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株式会社の歴史は、コーポレートガバナンスの歴史

12月決算の企業の株主総会が、この1週間、次々に開催された。

記事の見出しにある「女性・外国人の役員」は、コーポレートガバナンス・コードに明記された指針だ。

この、「コーポレートガバナンス」という概念が現在の形で整理され始めたのは、1992年イギリスの Cadbury Reportからだという。日本でコーポレートガバナンス・コードが制定されたのは2015年。私も「ガバナンス」という概念は、2000年以前は聞いた記憶がない。

では、それ以前はコーポレートガバナンスは課題ではなかったのだろうか。ふと気になってウェブ検索程度の情報収集をしてみた。そうしたら、意外な「株式会社」の歴史を知ることとなった。

意外というのは、例えば、こんなトリビア。

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アメリカ資本主義の権化のようなイメージがあるロックフェラーも、カーネギーも、株式会社を作ってない。資本主義と株式会社の存在は必ずしも同義ではない、というのがまず新鮮。しかも株式会社という存在が違法だった、というのもなかなか衝撃的だ。

なぜ株式会社は違法だったのか。歴史を紐解いてみた。以下、簡単に調べただけなので、間違いや重要事実の漏れがあるかもしれない。お気づきの点があれば、コメントしていただけると、うれしいです。

まず、株式会社の原型となったのは、オランダやイギリスの「東インド会社」だ。どちらも特別法のもとに設立され、独占権を認められた勅許会社 (chartered company) で、形態としてはjoint-stock company、つまり株式会社と考えて良い。どちらも独占的に植民地経営をして、巨額の富を生み出した。

イギリスは1711年、同じ方式の「南海会社」を設立する。スペイン植民地だった南米の貿易を独占的に行う会社だ。ところがスペイン政府が事実上この会社を地域から締め出したため、事業の実態はないに等しかった。しかしこの事実は知られることがなく、事業の成長期待から株価は大きく上昇。投機ブームとなり、便乗して多くの怪し気な株式会社が設立された。これに対しイギリス議会は、1720年に泡沫会社禁止法(Bubble Act)を制定。国王の勅許か議会の承認を得ていない会社が株式を発行することを禁止した。この法律は南海会社の独占権を保護するためだったとの見方もあるようだが、同法を機にバブルが崩壊し、南海会社の株価も下のチャートの通り急落。事業実態がないことが明るみに出ることとなった。

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これ以降、株式会社とその経営者は「非倫理的な存在」だという考えが主流となる。アダム・スミスは「国富論」(1776年)で、個人事業に比べると、株式会社方式は経営者が他人のお金を預かる点で怠慢になりやすい、と指摘しているそうだ。イギリスで泡沫会社禁止法が廃止されたのは1825年、現在の会社法の原型となる法律が制定されたのは1844年、そして有限責任が認められたのは1855年。産業革命の進展に伴い、事実上、株式会社のような形で運営される事業が増えていた。その実態を法的に認めないと、実務上の支障が大きくなっていたからだ。

アメリカはイギリスの植民地から1776年に独立した。当時の株式会社に関する法体系や考え方はイギリスにならっていた。19世紀前半から、現在の株式会社に近い法人設立が可能な州が出てきた。しかしそれは一部の業種に限定されており、議決権は1株1票ではなく、株主一人が1票(*)だった。カーネギーは製鉄事業を有限責任組合(limited partnership)として、ロックフェラーは石油事業を信託として組織した。株式会社にしなかったのは、彼らの望む経営形態を株式会社で実現すると、違法になるからだ。

このように歴史を少し紐解いてみて、株式会社の歴史は、すなわちコーポレートガバナンスの歴史だったことが分かってきた。元々、株式会社は信頼されてなかったのだ。所有と経営の分離なんて、詐欺師のスキームみたいなものと考えられていた。産業革命によって、大規模な資本を必要とする事業が社会に価値を創出するようになり、必要に迫られて仕方なく認められた仕組みなのだ。「所有と経営の分離」がもたらす「エージェント問題」は、ビジネススクールで理論的な概念として習ったが、実は18世紀からの歴史事実に根ざしたものだった。

株式会社は、ツールだ。便利だが、構造的な欠陥もある。150年程度の歴史の中で、少しずつ改良を重ねてきたが、まだ発展途上だし、使い方の工夫が必要だ。コーポレートガバナンスコードは、コーポレートガバナンスの目的を次のように定めている。

「会社が、株主をはじめ顧客・従業員・地域社会等の立場を踏まえた上で、透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を行うための仕組み」

コーポレートガバナンスコードは、社会が株式会社というツールをうまく使うための、今現在の指針なのだ、と理解した。

今日は、以上です。ごきげんよう。


(*) 1株1票の原則も、事業を誘致したい州が、資本家の要望に答える形で法制化した経緯がある、という論考もある。


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