10周年に寄せて:Minimalチョコレートとは何か?
2014年12月1日Minimalをローンチしてから10年を迎えました。Minimalというブランドが、この10年間を通してどんな経験を紡いできて、どこに向かっているのか。今回はその物語をブランドストーリーとしてお伝えします。これまでのnoteとは違った前代未聞な形式をお楽しみください。
午前12時、ホンジュラスの車上で
見渡す限りの草原と山が続く、デコボコの道を車で揺られながら、永遠に続くかと錯覚する風景をぼーっと見ていると一瞬自分がどこにいるのかわからなくなる。
中米・ホンジュラス共和国。午前12時。第2の都市・サンペドロスーラのラモン・ビジェダ・モラレス空港に降り立ち、チョコレートの原材料であるカカオ豆を買付けにきた。
現地のカカオ生産者組合の車で彼らとランチに向かう車中である。
気温は30度。陽気なスペイン語が車中に響いている。3週間に渡った中米買付の旅の最終目的地だった。思えば、チョコレートという食べ物が、僕をこの全く知らない遠い国まで連れてきてくれたのだ。
Bean to Barの何が新しいか?
2014年に東京・渋谷でMinimal - Bean to Bar Chocolate-(ミニマルビーントゥバーチョコレート)という自工房でカカオ豆から手作りするクラフトチョコレートブランドを立ち上げた。
「チョコレートを新しくする」というビジョンを掲げ、新しいチョコレートに魅せられた僕は、バイヤー兼テイスターとして良いカカオ豆を求めて世界中を飛び回っている。
2010年ごろからチョコレート業界で、Bean to Barと呼ばれる新しい製造スタイルが注目されるようになった。
Bean to Barとはカカオ豆(Bean)から板チョコレート(Bar)になるまで、すべての製造工程を一つの工房で一貫して製造管理するスタイルの事だ。
その何が新しいのか?と思われるかもしれない。
おおまかに言うと、一般的なチョコレートは消費者の手元に届くまで大きく2ステップある。第1ステップはカカオ豆からクーベルチュールと呼ばれるチョコレート生地に加工するステップだ。一次加エメーカーが大量に買い付けて、工場で一気に加工して効率的にチョコレート生地を造る。
その後、第2ステップでは二次加工者がチョコレート生地を使って、ボンボンショコラやチョコレートケーキなどチョコレート加工品に仕上げる。この二次加工者がお菓子メーカーや、ショコラティエ、パティシエと呼ばれる人たちだ。
Bean to Barスタイルはそうした業界の流通構造を度外視して、消費者に販売する造り手が自らカカオ豆を仕入れるところから行い、業界の慣習を打ち破ったのだ。
素材の味がするチョコレート
では、Bean to Barスタイルで造るチョコレートはそれまでのチョコレートと何が違うのか?それは美味しいのか?というのは至極まっとうな疑問である。
僕の考えでは、Bean to Barチョコレートとはカカオ豆の素材の味がダイレクトに反映されているチョコレートだと思う。素材の味がするチョコレートということだ。
Bean to Barスタイルではカカオ豆の産地を指定して仕入れる、もっと言えば農家まで指定して仕入れることができる。当然土地によって、カカオ豆の品種、その土地のテロワール、農家の育て方がすべて違い、厳密に同じ味のカカオ豆はこの世には存在しない。
しかし、大量生産を前提にしたこれまでのチョコレートは、大量に安く仕入れ、効率的に生産することを優先させてきた。その分、生地に対して砂糖やミルク、バニラなど香料、乳化剤を混ぜ、味をつくりだしてデコレーションしていく加工技術がとてつもないスピードで発達してきたのだ。
生産地に想いを馳せるチョコレート
Bean to Barとは、素材と消費者を、もっと言えば産地・生産者と消費者を近づけることだと思っている。
そうなるとそのチョコレートの素材の味から、産地や生産者の生活・風土に想いを馳せながら楽しむことができる。
「ベトナム産で酸味の豊かなカカオ豆から作ったチョコレートは赤ワインに合う、だから記念日にとっておいた」なんていう、個々人の嗜好に合わせた時間と空間を彩る、そんな新しいチョコレートの消費スタイルが生まれてくるはずだ。チョコレートの消費という概念を少しずつ多様に拡げていきたい。
カカオ産地で、新しいチョコレートの胎動を感じる
まだ僕のように産地に直接入り、買い付ける小規模業者は世界で見ても少ない。
どこの国に行っても会うバイヤーは一緒だったりする。彼らと「どこの豆がよいらしいぞ」と情報交換するのが貴重な情報源になる。
僕は1年の4か月~5か月近くを産地に行くようになった。
かつてはサラリーマンとして東京の満員電車に押し込められていた男が、Tシャツー枚で産地にいく。僕が行く産地は外務省の渡航情報を見ると、渡航危険区域に指定されている地域ばかりだ。
