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アクターたちを巻き込むシステムとしての「シナジー」

東京都現代美術館の『シナジー 創造と生成のあいだ』を家族で見に行った。

以前から推しのやんツーさんの作品をここで鑑賞できると思っていたので、とても楽しみだった。

「シナジー」は、事業間のシナジーというかたちでビジネスシーンで頻繁に用いられる。ではそんなビジネスにおける流行語ともなっている「シナジー」を冠した本展はビジネスパーソンのヒントになるのか?を少し考えてみたい。

結論として「複数のアクター」を巻き込みながら「事物が生成されるシステム」が構築された作品が多いことから、本展を深く鑑賞することで経営者が事業間のシナジーを考えるヒントにもなりえるだろう。

展覧会珍道中

チーズとトマトを挟んだホットサンドと、きゅうりとハムを挟んだサンドウィッチをつくってもっていく。美術館のそばのベンチでランチをしてから、いざ入館してみると、入り口にやんツーさんご本人がいらっしゃった。「こどもも楽しめる展示だと思いますよ」とさらりといってくださり、その期待に沿って美術館に入った。

後藤映則作品

最初に、文字が針金で立体化した荒井美波さんの作品が展示される。子どもたちは、隣にある暗い部屋が気になるようですぐに入ってしまった。真っ暗な部屋の中をすすむと、光の軌道によって3Dプリントされた物体に映り込んだ人の影がアニメーションする作品が子どもたちのこころをつかむ。後藤映則さんの作品だ。

その後、(euglena)さんの繊細な綿毛の作品をそーっと鑑賞し、Unexistence Galleryをながめたのち、大きな部屋に入る。

本物のバイク2台束ねられた状態で、3mほどの大きな櫓から吊り下がっている。スイッチを押すと徐々にバイクが巻き上げられていき、頂点まで達するとゆっくりおりてくると同時に、小さなランプに光が灯る。

やんツー『TEFCO vol.2 〜アンダーコントロール〜』

なんだこれはと思わず笑ってしまった。バイクを吊り上げるエネルギーは太陽光から取り入れられ、バイクが下がっていく重力エネルギーをもちいて発電され、それがランプに光を灯す。そこでうまれた余剰電力はスマホを充電して持ち帰ることができる。

エコなんだけど無意味、無意味なんだけど電力は無駄にはしていない。そしてこのバイクというモダンな欲望の象徴を文字通り宙吊りにし、無意味の祭典のなかで礼拝の対象にする。そのあざやかな身振りに、笑わずにはいられなかった。

スイッチを押すだけで巨大なバイクがあがったりさがったりするので、子どもたちは何度もスイッチを押したがる。テレビのモニターには、太陽光や電力メーターが映し出されるスイッチがついており、これも押しまくる。監視員の方がハラハラしながら見ていたので、「次行くよ!」と促した。

花形槙作品

やんツー作品の横に置かれた花形槙さんの『肉体捻転図』をはじめとする作品群は、ヘッドマウントディスプレイを被り、全身タイツで自らを覆い、カメラを足先や腰などにつけることで、モノを見ようとする身体の動きが捩れ、転がる様が描かれる。目の位置が変わることで、身体の動きが生成される。

菅野創+加藤明洋+綿貫岳海の3名による「お掃除ロボット」の戦隊シリーズ「クレンジャー」は、ルンバをはじめとするお掃除ロボットたちが都市の中で珍道中をくりひろげる可笑しみに満ちている。

その後、12歳でNFTクリエイターとして国際的に活躍するZombie Zoo Keeperや、石川将也+nomena+中路景暁、市原えつこ、友沢こたお作品へと続いていくが、子どもたちは集中が切れたようで、駆け足で会場を後にした。

シナジー(相互作用)とはなにか?

「シナジー」という語は、ビジネス用語としては、事業と事業のあいだの相互作用を想定されている。

ソニーにおいても「越境経営」を掲げ、ゲーム、音楽、家電といったさまざまな事業が相互に影響し合うようしかけをつくろうとしている。

こうした事業部間の分断をいかにして越境しあい、相互連携をつくっていくかは、多角化した大企業においても、ベンチャーにおいても重要な課題となっている。

ぼくが所属するコンサルティングファーム「MIMIGURI」では、縦割りで分断した事業部間のあいだに、「実はすでにシナジーがある」という前提に立ち、シナジーマップをつくるワークを実施している。

複数のアクターを巻き込む「システム」を創造する「アイデア」

本展においては、AIや3Dプリンティング、ロボットといった「テクノロジー」と「人間の手仕事」のシナジーが想定されていた。

しかし、先ほどのビジネスの話に接続するならば、どのような手仕事によって、どのような「システム」が構築されたのかを読み解くと「事業間のシナジー」といった言葉との類推が可能になる。

本展の作品は、「反復」をモチーフとするものが多く現れていた。やんツー『TEFCO vol.2 〜アンダーコントロール〜』は、大型のバイクが上がる、下がる、という反復をする。その反復の間に、太陽光発電と重力発電、スマホの充電ケーブル、TVモニターといった複数のアクターが介在することで、生成されたエネルギーが蓄積されたりシェアされたりする。

このように、複数のアクターを巻き込んで何かが生成されていく「システム」が作品化されたものが展示されていると読み解いてみたい。

そうすると、それぞれの作品ごとに登場する「アクター」が何か?である。

後藤映則の3Dプリンターに映し出される光が動くことで、人やモノの動きが何度も反復して生成されていた。3Dプリントされた物体、光、闇といったアクターに加えて、鑑賞者も一つのアクターとなり、見る角度を変えることで見える形が変わることも経験される。

花形作品においては、目の位置をカメラとヘッドマウントディスプレイによってズラすというシステムが反復される。目、ヘッドマウントディスプレイ、カメラ、全身タイツなどのアクターの、その配置が変わることでその都度、異なる動きが生成されていく。

事業シナジーによって何を生成したいのか?

複数のアクターを巻き込みながら何がどのように反復するシステムを構築するのか。それによって何を生成したいのか?

これは、経営における事業間シナジーのヒントにもなりえる。

多角化した事業をアクターに分解し、それらがどのようなシステムの中に巻き込まれ、反復されると良いのか。その反復を通じて、何が生成されることを望んでいるのか。

これらのアート作品を深く鑑賞することで、経営者が事業間のシナジーを考えるヒントにもなりえるだろう。

『シナジー 創造と生成のあいだ』は東京都現代美術館で、3月3日まで開催している。


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臼井 隆志|Art Educator
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