見出し画像

インフルエンザワクチンー何故そんなに焦るのか?

 今シーズンの季節性インフルエンザワクチン接種に関し、厚生労働省は接種の対象を高齢者優先としたことから現場では混乱を招いているようです。

 インフルエンザは健康な成人に比べ、高齢者や小児で重症化する可能性があります。特に高齢者は合併する肺炎のリスクも高まることから肺炎球菌ワクチンの同時接種も推奨されています。しかし高齢者だけではなく、乳幼児もインフルエンザ脳症など重症化のリスクもありますので、優先的に接種する必要があると考えられます。インフルエンザワクチンは重症化による死亡率を有意に下げる効果があると検証されておりますが、一定の割合で発症も防ぐこともわかっています。特に毎年流行期には学級閉鎖など小児の間での感染拡大がみられ、そこから成人への感染拡大も懸念されています。従って重症化のリスクを減らすことだけではなく国民全体に感染を拡げないという観点から小児への接種も積極的に行う必要があると考えます。

 しかし厚生労働省は子どもへの接種を26日以降にするよう促しました。この方針がワクチン不足に対する保護者の不安を高めたとの見方もあり、子どもにいち早く接種したい保護者からの予約が小児科に集中しているようです。ただ冷静に考えてみてください。例年インフルエンザの流行時期は1月~3月であり、インフルエンザワクチンは他のワクチンに比べて免疫の持続が短く5~6か月程度と言われていますので、春先あたりまで十分な免疫を持続させるためには少し早すぎるように感じませんか?13歳未満の小児では2回接種が推奨されているために1回目は早めに接種ということもありますが、米国疾病予防管理センター(CDC)過去に2回の接種をした小児は今シーズンは1回でも良いという指針を公開しています。1回接種でも2週間程度で免疫が立ち上がり、過去に接種していればある程度の効果は期待できます。

 「ワクチンの有効期間は?」とよく質問されますが、有効期間が過ぎたら効果が全く無くなる訳ではありません。すわなち「有効な免疫が持続する期間が〇〇ヶ月~〇〇年」ということで、インフルエンザワクチンに関して言えば「5-6か月経過するとワクチン接種によって獲得された有効な免疫機能が落ちてくる」という理解になります(賞味期限が切れたということではありません)。CDCが出している指針はこのことを言っているのであり、毎年ワクチン接種をしている方は1年経過しても僅かながらワクチンによって獲得された免疫が残存しており、1回の接種であっても十分な免疫が立ち上がるだろうということなのです。これをBooster効果と言います。

 小児科開業医で組織する日本小児科医会でも今年のワクチン不足を懸念してCDCの方針などを参考に冷静な対応をするように学会員に呼びかけをしていますが、ワクチンが供給されるのは10月だけではなく11月以降も順次供給されてきますし、かかりつけ医で予約が終了したとしても全国でワクチンの在庫が全くなくなる可能性は低いと思われます。

感染症に詳しい川崎市健康安全研究所の岡部信彦所長は「ワクチンは今後も出荷されてくるので焦らなくていい」と指摘。「3密回避や手洗い、マスク着用などの新型コロナの対策を続けることがインフル予防にも有効」として、急がず例年通りのタイミングで予防接種を受けるよう助言する。

 親御さんのお気持ちは察しますが、かかりつけ医であっても予約が殺到しているような医療機関を無理に受診して多くの人がいる狭いところで長時間待つこと(3密です!)に子どもだけではなく自分自身も感染リスクに対する不安はありませんか?ちなみに私の診療所は小児科も標榜しており、ワクチンの在庫も十分あるのですが問合せも少なく、予約が集中している医療機関が羨ましいくらいです。また私は毎年自分と子どものワクチン接種は11月以降にするようにしています。ご参考までですが。

#日経COMEMO #NIKKEI

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?