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祝祭感なき「芸術祭」「映画祭」に問われる真価

今週とても嬉しいニュースが2つ舞い込んで来ました。

1つ目は「芸術祭」。

やっと正式にこの発表が出来ました。
本業であるMOTION GALLERYの仕事と並行して、キュレーターとして大凡2年ほど関わってきたものの、春開催予定だったのがコロナ禍で開催無期限延期となり凍結していた『さいたま国際芸術祭2020』が、遂に開催の運びとなりました。本当に嬉しいなあ。

一時は、(もう作品もできているのに!)開催中止という最悪の事態も考えられ、みんなで苦悶してましたが、まずは開催できることになって本当に良かったです。
とはいえ、感染拡大防止の為に、開催規模や形式は大きく変わっています。オンラインでも芸術祭を行う形になりました。
家でも見れる芸術祭ぜひ楽しんでほしいです!
オンラインは2020年10月3日(土)-11月15日(日)[44日間]
オンサイトは、2020年10月17日(土)-11月15日(日)[30日間]
です!

来月、芸術祭が開幕しましたら、ぜひここで芸術祭のテーマや、何故私がキュレーターとしてこのアーティストにお声がけさせて頂いたのか、どの様なコンセプトで作品制作を進めて来たのかなど、作品解説も含めて担当作品のご紹介をしていければと思います。お楽しみに!

2つ目は「映画祭」。

昨日、10月31日から開幕する第33回東京国際映画祭のラインナップ発表があり、私がプロデューサーしました映画『鈴木さん』(監督:佐々木想、出演:いとうあさこ、佃典彦)が「TOKYOプレミア2020」に選出されました!

そして同じく「TOKYOプレミア2020」に、MOTION GALLERY でクラウドファンディングを行った作品である、内山拓也監督「佐々木、イン、マイマイン」、船橋淳監督「ある職場」という2作品が選出されました!「Japan Now」部門で上映される深田晃司監督「本気のしるし(劇場版)」を合わせると、MOTION GALLERYが関わった4作品が東京国際映画祭で上映される事となりすごく嬉しいです!

共通しているのは祝祭感の”低減”

さいたま国際芸術祭も、東京国際映画祭もこのコロナ禍で開催自体が危ぶまれていたなかで開催に漕ぎ着けたことが本当に凄いなと思いますし、その実現に尽力されてきた方々には本当に頭の下がる思いです。

この状況下で、それぞれの開催に至るまでのお話など色々と聞いていると、感染拡大防止措置や対策の徹底の為にプログラムをかなり変更していることはもちろんのこと、祝祭感を低減することも、開催の必須事項となっていたと感じます。

さいたま国際芸術祭では、オープニングレセプションは実施しなくなり、また接触機会が増えるコミュニケーションを伴う作品の見送り、芸術祭自体の開催規模縮小などなど、いわゆるみんながイメージする「トリエンナーレ」からは大分離れたものでの開催になりそうです。特に個人的には分かりやすい事例として感じたのは、この壁画((泣))。

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コロナ禍が広がる前、そう今年春開催を前提に動いていた頃、事前告知を兼ねて芸術祭のメイン会場となる「旧大宮区役所」で掲示が始まっていたこの壁画が、今はもう無くなっています。そして開幕しても再度掲示されることはないとのこと。。。悲しい。

一方で、東京国際映画祭の方では、映画祭の2つの大きな華といえる、「レッドカーペット」、そしてコンペの開催もなくなりました。

10月31日に開幕する東京国際映画祭が6日、賞を競うコンペティションの見送りを発表した。コロナ禍で国際映画祭に必要な外国人審査員の来日が難しいことが大きな理由だ。

2年前の東京国際映画祭ではレッドカーペットを歩かせて頂きましたが、映画祭の華だなあと実感していたので、少しさみしいです。

この様に、「祭り」なんだけども祝祭感を頑張って抑えようとされているのは、密集や密接を生み出してしまうことを防ぐという最優先事項の為に、当然であり色々と開催事務局の方々が考えてくださり祝祭感を押さえたプログラムやプレゼンテーションに再設計されたからこそ、開催を迎えられたのは間違いないです。そして正直、レッドカーペットを歩くために映画をつくっている訳じゃないし、レセプションパーティーを開くために芸術祭に取り組んでいる訳ではないので、本質的にはどうでもいい気もするのですが、無くしてみて始めて気づいた祝祭感、という感じで、いざ無くなってみると、トリエンナーレも映画祭もやはり「祭り」だったんだなあとか、その祝祭感が多くの人の耳目を集め、そしてアートや映画に興味を持つ人を増やしていたんだなあと実感している今日このごろです。

ちなみに海外はどうかというと、やはり同じみたいです。
実は、先日ベネチア国際映画祭で銀獅子賞を受賞して話題になった、映画「スパイの妻」の製作に関わってまして(ぜひ見てね!)、映画祭のコンペティションの当日は現地のライブ配信を、製作委員会メンバーで集まって見てました。

ヴェネツィア国際映画祭では、レッドカーペットはありましたが、それでもやはりそもそも現地に参加出来る人をかなり絞っていて現地に行きたくても行けない受賞者も沢山いました。祝祭感も抑えめ。

”祭り”ではなくなっても開催する価値がある!

