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耳から入ってくる情報をやさしいと思った。ラジオとパワポの話。

僕はハガキ職人をやっていた。

勉強するのが嫌で、でも机に向かっていないと怒られるから。

机に向かって、耳はイヤフォンで塞いで、ラジオを聴きながら、ハガキを書いていた。

20年以上前のことだ。


10年後、僕はパワポ職人になっていた。

PCに向かって、仕事をしているフリをして、パワポで遊んでいた。
くだらないことをパワポでまとめてはTwitterで発信していた。


それがきっかけになって、もう3年も日経COMEMOでキーオピニオンリーダーをやっているのだから、人生はなかなかにわからない。

今日はそんなラジオの話。パワポをまじえて。

■4マス+1

突然だが、あなたは4マスという言葉を知っているだろうか。

4マスとは「4マスメディア」の略で、広告業界の用語。
広告出稿における4大主要メディアのことを指している。

僕が17年前、今の広告会社に入った時はこの言葉が日々飛び交っていたが、最近はめっきり聞かなくなった。

理由はこの4マスの中身にある。

当時、マスメディアと呼ばれていたのは

1.テレビ
2.新聞
3.雑誌
4.ラジオ

だった。

今では信じられないが「デジタルメディア」が入っていなかった。僕が入社した2007年ですら、広告費のシェアで言えば、

1位.テレビ
2位.新聞
3位.雑誌
4位.デジタル
5位.ラジオ

だったが、なぜかデジタルメディアは「その他」扱いされていた。

案の定、デジタルメディアはその後ランキングを上げ、2021年には4マスが束になっても敵わないメディアになった。

4マスという言葉が、消えた瞬間だった。

そんな(死語になった)4マスの中で、最近のZ世代が注目しているメディアがある。

ずっと最下位だった「ラジオ」だ。
僕が好きだったラジオだ。

■Z世代とラジオ

先日、こんな調査リリースに携わった。

現役大学生における(かつての)4マス接触率を調査したところ、新聞や雑誌を抜いてラジオが2位に躍り出たのだ。

この結果を目の当たりにして、なんだか胸が熱くなった。

リリースでは、ラジオがデジタルを通じて身近になったことや、タイパを重視するZ世代と「ながらメディア」であるラジオの相性の良さが語られていた。

もちろん、それはある。

それはあるのだが、ラジオというメディアが持つ「やさしさ」が今の価値観とフィットした側面もある気がする。

■「生声」というやさしさ

当たり前だが、ラジオは音声メディアだ。

つまり声のメディアだ。

毎週同じ番組を聴いていれば、毎週同じ声が情報を伝えてくれる。

毎週聞いているからこそ、声の変化にも気づく。

「今日は体調が悪いのかな?」とか「昨日歌いすぎたのかな?」とか、勝手にあれこれ考えてしまう。

それはテロップの入った動画や、加工されたグラフィックとも違う「無編集の魅力」だ。

編集されたコンテンツや情報で溢れる世界になったからこそ「編集されていない」という生っぽさが、今の若者に安心感を与えているのかもしれない。

■「つながらない」というやさしさ

もう1つ、ラジオの特性として挙げられるのは「非双方向性」だ。

デジタルメディアが台頭してきた時、その特徴は「インタラクティブ(双方向)」にあると言われ、一時は「インタラクティブメディア」と呼ばれたこともあった。

つまり発信者と受信者が直接つながれることが新しかったのだ。

でも今は、それが当たり前だ。

デジタルが新たなマスメディアになり、「直接つながれるメディア」の方がマジョリティーになった。

だからこそ「直接つながれない」という特性が「希少価値」に変化した。

■「ひとり」というやさしさ

最後に大事な特徴を1つ。

ラジオはつながれないからこそ、発信者は受信者のリアクションをいちいち気にしながら話す必要もない。

つまり「ひとり語り」ができる。

この「ひとり」は、ラジオにとって最大の価値かもしれない。

受信者も同じだ。

ラジオはリスナーを「ひとり」にしてくれる。

イヤフォンをしてラジオの世界に入ってしまえば、そこはもう「ひとりの世界」だ。

取り上げられるメールやハガキの話を聴きながら、それぞれの「ひとり」の声に耳を傾けたり、傾けなかったりする。

今は「常時接続の世界」だ。
常にだれかとつながっている。

そんな中でラジオは、ひとりの時間をくれる。
ひとりを尊重してくれる。

つながりを完全に断ち切るわけでもなく、完全な一方通行でもない。

そんな「ゆるめのひとり」になれるのもまた、Z世代が感じるラジオの価値なのかもしれない。

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小島 雄一郎
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