見出し画像

エネルギー基本計画はなぜ誰からも評判が悪いのか。

まず最初に申し上げたいのが、誰からも評判が悪い施策が悪いからといって、施策そのものが悪いとは限りません。
誰かから歓迎され、誰かから批判されるという政策はたいていバランスを失しているというのは、行政官だった私のお師匠様が良く仰っていたことで、「みんなから批判されるというのは、実は良い政策であるという矜持を持つべき」というご示唆は今でも覚えています。
いまは政治家も行政官もすぐ「世論」の顔色を窺いますが、評価は後からついてくる、という強い信念も大事でしょう。

ただ、今回のエネルギー基本計画はことのほか、しかも、実現性がないという批判のオンパレード。再エネ推進で原子力に否定的な方からも、再エネへの依存度を過度に高めることに懐疑的で原子力は容認という方にも、同じように批判されています。例えば下記の橘川さんの論考など。(この論考はこの論考で、同意できかねるところが多く、それはこちらにコメントしてます)

計画の素案を策定した経済産業省におのずと批判が集まるのですが、これは計画を批判しても致し方のないところがあります。

計画がオーソライズされる頃には、2030年はほぼあと8年後。
8年で増やせる再エネは工事期間の短い太陽光発電です。ただ、この狭い国土の日本では条件の良い土地はほぼ既にメガソーラーが入っています。

下記は、経済産業書資料ですが、絶対量では日本は中国、米国に次ぐ太陽光発電導入量。これを国土面積当たりにすると、日本は世界一になり、平地面積当たりにするとダントツの(2位のドイツの倍以上)第一位です。

画像2

要は、平らなだだっ広い土地が日本にはないということです。
建物の屋根や駐車場上などを丁寧に開発する必要があり、政府が新築住宅への太陽光発電設置義務化を考えていることに、私は賛成ではありますが、規模が小さい案件をたくさんやるのは、ファイナンスコストの観点など考えても、低コスト化が難しいことは覚悟せねばなりません。かつ、新築戸建て住宅すべてに太陽光発電を設置したとして、どれくらいのCO2が削減できるのかは定量評価が必要。
そうなると、8年というスパンで活用できる低炭素電源としては原子力の再稼働しかありませんが、こちらは原子力規制委員会の安全審査が進まず、ずっと停止したまま。
東京電力柏崎刈羽原発に見るような原子力関係組織の危機的停滞も生じてしまっているので、この状況を打開することは容易ではありません。原子力の廃止のためにも安定的かつ高度な技術が必要なのに、原子力政策を正面から議論せず放置し続けてきたのは、政治の怠慢との批判は逃れられないと思いますが、今回もこの原子力問題には触れずに計画を書くことになったわけです。

2050年ネットゼロも、2030年46%削減も、大幅なイノベーションが無ければ実現不可能です。だから諦めようではなく、これをターゲット(ピンポイントの的)ではなく、ゴール(サッカーゴールのように幅があるもの)と捉えて、そちらの方に進みながらも、適宜チェックをして、軌道修正・手法修正をするしかない。
コストや安定供給などの限界ポイントは事前に決めておいた方が良いでしょうね。
本来そうしたことにチャレンジすべきだったと思いますが、従来通りのやり方でエネルギー基本計画を出そうとしたらこうなります、というお話だと思います。

今までの基本計画とは違うかたちで、政府の構想・計画を示そう、というところにこそ政治のリーダーシップがほしかったなぁと思いながら。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?