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AIの時代に、そもそも「アイディアを磨く」必要があるのか、を考えてみる

アイディアの磨き方というテーマに対して、いきなり疑問を投げかけるようだが、アイディアを出すことは必要だとしても、それを磨く必要があるのか、という疑問がよぎったので、考えてみたい。

私がかつて働いていた広告業界では「コピーライター」という職種があり、その人がアイディアを磨いて一発必中の「これは!」といったキャッチコピーを作り出し、それが評価されることでスタークリエイターなどと言われたりもしていた。多くの人が名前を知るところで言えば、糸井重里さんなども、かつてコピーライターとして名を馳せた人である。

ところが、こうしたスタークリエイターをはじめとしたコピーライターに大きなお金を払うことができず、また一方でデジタル広告の進展によって、それまでよりも多数の広告コピーを作らなければならない状況の中で、特にスタートアップと呼ばれる企業を中心に「ABテスト」という手法が広まり、コピーライターに頼らずに広告のキャッチコピーを作るようになった(もちろん、ABテストは、キャッチコピーだけでなく、デジタルマーケティングで広く使われるようになっている。)

つまり、何種類かの広告コピーを作り、それに対して反応が良かったもの、つまり広告の目的を達成したものをデジタル広告ならではのデータによって素早く計測し、良かったものを残してダメだったものは使わなくしていくといった手法だ。そしてさらに良いと思われるものがあればそれを出し、それまでのものと比較してさらに良かったものを残していく。これによって、コピーライターのいわば職人芸によって一発必中の素晴らしいアイディアが出なかったとしても、一定の成果は上げられるようになる可能性がある。また、常に新たなコピーを加えることによって、その成果をアップしていける可能性が高まった。このようにして、コピーライターに大きなお金を払うよりも、試行錯誤していく中で実績を生み出す方がコスト効率が良いということで、この手法が広く使われるようになったと理解している。

そうこうするうちに、AI、特に生成AIの急速な発達によって、コピーライターの世界にも大きな変革が起きようとしている。スタークリエイターを抱えていた大手広告会社の電通が、生成AIをコピーワークに取り入れるというニュースがあった

そして今、AIは単に文字としてコピーを書く作業だけでなく、画像を生成したり、動画さえも作る取り組みが進んでおり、その発達も急速なものになっている

これまでは文字のコピーワークで行われてきたことが、例えばテレビCM自体を作ることや、番組自体を作ることといったことに応用される日も遠くないのかもしれない。

このように考えると、人間が頭に汗をかきながらアイディアを磨くといったことに、今後どれだけ価値を付け加えられるのだろう、と思う。

アイディアを磨くという場合、これまでは、言ってみれば戦術レベルの具体的な目標や、やらなければいけないことが決まっていて、それに対するアイディアを考えるといったケースが多かったのではないかと思う。しかし、これまで述べてきたように、わかりやすい具体的なものを形にするのであれば、AIがその大きな部分を解決する時代になってきている

そうであるとすると、人間がやるべき仕事は、戦術レベルのアイディアを出したり磨いたりすることよりも、その一つ手前の戦略レベルのアイディア、「メタ・アイディア」とでも言うべきものを生み出し、磨くことになっているように思う。なぜアイディアを出さなければいけないのか、どんなアイディアが必要なのかといった、そもそものアイディアを必要とする構図をどう定義し、そこで求められるアイディアとは何かをはっきりさせてAIにアイディア出しを指示することになっていくのではないだろうか。

その意味では、目先のアイディアを考えたり磨いたりするよりも、より広く状況を俯瞰して捉えることが必要になる。上の例で言えば、コピーワーク自体のアイディアを磨くのではなく、そもそもABテストで解決するというアイディアが大切になる、ということだ。

これは何も広告のアイディアに限ったことではないと思う。生成AIに思ったような結果を出してもらうためには、こちらから的確にAIに対する指示を出さなければいけない。いわゆる「プロンプト」をどう書くかというアイディアが必要だということだ。

このように、求められているアイディアの出し方や磨き方が、これまで人間が行ってきたアイディアを出したり磨いたりするということよりも、一つ手前の部分、あるいは上位の部分で重要になってきている、そのようにシフトしてきているということを意識しておきたいと思う。

そのためには、これまで以上に幅広く物事に興味関心を持ち、一見関係がないと思われる分野についての知識や経験をも取り入れて生かしていく、遠くを見る、俯瞰する、といった能力が一層必要になっていくだろう。

その意味では、アイディアはすでに人間が磨くものではなく、むしろ「メタ・アイディア」を磨く時代に入ってきていると考えている。

#COMEMO #アイディアの磨き方

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