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モノツクリ業種の社内起業はエンジニア職の仕事か?

社内技術からスタートアップを創る

モノツクリ系企業を中心に、社内技術を応用したスタートアップを立ち上げることでイノベーションを目指そうという動きが出ている。日本のモノツクリはイノベーションが起きていないと厳しい評価をなされることが多いが、その保有する技術は世界的にも目を見張るものがある。例えば、EVは日本メーカーの出遅れが指摘さえているが、特許の保有数は世界トップクラスだ。

社内技術をビジネス化するために、新規事業開発部のような特定の部署に責任を負わせるのではなく、スタートアップとして間口を広げることは有効な手段だと言えよう。また、スタートアップとして半分社外に出すことで、組織内のしがらみにとらわれない挑戦的なことにも取り組みやすくなる。

しかし、このようなモノツクリ系企業の社内起業のニュースを目にしたり、相談を受けていて感じることがある。それは、スタートアップの主体者が技術職に偏重していることだ。

モノツクリ系企業の文理分断に気を付ける

近年、デザイン思考の文脈で注目を集めている概念として「意味のイノベーション(Meaning Innovation)」がある。これは、新製品や新規事業が既存のモノに対して新たな意味を付与することでイノベーションを起こすことを指す。

例えば、携帯電話は、電話の延長線上でカメラやインターネットなどの機能を拡張させてきた。しかし、スマートフォンは携帯電話をそもそも電話として捉えておらず、「アプリケーションによって自由に機能をカスタマイズできる通信端末」として「意味のイノベーション」を起こした。その結果、スマートフォンは携帯電話でありながら、電話を主目的として使うユーザーは少数派となった。

スマートフォン、タブレット端末、スマートスピーカーなど、ここ10年余りで世の中を大きく変えた新製品は多い。そして、その多くが最先端の科学技術の粋というよりも、既存の技術の組み合わせから生まれたことも良く知られる。重要なことは、技術よりも、意味にある。

技術職に偏重した新規事業だと、意味を凡庸なものにしがちな傾向にある。例えば、人体への悪影響が少ない優れた保湿成分を持つ新素材ができたとき、コモディティ化している化粧品業界への応用をするイメージだ。特に、ヘルスケア事業への転換に成功した富士フイルムの事例が意思決定を後押しする。技術で挑戦している分だけ、事業アイデアはリスクをとらない。

反対に、文系職種に偏重した新規事業も課題がある。このときは、マーケティングなどの調査を通して、傾向を探って新規事業のアイデアを見つけることが多い。しかし、このパターンだと、技術的な優位性もなく、どこかで成功したパターンの2番煎じに落ち着くことが多い。日本全国に乱立している、ゆるキャラとアニメで地方おこしのイメージだ。

大切なことは、保有している技術をうまく使いながら、新しい意味を創造することだ。それには、技術職だけではなく、文系職種も一緒のチームとなって取り組むのが良い。技術職が技術について解説し、それを理解した文系職種が技術を応用すると面白そうな要素(市場、顧客、別技術など)を提案するような関係性だ。

例えば、3Mのポスト・イットは当初、失敗作から生まれたことは良く知られる。発明者であるスペンサー・シルバーは、1968年、この失敗作をどうにか使いようがないか、あらゆる部門の人たちに自分が発見した接着剤を紹介し尋ねて回った。Mr. Persistent(粘り強い人)と呼ばれるほど社内を歩き回った結果、発明から5年後に同じ研究員のアート・フライによって、まったく新しいメモ・ノートとして「新しい意味」が付与される。しかし、いざテスト販売となったときに問題が起こる。社内での評判も上々だったが、テスト販売ではまったく売れなかった。そこで登場するのが、マーケティング担当者だ。既存の流通チャネルに乗せるのではなく、大規模な試供品提供をすることで製品を消費者の手に直接届けることにした。その反響はすさまじく、1980年4月6日、「ポスト・イット® ノート」が誕生する。

ポスト・イットは、技術を基に「新しい意味」を付与し、新しい市場を創り出すことに成功した好事例だ。「新しい意味」を付与するために、多くの人たちから協力を得て、ユニークなアイデアの実装に成功している。大切なことは、「新しい意味」を付与するために、文系理系職種のどちらかに偏重するのではなくバランスよく混ぜることにある。

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