くなります。

業務過多や人間関係の悩みなど原因は様々ですが、社員のメンタルヘルス不調は生産性の低下や離職につながり、企業側の適切な対応がとられない場合に大きなトラブルに発展する可能性もあるなど、メンタルヘルス対策はリスクマネジメントの重要なテーマの一つです。

今や、「日本人の約5人に1人がメンタルの不調を感じている」というデータもあります。

不安やストレスと上手に向き合うために、個人ができること、企業ができることをそれぞれ考えてみます。


■ストレス過多の現代の特徴

「会社に行くのが面倒」「仕事に集中できない」「仕事の効率が下がってきている」「人とのコミュニケーションが億劫」など、明らかな体調不良ではなくても、憂鬱な気分が続くことによって、メンタルの不調につながることがあります。特に、環境が変わったばかりの時や新しいことを始めた時、自分一人では乗り越えられないような壁にぶつかった時などは、徐々にストレスに対処できなくなり、意欲の低下を引き起こし、仕事に支障をきたすこともあります。

こちらの記事には、

「以前は『仕事の負担が重い』『調子が悪い』などと上司に相談し、上司は負担を減らす、仕事の内容を変えるなどで調整したものだ。近年はそういったプロセスを踏まず、外部で受診しすぐに休みに入ろうとする」

という、上司への相談をせずに休職(または退職)するケースが増えているとありました。
新入社員が入社したばかりの頃は、分からないことだらけでいっぱいいっぱいになることは当然のはず(上司や先輩社員も織り込み済み)なのに、悩みを周囲に相談できない人が増えている傾向にあると思います。「できないことや自分の弱みを人に見せたくない」「悩みを相談すると評価が下がるのではないか」「自分の問題は自分で解決しろと言われそう」などと、問題を一人で抱え込んでしまったり、拙速に「この会社では合わない」と判断をして退職を決めるなど、“相談”すること自体に抵抗を感じてしまうのです。

こちらの記事には、欧米諸国では若い世代が経済面や気候変動が生活に与える影響まで幅広い問題を危惧している上に、

人格形成期に暗いニュースや書き込みをネット上で読みあさり、FOMO(Fear Of Missing Out=取り残される恐怖感)にさいなまれてきたZ世代の間では今や、不安症やうつがまん延している可能性があると社会科学者は懸念する。

とあります。Z世代はスマートフォン(暗いニュースや書き込み)に疲れていて、上の世代に比べて厳しい時代を生きることを余儀なくされており、「精神的不安感の強い世代」とされているのです。SNSの普及と比例する形で心理的不安が増大している今、メンタルヘルスの問題は、これからを担う若者世代の日常生活にも潜んでいると言えます。
 
こちらの記事には、

新卒採用で政府は企業に6月以降の選考開始を要請しているが、大学4年生の2人に1人は3年生のうちに内定を得ている。いちど内定を得た後も、多くの学生は就職活動を続行中だ。

とあり、就職活動の早期化、及び長期化によって、学業への影響だけでなく、人気企業への応募が集中することで不合格となる確率が高くなり気持ち的に落ち込んだり、自分の将来を悲観し不安を覚えるなどメンタルへの影響も懸念されています。

さらに、こちらでは、

厚生労働省の労働安全衛生調査において、国内企業や事業所の約13%がメンタルヘルス不調によって休業や退職をしていると紹介されていました。

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC02C1H0S4A200C2000000/


記事によると、強い不安や悩みを抱えている労働者は8割強で、コロナ前よりも急上昇していることが分かります。直接対面で人とコミュニケーションをとる機会が増えたことによるストレス増加が要因であることは容易に想像できますが、

笑いによって人を和ませるスキルは経営者やリーダーが備えるべき「ソフトスキル」としても耳目を集めつつある。プログラミング、デザイン、分析などのハードスキルに対し、ソフトスキルは共感力やチームビルディングといった対人なスキルに関連する。「シリコンバレーのリーダーたちはソフトスキルの重要性を認識するようになってきた」。

とあるように、経営者やリーダーが人や組織をマネジメントし、成功へと導いていく上で、人の感情に寄り添い、上手にコミュニケーションをとることで個々のストレスを緩和させながらパフォーマンスを最大化していくことの重要性が高まっていると言えます。

このように、あらゆる世代、あらゆる環境に身を置いている人たちが抱えている強いストレス。
ストレスが自分の生活にダメージを与えていると認識しつつも、何らかの対策をしっかりと行っていたり、未然に防ぐような方法を実践している人は意外と少ないのではないでしょうか。

■不安やストレスと上手に向き合うためのコツ

一方で、仕事をする上で完全にストレスを切り離すことはほぼ不可能ですし、ある程度のストレスやプレッシャー、緊張感は、良いパフォーマンスを発揮するためには必要不可欠です。

