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不動産契約のダイバーシティ。

友人が珍しく悩んでいた。

原因はシェアハウスだ。

と言っても、友人はシェアハウスに住んでいるわけではない。
シェアハウスの経営をはじめたのだ。

悩みの種は、とある契約書だった。

友人はシェアハウスの入居者を募集するため、募集サービスや、他のシェアハウスグループとの提携を模索していた。

しかし、その一企業から提示された契約書にある「とある項目」が引っかかった。

その内容とは

提携するシェアハウスにおいて、男性と女性の同居は不可。
ただし、婚姻関係を証明できる場合はこの限りではない。

というものだ。

一見すると「何が引っかかるんだろう」と思ってしまうこの項目。
僕も最初は、友人の悩みの本質に気づけなかった。

さて、あなたはどうだろうか。

今日はそんな話。

■LGBTQの住みづらさ

話は友人がシェアハウスをはじめた理由に遡る。

その友人は臨床心理士として働いている。

LGBTQをはじめとする「生きづらさ」に関するカウンセリングを通じて、住まいに関して課題意識を持ったそうだ。

例えば

  • カミングアウトをしたが家族に理解されず、実家に居られなくなった

  • トランスジェンダーで、今は女性だが「女性限定マンション」は断られてしまった

  • 「カップル入居可」の物件だったが、男性のパートナー同士は断られた

など、LGBTQの当事者が感じる「生きづらさ」の中には「住みづらさ」も含まれているようだ。

友人はこれらの経験から「いろんなひとがいてあたりまえ!のシェアハウス。」 を大阪で立ち上げた。

そこではもちろん「女性限定」など性別を指定されることもないし、カップル入居は同性同士でも問題ない、とした。

しかし、シェアハウス界隈でこの物件を広めようとした際、立ちはだかったのが前述の契約書だった。

■カップルって、男女だけ?

では、内容を再び確認してみよう。

友人が提示されたのは「このルールに従えないシェアハウスは提携NG」という契約書だ。

しかしこのルールは「LGBTQフレンドリーなシェアハウス」を掲げる上で、受け入れがたいものだった。

問題は2つある。

まず「男女の同居は不可」という点。
裏を返せば、女性同士、男性同士であれば同居が許可されている、ということになる。

「男と女が同じ屋根の下にいたら、何か(トラブルが)起こる」

ということを暗に差しているこの点は、無意識に(?)同性パートナーの可能性を排除している。

いわゆる「男女関係のもつれ」を避けようとしているのだろうが、それならば言葉通り「男女」とするのではなく

「パートナー関係がある(あった)2人の同居は不可」

と、すればいいのではないだろうか。

■婚姻関係だけが、正しい関係?

問題はもう1つある。

それが2行目の「ただし、婚姻関係を証明できる場合はこの限りではない」という点だ。

これも裏を返せば「婚姻関係を証明できるなら、男女で同居してもいいよ」と読める。

1行目を読んだ際は「以前、性行為の騒音とかあったのかな?」とも思ったが、契約書の別条項でそもそも室内での性行為は禁止されていた。

こうなると理由の推測が難しい。

唯一わかるのは「未婚の男女は同居させない」という強い意志で、その裏にある「ちゃんと結婚しているならいいよ」と、婚姻関係のみを正式なパートナーシップとしている価値観だ。

■トラブルの本質と、ルール策定

トラブルが多いシェアハウスという形態の中で、このルールも多くのトラブルを乗り越え、改定に改定を重ねて出来上がったものだろう。

しかしトラブルがあったとしても、必要なのはトラブルの本質に即したルール改定ではないだろうか。

このケースで言えば、

  • それは男女の同居だったから発生した問題なのか?
    (男性同士、女性同士だったら起こり得なかった問題と言えるか)

  • それは婚姻関係になかったから発生した問題なのか?
    (婚姻関係にあったなら起こり得なかった問題と言えるか)

という視点が必要になる。

その視点を持たずにルールを作ってしまうと、無意識に排除される存在に気がつけなかったり、偏見やステレオタイプを助長することにもつながる。

今の日本にはそんなネガティブチェックならぬダイバーシティチェックが必要ではないだろうか?

結果的に友人は「特約」として契約の特例を得た。

今回の契約書の主体企業のWEBには「多様なニーズに応え、価値観をアップデートする」と書いてあったので、その視点が欠けていたことに気付いてもらえたようだ。

そんな友人の指摘を「単なるイチャモン」とせず、大事な視点と捉えられるか。

そんなダイバーシティチェックは、住まいや不動産など、生活の基盤となる業界には特に必要なセンサーだと思う。

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小島 雄一郎
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