Bean to Barブランドの多くはカカオ豆を専門商社から仕入れている。その方が効率的であり、楽であり、時にはより質のよい豆を仕入れることもできる。じゃあなぜわざわざ産地に買付に行くのか?それは産地に行くと、これからの新しいチョコレートの胎動を肌で感じることができるからだ。自分でも合理性のない答えに少し笑ってしまう。
人生にチョコレートが初めて登場する瞬間
僕がカカオ産地に行くようになって、初めに驚いたことはカカオ農家の多くがチョコレートを食べたことがないという事だった。
「おじいちゃんの代から裏山に生えてたカカオの種を欧米人が買っていくからつくってるんだ」と平気で言う。
そんな彼らに見知らぬ日本人が、「カカオ豆を売ってくれ」と頼む。しかも大した“量”も買えるわけでもないのに、偉そうにカカオ豆の“質”の講釈を垂れるのである。
誰が相手にしてくれようか。
最初は本当に相手にされなかった。
だから僕は初めての産地に入ると、彼らと一緒に現地でチョコレートをつくりはじめた。
何も道具がなければフライパンと直火でカカオ豆を焼き、彼らが使っている石臼でカカオ豆を挽いてチョコレートを造る。クレイジーな日本人が何か始めたぞといって村中のカカオ生産者が興味半分で参加してくれる。
そして、みんなと食べる。
そうすると「おや、うまいじゃないか」と彼らの目の色が変わり始める。
僕はあの初めて食べた瞬間の顔を見るのが好きなのだ。
彼らの人生にチョコレートが初めて登場する瞬間だ。
わざと良いカカオ豆と悪いカカオ豆でチョコレートをつくって彼らに食べてもらう。そうして初めてカカオ豆の“質”に興味が少しだけ湧く。どうしたら自分のカカオ豆が美味しくなるのかと聞きだすのだ。
僕は農家にとっては“お客さん”ではなかった
でもそこからすぐに良いカカオ豆をつくろう、とやる気が湧くほど話は美談にはならない。
例えばチョコレートづくりを10人の農家と一緒にやったとする。その場では皆、良いカカオ豆の作り方を熱心に聞き、次からやり方を変えると言ってくれる。でも次の年に行ったときにその約束を守ってつくってくれる人は1人もいないのだ。
なぜなら良いカカオ豆をつくっても彼にとっては一銭の得にもならないから。これは教訓だった。大した“量”を買えない僕は彼らにとっては“お客さん”ではなかったのだ。
現実を思い知った。
それでも適切な努力によって確かにチョコレートは美味しく、新しくなる。
だから僕は彼らの“お客さん”になるべく、毎年(多少の無理をして少しでも多めに)買い、毎年彼らの豆からつくったチョコレートを持って行くことを始めた。
単に高く買うのではなく、例えば「質を高めるためにカカオの木の剪定を年1回から年4回増やしてくれたら〇〇セント高く買う」「欲しいフレーバーを出すために発酵の時間を〇〇時間伸ばしてくれたら〇〇セント高く買う」と交渉する。そして、“質”が上がったらその条件で買うのだ。
そうすることで初めて僕は彼らの対等な“お客さん”になれる。
チョコレートを新しくする
ホンジュラスのカカオ生産者たちとランチの会場に到着した。
昼からワインをボトルでオーダーしてくれた。
「日本から僕らのカカオを買いに来てくれた友人に乾杯しよう」と言ってグラスを掲げた。
ホンジュラスのこの地域は世界的に見ても最貧困地域に当たる。生産者がワインを昼から開けることなどめったにないのだろう。彼らはランチ代もワイン代も支払ってくれた。
彼らにとって僕が対等な“お客さん”になったからだろうと思う。
僕はMinimalというブランドを通してチョコレートを嗜好品として新しくしたいと思っている。
よい生産者が質の高いカカオ豆を育てる。
質に見合った正当な対価を僕らが支払い、そして僕ら製造者が美味しくて新しいチョコレートを造る。消費者が嗜好に合わせて新しいチョコレートの付加価値を評価し、対価を支払って楽しく消費をする。得た利益から僕ら製造者はさらに質の高いカカオ豆をつくるための価格支払いを生産者にする。
生産者から消費者まで価値が連鎖し、末広がりの円のようにエコシステムが大きくなっていく。
ビジネスインパクトとソーシャルインパクトの両方をもった新しいエコシステムは、世界をほんの少しだけ良くすることができる。
これが僕の考える新しいチョコレートの胎動の正体だ。
誰もが得をして、世界が少し良くなるかもしれない可能性に魅せられながら、僕はまた産地に向かう。
次はもっとよいカカオ豆に出会えることにワクワクしながら。
※Minimalチョコレート
今回お送りしたMinimalの物語は今後もまだまだ続いていきます。
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