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市場参加者はバイデン次期政権をどう見ているか

「景気対策>対中政策>増税」
いよいよバイデン新政権が発足しました。金融市場では景気対策に注目が集まりますが、これに限らずパリ協定への復帰、対イスラム諸国施策の転換など、その政策運営が全般的に注目を集め始めています:

ちょうどよいタイミングで1月18日、QUICK社と日経ヴェリタスの共同調査(1月12日~1月13日実施)として、バイデン新政権における政策運営全般に関する市場参加者へのアンケート調査の結果が公表されているので、これを用いて「金融市場はバイデン新政権の何を見ているのか」を改めてチェックしておきたいと思います。

まず、新政権で最も注目する政策に関しては「財政出動を軸にした景気対策」が42%で最多でした。大統領選挙期間中は「対中国政策」に注目が集まっており、それが元高に寄与していると言われてきましたが、これは34%と財政出動よりやや注目度が落ちる格好となっています。これはちょうど調査期間中の金融市場における注目材料が「バイデン新政権の追加財政規模」だったことが影響しており、両者の優劣は回答結果ほどは差がないと筆者は考えています。むしろ、「バイデン=親中」が自明の前提のように語られている以上、少しでも期待に反する挙動が出た場合、人民元相場への影響を含め金融市場に大きなショックを与える可能性はあるように思います:

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なお、「大企業や富裕層を対象にした増税策」との回答はかなり数字を落として13%にとどまっています。元々、民主党候補者を決定する過程ではバイデン新大統領は「増税の人」として警戒されており、「勝つことはないだろうが、勝った場合は株価は大暴落」という声が多かったと記憶しますが、多くの市場参加者は「この状況での増税はない」と高を括っているのかもしれません。目下、市場ムードをけん引するのは明らかに株高ですが、キャピタルゲイン課税を含む新政権の増税策は株買いの天敵と考えて差し支えないでしょう。「増税路線の趨勢」は「市場の趨勢」に直結する問題であり、この論点は回答割合以上に注目だと考えるべきだと思います。同じ文脈でGAFA解体の議論なども注目です。

バイデン新政権の為替・金融政策について
また、「バイデン新政権の為替政策どう見るか」という質問も行われています。伝統的に為替市場では「米民主党政権ではドル安・円高を警戒」との巷説が根強く、今回も似たような言説が飛び交っていますが、「市場実勢の容認」との回答割合が68%と圧倒多数でした。

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この点について市場参加者は冷静に見ていることが分かります。筆者も同感です。確かにクリントン政権(民主党)で経験した貿易摩擦のように苦々しい対日政策の記憶はありますが、それは当時の日本が脅威だったからこその政策対応でもありました。今や日本の貿易収支は確かに対米黒字を維持する一方で、一国全体としては均衡ないし赤字も珍しくなくなっています。「不当な為替政策や関税・非関税障壁を通じて日本製品が世界市場を席巻している」という状況はもう認められず、米国が日本に限って厳格な通商政策を強いてくる理由は特に見当たりません。そのような挙動があるとしたらやはり対中政策になるはずであり、政治・外交は元より、バイデン新政権が人民元相場にどのような関心を示すかは注目度が大きいでしょう。この点、先般のイエレン新財務長官への承認公聴会で中国に対する厳しい言動が目立ったことは重要だと思いました。

とはいえ、上の質問に対しては26%が「ドル安政策」、6%が「ドル高(強いドル)政策」と回答しています。この点、市場参加者は現状を冷静に評価しつつも「バイアスがあるとすればドル安方向」との警戒感は確かにありそうです。イエレン公聴会で「強いドルは国益」という定番発言が見られなかったことを訝しがる向きもあります:


では、為替政策と関連が深い金融政策はどうでしょうか。為替政策と金融政策の方向性は一致するしかありません。調査結果を見る限り、その実情は理解されていそうです。トランプ政権で断続的に注目された政府とFRBの関係性については「現状の金融緩和政策を支持」が52%、「独立性を尊重しFRBの政策運営を見守る」が40%の回答割合となっている:

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要するに、ほぼ全回答者が金融政策運営の現状維持を予想していると見受けられます。もっとも、質問では言及されていませんが、2022年に到来する次期FRB議長人事が近づけば政府(バイデン政権)とFRBの関係性は注目されるはずです。現状では財務長官最有力とされながら抜擢が見送られたブレイナードFRB理事の名前が挙がっています。これは今年末辺りから注目です。

「ドルの過剰感」は引き続き大きな論点
上記のような理解の下、具体的にドル/円相場、ユーロ/ドル相場の展開にはどのような思惑があるでしょうか。前者のドル/円相場については「2~3%程度の小幅な円高」が24%、「あまり動かない」が29%、「2~3%程度の小幅な円安」が34%と回答状況が割れており、米政権が代わってもドル/円の小動きは変わらないのだという諦観が今年も強そうなことが窺えます

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もっとも、ユーロ/ドル相場についても似たような回答でしたので、為替・金融政策への調査結果が示すように、米政権の変化と為替市場の動きをリンクさせて考える市場参加者は多くないのでしょう

こうした具体的な通貨ペアへの影響度を考えるよりも、やはり「ドルの過剰感」を通じたドル相場全体の沈み込みがどの程度のものになるのかを考えた方が良いと思います。既報の通り、バイデン新政権は総額1.9兆ドルの経済対策を発表し、まずは家計支援を意識した民主党らしい第一弾の政策パッケージを公表しています。1.9兆ドルは米国の名目GDP(約20兆ドル)に対して約9.5%であり、2020年に記録した赤字の概ね半分です。数字だけの話をすれば「ドルの過剰感」は半減するのでドル相場に与える影響も上昇方向が想起されるという見方もできます。もっとも、過去の経験則を踏まえれば、当該年度の赤字がビビッドにドル相場の動きを規定するとは限らず、ラグを伴って効果が発現する可能性もあります。また、感染拡大状況に応じて景気対策は断続的に拡充を迫られるでしょうから、それにしたがって「ドルの過剰感」も強化されるはずです。昨年同様、今年も財政赤字(%、対GDP)が示すドル相場の方向感は見通し策定上、有力な道標になるという点は変わらないでしょう。

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