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自分の平均年収と社会貢献、どっちが大事ですか?

仕事で若者研究をしている。

最近は「Z世代」が流行り言葉になっていることもあり、講演に呼ばれることも多い。

講演会は講義75分、質疑応答15分が基本。何度もやっていると質疑応答にも慣れてきて、よくある質問のパターンも見えてくる。

そんなよくある質問の1つに「Z世代は社会貢献意識が高いって言われますが、本当ですか?」というものがある。

確かに、年代別に比較すると若者ほど社会貢献に関する関心度は高い。

しかしこれらのデータ、その根底について考えておかないと本質を大きく読み違える可能性がある。

キーワードは「自己肯定感」だ。

今日はそんな話。

■Z世代を学ぶのではなく、Z世代から学ぶ

講演会での頻出質問には、他に「Z世代を一括りにするなんて乱暴じゃないですか?」というものもある。

この質問はあまりにも多いので、最近では冒頭に回答してから講演を始めるようにしている。

ちなみに何年生まれをZ世代とするかは結構、揺らぎがある。

確かにZ世代の範囲は広い。それ故に「そんな広い世代を一括りにできるのか?」という疑問を持つのは当然だ。

しかし私の所属する電通若者研究部は「Z世代」だけを研究しているわけではない。あくまでも研究対象は「その時代の若者」で、今はそれがZ世代と呼ばれているだけだ。

また、研究の目的も「Z世代を知ること」ではない。質問にもある通り、Z世代なんて一括りにすることはできない。

よく揶揄されるパターンとして「Z世代とか世代論で括らないのがZ世代だよ」というセリフがあるが、そんなことは百も承知だ。

若者研究とは「潮流研究」だ。それはつまり、価値観の流れを知ること。

時代の先端には若者がいる。これは真理で揺らぐことはない。だから若者を定点観測すると、流れの変化が見えやすい。

もちろん、若者の中に価値観の潮流に沿わない人もいるが、効率的に価値観の潮流変化を学ぼうと思ったら、若者を学ぶことが手っ取り早いのだ。

黄色い「丸」を知るのではなく、オレンジの「矢印」を知ることが重要

若者を学ぶのではなく、若者から学ぶ。

私の講演は、いつも冒頭にこんな前置きをしてからはじめている。

■売れなかったチョコレート

さて、冒頭の「Z世代は社会貢献意識が高いって言われますが、本当ですか?」に話を戻す。

確かに「Z世代=社会貢献意識が高い」を裏付けるデータはたくさんある。実際、他の年代と比較するとZ世代(若い人ほど)は社会貢献に対する興味関心が高い。

データだけ紹介すると「今の若い人は良い子が多いよね」という感想を持たれる場合が多いが、僕は兼ねてからそんな単純な話ではない気がしていた。

そこでこれらの言説が言われ始めた頃、1つの実験を行った。

フェアトレードチョコレートを大学内で販売したのだ。

フェアトレードチョコレートとは、児童労働によって安く取引されたカカオではなく、原料生産者から適正価格で取引されたカカオで作られたチョコレートのこと。生産者の生活向上を支援し、貧困問題の解決に取り組んでいる商品。

本当に若者の社会貢献意識が高ければ、この商品は若者に売れるだろう。そんな仮説を大学内の購買で検証してみた。

結果は惨敗。僕らは大量の在庫を抱えることになった。

「この在庫をどうにかしなければ」

そんな思いで行った苦肉の策はギフトだった。大量の在庫にラッピングを施して再び店頭に並べた。

するとどうだろう。2週間で1つしか売れなかったチョコレートがまたたくまに完売したのだ。

そのまま売っていた時と、ラッピングして再販売した時の実際の写真

フェアトレードチョコレートは(当然)少し高い。その価格がギフトとしてはちょうどよかったのかもしれない。

実験からわかったことは、社会への貢献よりも自分の友人関係の方が優先度が高い(お金を使う理由になる)ということだった。

■自分の年収と社会貢献

これらの結果を受けて、僕はもう1つ実験をしてみた。

対象にしたのは「Z世代は就職でも社会貢献を重視する」という言説だ。

実際、Z世代に「就職活動にあたって、社会に貢献している企業かを重視するか?」と調査をすると9割が「はい」と回答する。

これに関しては「そりゃそうだよね」という気がするので、少し意地悪な質問をしてみた。

自らの収入との比較だ。

社会貢献意識が高いZ世代でも「社会貢献 VS 自分の年収」となると7割以上が後者を選ぶ。


これらの結果と、先ほどのフェアトレードチョコレートの事例も踏まえて、僕は「日本のZ世代は社会貢献意識が高い」と手放しで言わないようにしている。

Z世代が他の世代よりもソーシャルグッドに目を向けていることは確かだ。しかし重要なのは「なぜそうなっているのか」という理由かもしれない。

仮説の1つとして「自己肯定感」がある。

■自分のための社会貢献

以前の日経COMEMOでも紹介したが、日本の若者は諸外国に比べて自己肯定感が圧倒的に低い。

内閣府のデータより

また、ボランティアに関する意識や行動も諸外国に比べて低い。

口では社会貢献が重要だと言うが、行動までには至らない。

ここをおざなりにして、日本のZ世代の社会貢献意識について語ることはできない。

キーワードは「自分のための社会貢献」ではないだろうか。社会貢献と言うと無償の愛のようなイメージがあるが、日本の若者には「自己愛」が足りない。

そんな不足分の愛を満たすベクトルの1つが社会貢献意識になっている節はないだろうか。

本来、社会貢献欲求とは自己肯定感や自己愛が満たされている人に芽生えるべき感情だ。

逆に言えば、人はまず自分が満たされる必要がある。

自己愛や自己肯定感を構成するものは人それぞれで「人間関係」だったり「収入」だったりする。

だからフェアトレードチョコレートでも就職の調査でも「まず、自分が満たされること」を本能的に優先している結果が出た。

しかしそれでも自己肯定感が満たされない場合、社会貢献によって満たそうとする。そんな要素が、日本の若者における社会貢献意識には見え隠れしている。

もちろんこれも一概に言えるものではないし、社会貢献によって自己肯定感を満たすことを否定するつもりもない。

しかし安易に「Z世代は社会貢献意識が高い」「Z世代は良い子が多い」と片付けてしまうのだけは、どこか違う気がしている。

日本の企業や社会が向き合うべきは、安易なソーシャルグッドブームではなく、その背景にある若者の自己肯定感ではないだろうか。




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