過度にストレスを溜め込まず、上手に向き合うためのポイントを挙げてみます。

●自分の健康に対する自己認識力を向上させる
→一般的によく言われるのは「睡眠・運動・食事」のリズムを整えることです。特に睡眠不足がメンタルに与える影響は大きく、睡眠不足だと自律神経が乱れ、落ち込みやすくなったり、イライラしやすくなったりと、確実に心身ともに不調を引き起こしやすくなります。運動や食事も同様ですが、「自分がどのような状態になった時に体調がどのように変化するのか」、その場合に「どのような対処法が自分に合っているのか」を、まずはしっかりと自己認識することが重要です。

●思いきって環境を変えることも大事だが、自分が変われる可能性も模索する
→今の職場の環境や風土、人間関係に悩みを抱えていたり、仕事に馴染めない時は環境を完全に変えるという選択肢も当然ありますが、まずは、自分が何か変えられる部分があるかを模索しようとすることが大事だと思います。環境変化に適応していくためには、ストレスの根本的な原因を取り除くことが重要ですが、何も歩み寄らないまま、嫌なもの、苦手なものを全て遠ざけていても、自分でも認識をしていない得意なことややりたいことなど、新しい発見や気づきを得る機会までもが失われてしまいます。

●不安を払拭し、自信に変えるプロセスを踏む
→仕事上抱えている悩みを誰かに相談することに心理的なハードルがあり、分からないことを「分からない」と言うことが苦手な人も多いです。困っていることを素直に周囲に伝え、サポートをしてもらうことや教えてもらうことで初めて、それまでできなかったことができるようになっていきます。その過程で少しずつ不安な気持ちを自信に変えていくことが重要であって、逆に言うと、不安が一切ない仕事からは、自信は身に付きません。

●抽象的な考えや感情を具体的な課題へと昇華させる
→今、自分が向き合っている状況を踏まえて、その時々の感情や思考を吐き出す、または書き出すというアクションを取っている人がいると思います。ネガティブな感情を全て吐き出すことで、曖昧だった考えが整理され、具体的な課題へと昇華していくのです。その後は、課題が明確になった分、どのように解決していけば良いのか、アイディアを考え始められるようになっていくはずです。また、その際、今「できそうなことと、できないこと」、「やることと、やらないこと」を明確に仕分けた上で、手を付けられそうなことから始めてみると良いと思います。

●“想定外”を受け入れる
→全ての事に対して「なんとかなるだろう」「絶対にうまくいく」と前向きに捉えられる人も中にはいるかもしれませんが、多くの人は「何かよくないことが起こったらどうしよう」というような漠然とした不安を抱えることはよくあります。楽観的な人にも悲観的な人にも、誰にでも時として想定外のことは必ず起きます。その時に慌てたり思考停止になるのではなく、その事象を受け入れ、「ではどうするか?」という思考に切り替えられるかどうかが、不安やストレスを自分の味方にしながら上手に取り入れていく一つの方法ではないかと思います。

●すぐに解決できることと、すぐには解決できないことがあると理解しておく
→不測の事態に備えて、万全な準備が常にできていれば一番良いのですが、なかなか難しいはずです。有事の際に、すぐに解決できることもあれば、長く時間がかかるものもあります。解決できないままの状態でいることに、余計不安や焦りが募っていくこともありますが、時には時間をかけて「対処できる機会を待つ」ことも、一つの有効な解決策であることを理解しておくといいと思います。

●物事を合理的に捉えるトレーニングをする
→物事の捉え方や感じ方は、個々の性格や価値観、それまで育った環境によるものが大きいですが、後天的に“捉え方”を変化させていくことは可能だと言われています。たとえば、仕事でミスをしたり成果が出なかったとしても、後ろ向きにならず「失敗から学んだことを次に生かそう」とポジティブな思考ができるようにトレーニングをすると、感情やその後の自分の行動をコントロールしやすくなります。自分で「コントロールできることは、合理的に考えてアクションをする」、「コントロールできないことは、くよくよと悩まない」というような、思考の仕方を工夫するとストレスを溜めにくくなるはずです。
 

ストレスを“なかったことにする”、“気づかないフリをする”、“一時的に発散する”というような状態は、決して根本的な解決にはつながりません。今の時代は、良くも悪くもストレスに対して一定の耐性ができてしまっていて、自分では気づかないうちに危険なレベルのストレスを抱えていることが多いのではないかと思います。特に真面目な人ほど、完璧な状態を求め過ぎたり、身体が悲鳴を上げていても我慢し続けてしまうことで、心が壊れてしまうまで気づかないことも多々あります。心身ともに危険なサインを見過ごさず、根本的な解消に向けた適切な対応をすることが重要です。

■企業がメンタルヘルス対策について抑えておきたいこと

職場において良好なメンタルヘルスを保てていれば、社員が離職せずに長く働くことができ、高いパフォーマンスを発揮することができます。その逆に、心身ともに不調が生じる職場環境では企業の成長や発展は難しくなります。

基本的に企業が取り組むべきは、
①   メンタルヘルス不調を未然に防止する
②   メンタルヘルス不調を早期に発見し、適切な措置を行う
③   メンタルヘルス不調となった社員の職場復帰支援を行う
という3段階ですが、具体的に企業が抑えるべきポイントを以下の通り挙げてみます。

