銀行と証券の情報共有制限が無くなると、企業の資金調達に何が起きる!?〜「大和証券SMBC」解散を経済学の視点で考察〜
私たちが仕事を行う企業は、ざっくり2種類の方法で資金調達を行います。一つは、銀行等からお金の借り入れる負債。もう一つは、投資家から出資してもらう株式です。前者は銀行の力を借りることが多く、後者は証券会社の力を借りて株式出資者を募ることが多いです。日本では、〇〇証券会社、▽▽銀行と、銀行と証券会社が別々の主体で活動を行うことが多いです。というのも、日本には同じグループ内の銀行と証券会社との間の企業顧客情報の共有を制限するファイアウオール(FW)規制が存在し、同じグループ内でも銀行と証券会社のシナジーが発揮しきれないとの指摘もあります。(ファイアーウォールとは、万里の長城をもじった言葉です)
しかし、この規制が変わりつつあります。日本の経済成長力を高めるために、政府が7月に開いた成長戦略実行計画で変化が起きたのです。国内金融機関の国際競争力を向上させるためFW規制緩和の検討が開始されたのです。FW規制緩和(グループ内の銀行と証券会社の情報共有に関する規制)が本格的に行われたら、企業の資金調達に、プラスとなるのか、マイナスとなるのかの考察します。
*もしも、銀行と証券が顧客情報を共有したら…?
銀行と証券が顧客情報を共有できるようになれば、何がおこるのか?この問いへのヒントは、「大和証券SMBC」という企業の解散前後の変化に詰まっています。「大和証券SMBC」は、私のかつての勤め先であり、大和証券グループ(以下、DSG)と三井住友フィナンシャルグループ(以下、SMFG)が共同出資をして作った合弁会社です。この会社は、法人向け証券ビジネス(≒投資銀行ビジネス)を拡充させるために、SMFGから銀行借り入れを行う企業情報と、DSGが行なってきた情報を、顧客の許諾を受けたうえで情報共有を行い、クライアント企業の円滑な資金調達サービスを提供していました。まさに、銀行と証券会社の情報網による、シナジー効果が生まれていたわけです。実際、Akiyoshi(2019)では、大和証券SMBCは、DSGとSMFGのシナジー効果もあり、1999年から2008年にかけてのIPO引き受けシェアは約22%と、国内投資銀行業務で長くNO1の野村証券に肉薄する勢いだったことを報告しています。
*なぜ、銀行と証券会社の情報共有が金融会社の競争力強化になるのか?
しかし、なぜ銀行と証券会社の情報共有が当該金融機関の競争力強化になるのでしょうか?Akiyoshi(2019)では、負債など銀行借入は同一企業では頻繁に起こるものの、株式発行・社債発行など直接金融による資金調達は同一企業では頻繁に起こるものではない。なので、過去に株式を発行した企業に対して、もう一度株式発行をするように、証券会社がセールスしたところで起こるわけもないし、過去に株式や社債発行を行った企業の情報網を保有しているだけでは、証券会社の競争力向上に繋がりにくい。だからこそ、クライアント企業の資金調達ニーズや最新情報を入手しやすい銀行の情報網があると、証券会社は株式発行・社債発行など直接金融による資金調達サービスのチャンスも取得しやすい環境になることに触れています。
例えば、一時期ANAが株式発行を検討かと報道されていましたが、これは株式発行が頻繁に行われるわけではないので、注目が集まるのです。なので、過去に株式発行をした経験を持つ企業の情報網を保有しているだけでは、潜在的に株式発行を考えている顧客を取り逃す可能性があるのです。
*銀行と証券会社の情報共有が進むと何が起こる?
しかし、その大和証券SMBCはリーマンショック後に、DSGとSMFGの意向の違いから解散となり、業務はDSGに受け継がれました。Akiyoshi(2019)では、大和証券SMBCの解散前後のDSGの企業価値と大和証券SMBCのクライアント企業の資金調達環境への影響に、同社の解散が関係しているかを検証しています。この因果関係について計量経済学的な視点で迫っています。解散前は、上述した通り、大和証券SMBCに国内投資銀行業務において競争力が向上が見られました。一方で、解散後はDSGの投資銀行業務の競争力へマイナスインパクトが起きたことを報告。更にには、大和証券SMBC時代のクライアント企業は、銀行と証券のサービス提供により相対的に魅力的な値段で株式・債券発行できていた環境が、解散後に崩れたことを報告しています。
ここから示唆されるのは、米国やドイツのように、グループ間で銀行や証券がクライアント企業の情報共有をしやすくなることは、当該金融機関の企業価値だけでなく、クライアント企業の資金調達にも寄与する可能性があることです。ただし、悪用しないためにも、行政によるガバナンスは必須でしょうが。
*今回、紹介した論文
ファイナンス研究における世界トップ3に入る学術雑誌に掲載された実証研究です。規制緩和の影響は、してみないとわからないことは多いものの、仮想的に似た状況を探してきて考察するのは、シミュレーションを行う上で有効な手段の1つです。ぜひ、ビジネスでも活かして頂けたらと思います!
ここまでよんでくださり、ありがとうございます!
応援、いつもありがとうございます!
崔真淑(さいますみ)
(表紙の画像は、崔真淑著『30年分の経済ニュースが1時間で学べる』(大和書房)より引用。無断転載はご遠慮くださいね♪)
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