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"レジリエンス“について考えさせられた経済ニュース3選!~意思決定と回復力~

 新型コロナウイルスだけでなく、九州や中部地区の大豪雨による、私たちへの影響が懸念されています。前者は、経済再開と感染症対策のトレードオフの壁もあり、世界レベルで経済損失は2年で約1300兆円との試算もでています。これは、日本の経済規模の約2.5倍が失われる懸念を示しています。後者は、世界レベルでは災害による経済損失は年々増しているの報告もあり、被害がどこまで広がるか懸念されています。また、このような想定外の現象は、リーマンショックなど金融市場でも頻繁に起きつつあるとの指摘もあります。だからこそ、想定外のリスクに対してレジリエンス(回復力)を高める土台作りが求められます。危機が起きた時の対処だけでなく、危機からの回復速度を高めるための土台です。今回は、それに関連していると考えられる経済ニュースへの考察を記載していきます。

*気候変動とレジリエンス

九州の記録的な大雨による被害は自然災害への備えが不十分な現実を改めて突きつけた。死者が最も多い熊本県が標榜していた「ダムなし治水」は整備が間に合わず成果を出せなかった。気候変動で災害リスクがかつてなく高まる中、実効性の高い治水対策への練り直しが急務だ。

 記事中では、ダム建設が撤回された経緯と、ダムに依存しない整備が進まなかった背景が記されています。治水の重要性だけでなく、自治体予算におけるインフラ投資の優先順位についてはもちろん、その意思決定者に票をいれる有権者としても考えさせられる、とても悲しい出来事です。命あってこその経済です。

 加えて、民間セクターへの影響をファイナンス視点から考えてみます。社会インフラ企業のJR九州は、この災害により巨額な財務負担が懸念されます。同社は米アクティビストから更なる株主還元(配当や自社株買いなど)を昨年から要求されていました。しかし、米アクティビストに賛同ありきでなく、コロナや災害から、社会インフラ企業が現預金を持つ妥当性が投資家間で醸成されつつあると見ます。実際、米アクティビストの同社への株主提案は、2020年の最大賛成率は30%近辺と昨年から低下しています。投資家からも、社会のレジリエンスの要になるインフラ企業に対して、現金ばらまきによる株主還元への過剰期待は落ち着き、資本市場の在り方を考える契機になるのではと見ます。


*雇用対策について

米マイクロソフトは30日、新型コロナウイルスの影響で失業した人に対し、再就職に必要な技能教育を始めると発表した。2020年中にIT(情報技術)関連の講座を世界で2500万人に無料提供する。潜在顧客を増やす狙いだが、コロナを経て労働市場が求めるスキルが変化している様相も映す。

 パリで生まれた全部無料のプログラムスクール42を想起させる取り組みです。宮川(2020)では宿泊業やサービス業での連鎖倒産や失業増の可能性を指摘しており、失業率の上昇が予想されます。しかし、伸びしろのある他業種にスイッチングするにしてもスキル課題があるかもしれません。私も急に他に行けと言われたらスキル課題山積です。そこで必要な国の施策が、経済ショックからレジリエンスを強化するためにも、失業手当だけでなくスキルアップ機会の提供です。これまでは国が行なってきた施策でしたが、マイクロソフトの事例を見ると、意思決定の早い民間企業だからこその施策かもしれません。もはや、国だけでなく、企業が従業員確保も兼ねて、経済ショック時にスキル習得の場を提供することは増えるかもしれません。


*企業戦略について

 この環境で業績が堅調または好調な企業は、コロナ前からリスク対応が進んでいた企業が多いと見ます。ニトリの過去を振り返ると、増収増益基調を継続しているだけでなく、それを見越して配当及び配当性向も右肩上がりで、消費者だけでなく投資家からも人気です。そして、ニトリなど今回のコロナショックを特需に変えたBtoC企業の特徴は、そもそもECや人材投資に力を入れていた企業が多いように感じます。もしも備えて、販路を分散させるのは、企業レジリエンスを高めるうえでも必須なようです。そして、老舗企業ほど新しい取り組みをする際にイノベーションのジレンマに悩みそうですが創業家が経営陣にいるというのも、良い意味でトップダウンが働きやすくその影響が大きいとも考えられます。

以上をまとめると、レジリエンスを強化するには、意思決定の速さが、官も民も求められているのかもしれません。予見できないからこそ、適切な判断を行うためにも。

ここまで読んでくださり、ありがとうございます!

いつも応援ありがといございます!

崔真淑/さいますみ

*冒頭のイラスト画像は、崔真淑著『30年分の経済ニュースが1時間で学べる』(大和書房)より抜粋。無断転載はご遠慮くださいね♪


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