観光客を「支援者」に ~バーチャルツアーは京都を変えられるか
観光客のいない京都は、市民にとって、ほんとうに贅沢なまちだ。近所の公園に行くように、ふらっと世界遺産を散歩できる。30分ほど車を走らせれば、自然豊かな山と川、地産地消のお野菜を堪能できるカフェ、そして苔の美しいお寺を散策できる。
オーバーツーリズムが戻らなくても、京都が経済的にも文化的にも持続可能になる方法はないだろうか。
バーチャルツアーという潮流
バーチャルツアー、オンライン体験など呼び方はさまざまだが、ステイホームが続くなか、世界中でインターネットを使った「もう一つの旅の形」が広がっている。
一つの形が、名物観光ガイドの方たちが、オンラインで世界の観光客に対して、あたかもほんとうに旅をしているようなガイドを提供する形だ。実際に観光ガイドを生業にしている人が提供するので、「リアルに旅しているような経験」ができる。京都でも、オンライン体験が世界に発信されている。
もう一つの形が、バーチャル空間上に観光地がマッピングされ、そこをクリックしながら散策し、専門家やローカル住民の話を聞きながら進んでいく「セルフガイドツアー」だ。
次の日経の記事で、京都の錦市場商店街もバーチャル空間上に再現され、セルフガイドツアーが可能になったことが報じられた。電子商取引(EC)との連動もあり、錦市場の独特の細くて真っ直ぐな道を進みながら、商店をのぞきつつショッピングも楽しめるようになっている。
論より証拠で、次のリンクからアクセスしてみてほしい。Googleストリートビューのような感じで操作できる。
錦市場商店街の持続可能性とは何か
さて、バーチャルツアーは京都を持続可能なまちにできるだろうか、という問いに戻ろう。経済的視点に偏って持続可能性を考えることは危険だ。たくさんの人が訪れればいい、ものがたくさん売れればいいと考えてしまうと、その地域が持つ文化資本を棄損してしまうことにもなりかねない。
現実に、ネット上には「錦市場の食べ歩き」についての情報があふれているが、地元の人は「錦市場で食べ歩きをしてほしくない」と考えている。
錦市場を持続可能なまちにするには?という問いに答えるには、まず「錦市場商店街にとっての持続可能性」とは何かを定義しなければならない。オーバーツーリズムと言われてきた京都の中で、錦市場商店街も多くの観光客でごった返していた。経済的には、とてもうまくいってきたわけだ。そして、近場に住んでいるわけではない観光客のニーズに応えるため、商店街の多くのお店が「一口サイズの串」を用意するようになった。それが、食べ歩きの文化を推奨しているような誤解を与えてしまったことで、「観光地化」が進んでしまった。
そもそもの錦市場を知るために、錦市場商店街の語り部たちの証言は一読の価値がある。400年の歴史のある錦市場は、戦後の京都の胃袋も支えてきた。その後、細くて真っ直ぐに伸びる商店街の形状を活用し、ファッションショーも開いた。このようなイノベーティブな商店街であるからこそ、その「伝統と文化」をいかに持続させていくかということが、「錦市場の持続可能性」として見逃すことはできない。
「観光客」から「支援者」へ
「錦市場を持続可能なまちにする」には、こういった錦市場の伝統や文化を理解し、大切にしたいと思う人が地域の内外に増えていくことが大事だ。もちろん、商店街の構成メンバーもそうだし、地域住民も、観光客も、重要なステークホルダーだ。
観光客が、関係人口として地域に関わり続けることの重要性は、何度となく語られてきた。しかし、どう地域に関わればいいのか、観光客からするとよく分からないのが現実だ。そこで参考になるのが、クラウドファンディングの「支援者」という枠組みだ。クラウドファンディングでは、何かを実現したい「実行者」がまず想いと、具体的なプロジェクト、そして「どう支援してほしいか」や親切にも「リターン」まで明確に開示する。ここまでお膳立てしてもらえれば、どう支援者になれば良いかは一目瞭然である。
これからの観光は、クラウドファンディングのように、地域の想い、具体的な取り組み、そしてどう関わってほしいのか、どう支援してほしいのかを明確に発信すべきではないだろうか。それによって、観光客を支援者に変えていくことができるからだ。
このような活動を京都の中のそれぞれの地域で広げていくことで、観光客を支援者に変えていくことができれば、京都は圧倒的多数の支援者を擁する地域になる。そして、京都の各地域がバーチャルツアーを含め、「実際に訪問しなくてもつながり続ける仕掛け」を多数用意していけば、「観光客のいないビジネスモデル」を京都は確立することができるかもしれない。
このような取り組みの先に、真の「関係人口」が生まれるのではないだろうか。そして、将来的には関係人口みんなが「第二市民」として市政参加できるような、政治の新しい形にも発展する可能性もあるだろう。京都がそんなオープンな都市になっていく可能性を「支援者型の観光」は持っている。