「発想法」と「アーティストの思考」の違い
「デザイン思考」の次は「アート思考」だ!と、言われ始めて数年経ちますが、いまだにアート思考とは何か?という定義、アート思考に対する社会の評価は定まっていません。
ぼくはアートエデュケーターとして様々な企業組織の人材育成や組織開発に携わる側、子どもとのワークショップの設計・運営を行っていますが、ビジネスの文脈における「アート思考」の定義には難しさを感じています。
日経新聞では、さまざまな角度からアート思考についての検証が重ねられており、非常に興味深く読んでいます。
「アート思考」というと、ブレインストーミングやユーザーリサーチなどのように具体的な方法があるのか?汎用性の高いやりかたがあるのか?と思いたくなります。
ぼくが最近読んだ本で、まさに「アーティストの思考の変遷プロセス」を心理学者が10年以上かけてたどった本があります。それが「創造するエキスパートたち アーティストと創作ビジョン」です。
このなかで、よくビジネスで用いられる「創造的発想法」とアーティストの思考はどのように異なるのか?を解説されている部分がありました。この点、非常に面白かったのでこの部分を参照し考えたことを書いてみます。
ブレインストーミングなどの技法は、アイデアに行き詰まった状況で、すぐに、誰もが用いることができる方法として提唱されています。もちろん、ブレインストーミングのやり方は個々人の暗黙知がありますが、方法自体は汎用的であるといえます。
一方で、アーティストの思考は、すぐに、誰でも用いることができるわけではありません。そのアーティストがコンスタントに創作・発表を続り、それらの作品が多彩かつ一貫性のある作品群になるように、長期的に練り上げられていくものです。
「アーティストの思考法」というと、岡本太郎の「対極主義」や、マルセル・デュシャンの「レディメイド」などさまざまに思い浮かびますが、これらの方法は誰もが簡単に用いられるものというよりは、太郎やデュシャンらの制作やコンセプトにおける試行錯誤に加え、自己意識への内省から生まれてきているものであると言えるでしょう。
私たちがアーティストのように考えることが可能だとすれば、誰か特定のアーティストの思考法をじっくり学んでみるのがいいかもしれません。
絵の描き方や作品のつくりかたを真似してみて、その思考法の真髄を自分なりに解釈してみる。その後、自分自身の創作テーマを省察しつつ、学んだ方法を取り入れてみる。そうすることでアーティストの思考法が、少しずつ、時間をかけて生成されていくでしょう。