●職場環境を正しく把握する(できるだけリアルタイムに)
→「職場環境の把握」と言っても、それは社員の労働時間や仕事量、業務負荷、責任の重さや顧客からのプレッシャー、周囲との人間関係、目標やその進捗の管理状況など多岐に渡ります。これらの現状を的確に把握し、何を優先的に改善すべきかを考えることが大事です。しかもその際、社員のコンディションは目まぐるしく変化していくことを前提として、介入すべきタイミングを逃さずに最新情報をキャッチしなければなりません。情報網を張り巡らすのも、定期的なコミュニケーション機会を作るのも良いですが、「情報を自ら取りに行かなくても勝手に上がってくるような仕組みを作ること」が有効ではないかと思います。

●社員のストレス度合いをデータに基づき把握し、分析し、改善する
→労働安全衛生法の改正に伴い労働者が50人以上の企業はストレスチェックが義務化されていますが、このようなストレスチェックで「現状のストレス度合いや精神的な負担・負荷を本人が理解した上でセルフケアに生かす」ことや、「高ストレス者に対して、企業が産業医面談を実施し、適切な指示やアドバイスを行う」ことによって、不調を改善することができます。結果をもとに個別に原因を把握し改善に向けて対処していくことはもちろん、会社全体や部署ごとに傾向や原因を分析・特定することで、労働環境の改善にもつなげることができます。ストレスチェックなどを“実施”するだけでは意味がなく、“活用”することが重要です。

●社員がメンタルヘルスに関する正しい知識を身に着けることをサポートする
→社内の一部の専門部署だけが社員のメンタルヘルス対策を講じていても、部下の異変に早期に気付いたり、正しい対処法を取ったりすることに限界があります。社員自身が正しい知識を身に着け、会社全体で共通認識を持つことで、実際にメンタルヘルスの保ち方や向上の仕方を学び、実践で生かすことができるのです。

●いざという時の相談先を確保し周知する
→特に管理職には、不適切なマネジメントやハラスメントがメンタルヘルスに影響を与えることを十分周知する必要があります。そもそもなぜメンタルヘルス対策が必要なのか、その重要性をしっかりと伝えることも大事です。社員には、何かあった時の相談先や、相談後の支援体制なども明確に伝えておくと良いでしょう。人間関係の問題から業務に関わる悩みなど、上司や同僚に相談しづらいことも一人で抱え込まなくて済むような体制があること自体が社員に与える安心感や心理的安全性は大きいはずです。

●休職後の職場復帰を全面的に支援する
→実際に不調に陥り休職してしまった社員が復帰できるようにサポートすることも大事です。休職者は職場復帰に向けて不安を感じているケースが多いため、産業医や専門家の意見を取り入れながら、手厚く復職までのサポートをすることが求められます。また、復帰後に無理をさせないような業務面でのケアやフォローも、部署側と連携しながら丁寧に行う必要があります。休職を経て復帰する社員が、どのような部署やどのような形なら復帰しやすいかを慎重に判断していき、その成功事例や、時には失敗事例から得たことを蓄積し、ナレッジ化していくと良いと思います。

最後に、こちらの記事には、

英国でうつ病などによる離職者が急増している。病気で働けない人は2023年10〜12月期に過去最多の280万人にのぼった。新型コロナウイルス感染の後遺症や働き方の変化が影響しているとみられ、人手不足が深刻になっている。

とあり、イギリスでは「離職者の急増」と、「長期疾病を理由とした未就業者の増加」が大きな問題になっているようです。働きたくても働けなくなってしまった人の多くがうつ病や神経症、不安症など心の病気であるとの分析もあります。記事にあるようなコロナ感染の後遺症も理由の一つですが、これだけ就業率が低下しているということは、それ以外にもあらゆる“ストレス”が何らかの形で確実に影響していることは間違いなく、そしてそれは、日本人には全く関係のない話でもありません。

市場構造やビジネスモデルの変化、仕事内容や働き方の変化も大きいですが、就業観の変化、人間関係の変化、コミュニケーションスタイルの変化、デジタル技術やテクノロジーの変化など様々な要素が掛け算されて、最初は小さな不安やプレッシャーが時間とともに気づかないうちに大きなストレスとなり、就業そのものを諦めざるを得ない状態にまで至ってしまうことも珍しいことではないのかもしれません。自分は「ストレス耐性が強く、どんなに精神的な負荷がかかっても大丈夫」と思っている人であっても、いつどこで誰が急に不調をきたしてもおかしくないのです。
 
職場でのメンタルヘルスの重要性が指摘されるようになって久しいですが、企業がどんなに長時間労働の是正に注力したり、働き方の多様化を推進したりしていても、ストレスによって心を病む労働者は今だ絶えません
企業のメンタルヘルス対策は、社員の精神的健康を維持・向上させるだけでなく、生産性向上や職場環境の改善、満足度やエンゲージメントの向上など、多くのメリットをもたらします。

企業全体のパフォーマンスを向上させるためにも、改めてメンタルヘルス対策を効果的に推進することの重要性を企業として直視し、総合的かつ継続的に取り組んでいく必要があると思います。


#日経COMEMO #NIKKEI

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