観る側としては魅力の多くがなくなってしまった感のある、「祝祭感を抑えたお祭り」ですが、祭りなのにその祝祭感を押さえてでも開催する価値がある、それが芸術祭であり映画祭であると、一方で強く感じています。

映画祭や芸術祭の「お祭り」と並び重要な存在価値、それは通常の活動ではなかなか難しい「経済的価値」を取り払った上で、作品の社会的価値を見出し、そして社会に提言することにあります。それによってアートや映画の新しい歴史が生み出され、そして作家がその作家の作家性を正当に評価される貴重な場所です。

それはひとことで言うと、アートや映画の作家達が「ロングタームシンキング」でクリエイションに向き合い続けられる最後の砦のようなものかも知れません。表現活動までもがすべて近視眼的なもので動いてしまうともう社会がどんどんと閉塞し殺伐としてしまうでしょう。

そう考えても、芸術祭や映画祭が開催される、そのことそのものがとてもとても大事なことだと思います。個人的な感情としても、さいたま国際芸術祭が開催される事になったこと、そしてコロナ禍も相まり製作したけど公開が不透明な作品を抱えたプロデューサーとして東京国際映画祭に選出いただいてどれだけ気持ちが救われたしれません。

そして、この祝祭感を低減して開催することで、むしろ進化を促されたこともあるみたいです。

今年は例年実施していたインターナショナルコンペティション、アジアの未来、日本映画スプラッシュの3部門を統合し「TOKYOプレミア2020」部門とする。世界初上映やアジア初上映の作品を中心に約30本を選ぶ。賞は競わず、観客が投票で選ぶ観客賞だけを設ける。
これに合わせ作品選定の方法を抜本的に見直す。従来の部門ごとにプログラミング・ディレクターを置く方式を改め、外部の専門家を交えた「作品選定コミッティ」による委員会制を導入する。メンバーは、事務局内のプログラマーの石坂健治、矢田部吉彦と、外部の専門家である安藤紘平(早大名誉教授)、市山尚三(映画プロデューサー)、金原由佳(映画ジャーナリスト)、関口裕子(同)の計6氏。より幅広い知見と人脈を生かし、多様な価値観を反映させる。

今回、僕がプロデューサーを務めた映画『鈴木さん』を選出頂いた部門がこの「TOKYOプレミア2020」なのですが、賞については観客の投票で決める「観客賞」のみというこれまた新しい方式となるそうです。

「コンペを持つかどうかは、映画祭のある種の顔とも言われる。本来の映画祭の目的を明確にしようとした時、映画祭の1番の核になる部分にとって、賞をもらうことは必要なんだろうかと、もう1度、立ち返って考えるべきではないだろうか?」
「日本映画の豊かさ…そこに、げたを履かせて頂いて、僕の映画が評価されている。長い映画の歴史を持っている国は、比例して良い映画祭を持っている。東京国際映画祭がそれ(日本映画の歴史)に見合っているか疑問だった」
「映画祭が映画に賞を与えるという場所、という認識が皆さんの中にも多く、結果だけが注目される状況がある。でも参加して感じる映画祭の豊かさは、そことは違う。映画祭の豊かさを伝える時、もしかしたら(賞を与えるコンペティション部門は)ない方が、映画祭に参加する人は考えやすいのではないか?」

昨日の東京国際映画祭の記者会見に登壇した是枝監督のこれらの言葉、なるほどそうなのかと勉強になる言葉多く、そして今回の「観客賞」のみという決断が、これまで、釜山や上海などと比べて、世界的な地位がとしてあまりに低い低いと日本の映画人を悲しませていた東京国際映画祭が躍進するきっかけになるのかもしれないと明るい気分にもなりました。
(東京国際映画祭のお披露目の場に、登壇者として呼ばれた上で、こんな発言をずばずば言える是枝さんは本当に凄いなとしか言いようがないけど)

そう考えると、祝祭感が無くなった芸術祭・映画祭は、そもそもの本来の目的や価値に研ぎ澄まして再考しなくてはいけない訳なので、逆にいうと本質に迫って大きな進化を遂げるいい機会なのかもしれません。

東京国際映画祭に関しては他人事なので、「なるほど〜」とか言ってられたけど、さいたま国際芸術祭に関しては他人事ではないので、キュレーターという立場で出来うる範囲でなんとか真価を実感してもらえるものにしなくてはと強く思いました。

開幕が迫ってきて、今まさに作品のインストールやら何やらですごく忙しくなっていますが、がんばります。楽しみにしてください!

頂いたサポートは、積み立てた上で「これは社会をより面白い場所にしそう!」と感じたプロジェクトに理由付きでクラウドファンディングさせて頂くつもりです!