「沈みゆくタイタニックで特等席を争うな」経団連副会長の提言にみる私たちのキャリアの未来
こんにちは、電脳コラムニストの村上です。
気づけば1年の約7割が過ぎ去ろうとしています。早いものですね。コロナ禍で変化しつつある私たちの働き方ですが、ふと日本の外をみるとものすごい勢いで変化していることがわかります。
自らDeNAを起業し、今年の6月に女性として初めて経団連副会長に就任した南場智子さん。私自身がIT業界に長く身をおいていることもあり、ずっと尊敬している経営者のひとりです。いまの立場でどのような発信をなさるのか注目していましたが、以下のインタビューでは頷きすぎて首が痛くなるほど素晴らしい提言をされています。
ひとつの特効薬は、新卒一括採用の撤廃です。優秀な若者の起業が増えてきた、と書きましたが、トップティアの学生たちの大部分はいまだに大企業(官庁含む)に吸い込まれていきます。そして大半がスタートアップとは縁遠いキャリアを全うして終わります。もったいない。親や親戚が喜び、友達にドヤ顔もでき、安定して良い収入を得られる(と思っている)大企業に将来幹部候補となる確率の高いメインストリーマーとして入社するのは、卒業時のほぼワンチャンスしかないのだから仕方ありません。
こうして大企業に飲み込まれ、その会社独特の仕事の進め方を身につけていきます。何かに気づいても会社を離れる勇気が出ず、組織内での昇進争いに精を出す人も多いでしょう。前回書いた日本の大企業の凋落を考えると、こういった個人の行動パターンは沈みゆくタイタニックで特等席を争っているように思えます。
さらには「入社してから30年以上ずっと同じ会社しか見ていない人たちが集まって改革だ、イノベーションだって議論しているわけですが、さすがに無理がある」と率直な感想も述べておられます。
私も先日「プロパー重視」の文化について異を唱える記事を公開しました。南場さんも指摘している通り、新卒プロパーが幹部候補生としての「正規パス」であることが企業文化の硬直化を生んでいると思います。もっと言うと、近年問題となっている正規・非正規の格差についても、正社員になるチャンスが大きく新卒採用に偏っていることが原因の1つだと考えています。
つまり、人に対して仕事を割り当てていく「適材適所」の考え方から、仕事に対して最適な人を割り当てていく「適所適材」の考え方への移行が必要です。例えば欧米では起業家というのは非常に尊敬されています。それが成功でなくても、撤退経験も含めてキャリアとして認められています。
一度経営者の視点を持った方というのは、ビジネスの仕組みを高いレベルで理解しています。それはいち社員となったとしても、組織に良い効果を発揮するでしょう。
LinkedIn(リンクトイン)ではさらに「主婦(夫)も立派なキャリアである」という考えから、プロフィールに記載する雇用形態の1つにこれを追加できるよう改善をしました。
変化しつつある働き方に加え、採用にも多様性がもたらされることで組織はもっともっと強くなっていくでしょう。
実際に新卒で入社した人がどのような環境にいるのでしょうか。最近話題の書籍によると「どうでもいい仕事をやらされているのが半分」という状態なのかもしれません。
与えられた仕事にブルシット的要素が多いと、働く人の熱意は低下する。仕事がもたらすはずの達成感や、「やればできる」という心理学でいう自己効力感も得られない。生活や世間体のためにイヤイヤ働くという、誰も得をしない不幸な状態が続くのだ。
残念ながら今の日本の職場は多くの人がはつらつと仕事に向き合うというよりも、「ブルシット・ジョブが半分」というグレーバー流のディストピア(反理想郷)に近いのが実情かもしれない。
活力や熱意や没頭。これらは個人の働くモチベーションに直結するものです。自分がやりたいことをやって結果が出るというのは、一番仕事にやりがいを感じる瞬間でしょう。
上記の記事ではやらせるのではなく、自ら志願する「手挙げ文化」に取り組む会社が紹介されています。
「手挙げ文化」の浸透をめざすのは丸井グループだ。部署の異動から社内会議の傍聴まですべて手挙げ方式で希望者を募り、その理由を書いた作文で選考する。その結果、中期経営計画の説明会に部長が出席できず、部下の若手女性社員が参加する、といった光景が日常茶飯になった。
「自ら手を挙げることで変化が生まれる」という組織ルールが定着すれば、仕事の「やらされ感」や「押し付けられ感」は大きく低下し、組織は元気になるだろう。
このような会社が増えることで、個々人がより働きがいを感じられるようになることを心から願っています。
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タイトル画像提供:takeuchi masato / PIXTA(ピクスタ)
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