心理的安全性の確保にはマネージャーの負担軽減が必要
こんにちは。弁護士の堀田陽平です。
寒暖差が激しく、少し風邪を引いてしまいました。
今回は、「心理的安全性を確保するには」という意見募集がありますので、これについて書いていきます。
経産省の「人材マネジメント研究会」報告書
さて、まず「心理的安全性」については、経済産業省産業人材政策課(当時は「室」)でも議論をしたことがあり、そちらをご紹介したいと思います。
少し前になりますが「経営競争力強化に向けた人材マネジメント研究会」という研究会の成果として、平成31年3月に報告書を公表しています。
同報告書では、「心理的安全性」についても言及しており、「心理的安全性」を、「チームに所属する個々人が、安心して自らの意見を積極的に表明し、相互理解や活動に前向きに取り組める環境が確保されている状態」を指すとしています。
そのうえで、同報告書では、心理的安全性確保のため、以下のような取り組みを行うことを提言しています。
報告書は少し前のものではありますが、今でも十分の妥当する内容でしょう。
心理的安全性の確保は経営課題としても取り組むべき
日本企業は、長期雇用を前提とした「すり合わせ」を強みとする組織であったといえます。
他方で、そのことは、前例にない意見や、他の人と異なる意見が述べられにくく、結果としてイノベーションが欠如するリスクがあります。
しかし、人材版伊藤レポートでも述べているように、イノベーションが欠如による生産性の低下と労働生産年齢人口の減少の影響から、多様な人材の活躍が求められる日本企業においては、外国人や外部の専門人材等の多様な人材の能力を発揮させるために、心理的安全性の確保は極めて重要な課題となるといえます。
ここで心理的安全性が確保されていなければ、多様な人材を獲得したところで、その能力を「発揮」することができないでしょう。「
心理的安全性は人材版伊藤レポートでも重視しているエンゲージメントの向上の前提となるものであり、上記のような社会課題に直面する日本企業においては、まさに経営課題として取り組むべき事柄であると思います。
したがって、心理的安全性の確保には、まずもって経営者がその重要性を認識し、その確保に取り組むことが不可欠と思われます。
マネージャーの重要性
上記のとおり、心理的安全性の確保のためは経営者の役割も重要ですが、現実的に最も重要であるのは、管理職等のマネージャーの役割でしょう。
実際にチームをどのような組織にするかは、マネージャーの役割によるところが大きく、心理的安全性の確保のためには、部下との密なコミュニケーションによって信頼関係を醸成することが必要になると思われます。
ところが、日本のマネージャー層は、いわゆるプレイングマネージャーであることが多く、ビジネス上の業務に忙殺され、部下との密なコミュニケーションをとり、信頼関係を醸成する余裕がなく、本来的な意味でのマネージャーとしての役割を果たすことが難しいとされています。
このことをよく表しているものとして、マネージャー層からは「仕事が忙しくて、そんな密なコミュニケーションをとっていられない。」と言われることもあります。
しかし、考えてみると、この発言はおかしいはずです。なぜなら、本来、マネージャーの「仕事」はそうした部下とのコミュニケーション等のチームビルディングであるはずだからです。
こうした声が生じること自体が、日本のマネージャー層自身が、部下とのコミュニケーション等の信頼関係の醸成がマネージャーの仕事ではないと認識していることを如実に表しているでしょう。
また、現実的にも、何か意見やアイデアを述べる時に、マネージャーが、ビジネス上の業務に忙殺されていると、とてもそうした意見を述べることのできる組織にはならないものと思われます。
マネージャーを本当の意味でのマネージャーとして開放する
心理的安全性を確保するための施策としては、経産省の人材マネジメント研究会報告書に記載されているような様々な施策が考えられます。
ただ、現実的な問題として、マネージャーをビジネス上作業負担から解放し、まさにマネージャーとして部下との信頼関係の醸成等のチームビルディングに専念させることが必要でしょう。
そして、マネージャー層の負担解放には、経営者が心理的安全性の確保を経営課題として捉え、その確保を主導していくとが重要であるように思います。