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ハラスメントについて考えるときにオススメの映画・小説

私たちは、自分たちの行動に深く根を張っている「パワー」によって他人を傷つける「ハラスメント」を、根絶することができるのでしょうか?

ハラスメントの対策が大企業では6月から法的に義務付けられています。パワハラ防止対策関連法(ハラスメント規制法・ パワハラ防止法 )というものです。

一方、アップリンクのハラスメントについて訴訟がニュースになっています。高校時代から通っていた映画館だけに、驚き、そして悲しい気持ちになりました。

そして、それに連なるかたちで、知人のデザイナーがかつて所属していた事務所で受けたセクシャルハラスメントについて、facebookで告白している文章を読みました。

ハラスメントの問題は身近に存在します。近しい友人にも、ハラスメントに深い傷を負った人たちもいれば、パワーを行使して人を傷つけている人もいます。ぼく自身も、そういう経験をしたし、今もそうかもしれません。

法的に対策をすれば済むものではなく、これらは「パワー」はぼくたちの行動や身振りのなかに深く根ざしています。こうした問題は心理学や社会学の書籍を読むだけでなく、映画や小説を通しても考えることができます。

ぼくが個人的に参考になったとかんじた3つの作品を今日はご紹介します。

『葛城事件』

2016年の映画です。次男が通り魔事件を起こしてしまった加害者家族の物語なのですが、次男にその事件をおこさせた環境としての家族が描かれています。

(ちょっとえげつないサムネイルですね・・・でも、とても丁寧につくられた映画なので予告編をぜひ👆)

主人公である家族の父、清による、精神を粗いヤスリでガリガリと削りとるような「抑圧」が描かれます。葛城家で交わされる言葉、眼差し、食事や部屋のレイアウトにまで、清の抑圧が行き届いているのがわかります。

殺人者となった次男は、この環境のなかで暴力や絶望を学んでしまったのだということがわかります。父・清の身振り・口ぶりが、次男のそれにそっくりであるというところが、ゾッとするのです。清もまた、その先代からつづく学習環境を引き継ぎ、暴力と抑圧を学んでしまったのだろうと想像させられます。

ハラスメントの問題が、積層した家族史に深く根ざしていること、暴力は学習によって伝承され増幅されることの途方もなさを感じさせる怪作です。

『されど可愛い私の檸檬』

とくに参考になるのは、本書に収録された3つの短編のうちのひとつ『トロフィーワイフ』という作品です。

主人公の姉が、なかば無自覚に、半ば自覚的に、やわらかく周囲をコントロールするプロセスが描かれています。

その過程は「行動経済学」や「ナッジ」など、ポジティブな雰囲気で働きかけることで人をコントロールしていく「力」を想起します。ファシリテーションの負の側面が描かれているようで、ぼく自身身の毛がよだつ思いでよみました。

こわい。たしかにこわい小説なのだけど、この小説は、『葛城事件』のような絶望ではなく、主人公の勇気によって変容が訪れます。楽しんで読んでほしい作品です。

『Disclosure』

先日公開されたNETFLIXオリジナルのドキュメンタリー映画です。

ハリウッド映画が描いてきた「トランスセクシャル」の歴史が、いま活躍するトランスセクシャルの俳優たち、映画関係者らによって物語られるという構成です。

『サイコ』『羊たちの沈黙』といったスリラー映画には殺人者=異常者=異性装者という偏見を生み出す構造があったこと。トランスジェンダーを題材にした『ボーイズドントクライ』『リリーのすべて』などは、トランスセクシャルの当事者たちからどのように見られていたのかということ。

こうした映画史としても面白いのですが、なにより、トランスセクシャルの人たちがこの100年間のあいださまざまな形で差別されてきたのだということが痛切に感じられるのです。

一方で、さまざまな人たちが表現をめぐって差別的な眼差しと闘い、活動する勇気を見て取ることができます。

この映画を通して得られるのは、映画史の変遷を通して「差別や偏見を根絶することははできないかもしれないが、でもこうして社会は変わっていくんだ」ということを”実感”できることかもしれません。

映画好きの人にこそ見てほしい、素晴らしいドキュメンタリーでした。

まとめ

ハラスメントの問題に立ち会うと、暴力は深く、何世代も前から根ざしたもので、重たくどんよりした曇り空に覆われるような気分になります。しかし、だからこそ分かち合うべきは勇気だなと、感じます。

以上、ハラスメントの問題について考えるための参考作品のご紹介でした。

ぼくは現在、ジェンダーにまつわる差別や偏見によって人が傷つく出来事を、学習の力でどのように減らすことができるかという問いに取り組んでいます。

ぜひ、twitterにてハッシュタグ  #常識を考え直すワークショップ をご覧ください。

ご参加いただいたGCストーリーのみさきちさんによるワークショップの感想はこちらです。


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臼井 隆志|Art Educator
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