ドイツ総選挙、最後の前哨戦の読み方~緑の党は?~
結局、「危機に強いメルケル」は健在なのか
6月6日、ドイツ東部ザクセン・アンハルト州で投開票された州議会選挙はメルケル独首相率いる保守系与党、キリスト教民主同盟(CDU)の圧勝で幕を閉じました。今年9月に控えるドイツ連邦議会選挙を前にした「最後の前哨戦」として注目された選挙でした。9月の連邦議会選挙の台風の目と見られる「緑の党」は元々旧東ドイツ地域での支持は低く、今回第6党に甘んじたことは想定の範囲内です。しかし、緑の党が国政に繰り出すにあたっての限界を露呈したとも言えるでしょう。直前の世論調査ではCDUと極右政党・ドイツのための選択肢(AfD)との接戦が一部予想されていましたが、そうはなりませんでした。後述するように、ワクチン接種率の高さを背景に感染抑制が奏功している事実が現政権への追い風になっていそうです:
4月に立て続けに行われた州議会選挙ではCDUの惨敗と緑の党の躍進が伝えられ、社会民主党(SPD)の得票次第では、今年9月のドイツ連邦議会選挙におけるCUDの下野まで囁かれました:
しかし、当時はイースター休暇を直前に控えていたところ、感染予防策を巡ってメルケル首相が国民に公然と謝罪を強いられ、感染予防を企図した行動規制も朝令暮改を迫られるなど、政府・与党の迷走が指摘されている頃でもありました:
イースター休暇を経て行動制限が順次解除され始めた4月から5月初頭にかけてはまだCDUへの風当たりが強く、図表で示すように世論調査でも緑の党がCDUの背中を捉えていました。しかし、今後の世論調査ではCDUの再逆転が恐らく予想され、そのまま9月の連邦議会選挙に突入する可能性も高まっています。結局、「危機に強いメルケル」は最後まで健在であり、16年間の任期を全うしそうです。
ワクチンに救われたラシェットCDU党首
ドイツに限ったことではないでしょうが、やはり政府・与党への支持率はコロナの感染抑制度合いと比例していると考えられます。CDUが立て続けに州議会選挙に敗北した4月と現状ではドイツを取り巻く空気が一変しています。例えば図表はZEW景況感指数を見たものだが、現状指数に遅れる格好で期待指数も急改善しています:
また、Ifo景況感指数も、5月は6か月先の景況感を示す期待指数に関し、2年ぶりの高水準をつけています。
CDU下野のシナリオは消えたわけではないものの
もっとも、ここまでの話は破竹の勢いにあった緑の党の支持率に天井が見えたという話です。CDUが単独で政権を維持できるような状況にまで形勢が回復するかどうかは別の話でしょう。緑の党とCDUが互角の状況が基本変わらないのだとすれば、緑の党が中道左派・SPDおよび左派・Die Linkeなどと左派連立を組んで過半数を押さえる可能性も残されてはいます。また、緑の党・SPDそしてリベラル(中道)である自由民主党(FDP)の連立政権という可能性もあります。その意味でCDU下野というシナリオは可能性の上では残されているでしょう。もちろん、「CDU+緑の党」、「CDU+緑の党+SPD」、「CDU+緑の党+FDP」や緑の党を排除した「CDU+SPD+FDP」など、組み合わせは多様ですが、現実には合意の難しい組み合わせも多数含んでいます。今回のドイツ連邦議会選挙は選挙それ自体もさることながら、結果を受けた連立交渉の行方までが注目点になりそうです。
もっとも、緑の党が悲願の政権入りを果たすにあたっては、今後の感染症の先行きがまだ不透明であることを思えば、党勢に陰りのある野党と結託するのではなくコロナ制圧の実績を相応に評価され勢いを得ているCDUと組む方が、手堅い選択であるように思えます。下手に左派連立政権などを組み、早晩瓦解するようなことがあれば、緑の党へのイメージは大きく損なわれるはずです。その意味でCDU下野のシナリオは耳目を引くものではあるが、可能性が高いとは言えないでしょう。