社会貢献の要素がない仕事は、存続できない時代に来ているのかもしれない
私自身がはじめて仕事で社会貢献に関係したのは、20年ほど前に当時所属していた会社の社内論文制度(社内提案制度に近いものだった)で、本業に関連したNPO を立ち上げることを提案したことに始まる。この論文が入賞したことがきっかけで、まだ存在していなかったその会社の社会貢献部署を発足させるプロジェクトのメンバーになった。
社会貢献部署がどのような目的と業務内容を担うべきか検討するなかで、その知見を得るためにNPO/NGO と深く付き合い、また実際に社会貢献のプロジェクトとしてチャリティの写真展を企画運営し、最終的にはニューヨークでも開催、その際に国連事務総長の表敬訪問を行ったりもした。
結果的に新設された社会貢献部署には所属しなかったが、それ以降の仕事では、この時の経験が大きく影響していると感じる。
例えば NPO/NGO は非営利組織であるが、営利組織である民間企業と何が違うのか、社会的にどのように役割分担をすべきか、といったことは常に考えながら仕事をしてきた。言ってみれば、この案件は営利組織と非営利組織どちらがやった方がうまくいくのだろうかということを常に考えている。
一般的に、社会貢献といえば、ボランティア活動を含め非営利組織がやるものと考えられる傾向にあると思う。しかし、 NPO/NGO と深く関わった経験からすると、こうした非営利組織は常にその活動資金を得るためのファンドレイジングに奔走しなければ活動が止まってしまう。非営利の活動とはいえ事業資金がなければ何も出来ない。例えば、清掃ボランティア活動一つにしても、実施の告知をして人をあつめ、清掃用具を準備し、集めたごみを入れる袋を買ったり、そのゴミを処分場に運搬するトラックを手配したりと、資金ゼロでは成り立たない。
こうした非営利組織に集まる人・参加する人は、たいていは実際の社会貢献事業をやりたくて来ているのであり、ファンドレイジングをしたいと思ってくる人は限られている。このため、なかなかファンドレイジングの人材が育ちにくく、継続的に十分な活動資金を確保することが難しい。また日本には、例えばアメリカと比べた時に、「寄付文化」とでもいえるような、一般社会に寄付が根付いているとは言いがたい。また非営利事業に対する寄付が税制的に優遇されるというメリットも少ない。こうした事情から、適切な寄付先を探しにくい、という問題もある。
一方、この20年ほどの間に行われた会社法の改正で、会社設立のハードルが下がったり利益処分の自由度が上がるなどして、いわゆる「社会的企業」が存在しやすくなった。このため、社会貢献事業を必ずしも非営利でやらなくてもよい環境に変わってきていると感じる。
そして、先般イギリスで開催されたCOP26を見ても、もはや社会貢献を営利企業が事業の一環に組みこまなければならない状況に来ている、というべきだろう。特に環境の面における営利企業の取り組みは、もはや従来の社会貢献という枠組みを超えて、事業の存続、そして企業の存続にも直結するほどの問題になっている。以下の記事によれば、企業に投資する側が、環境に配慮する事業展開を求め、最悪の場合は資金を引き揚げる可能性にも言及されている。
むしろ、こうしたルールを作ることによって、自社や自国に有利な競争環境を作ろうという意図で国際的な取り決めがされていると理解するべきだろう。
この点で、日本ではまだ、フィランソロピーや CSR といった、やや古い観点での企業の社会貢献の捉え方が根強く残っているように思う。
このような現在の国際的なビジネス環境からすれば、社会貢献要素の全くない仕事というのは考えにくくなってきているのではないだろうか。むしろ、自分が取り組んでいる仕事を、どのように社会貢献の要素も含めながら会社の営利事業としても成立するように作っていけるのか、といったことに知恵を出すことが求められているのだと思う。
こうした流れは、SDGsやESGの潮流とも軌を一にするもので、資金調達の面ではESGを前面に打ち出すことによって有利に資金調達するという戦略も出てきているという。
SDGsやESG投資といった言葉も、単なるバズワードではなく、こうした観点を事業に組み込まなければ企業経営は成り立たない段階に来ているのだと言ってよいのだろう。
裏返せば、自分が日々行なっている仕事と、社会貢献を両立させることができる素地は急激に増えてきているということになる。「脱炭素は成長戦略」という指摘すらある。
そして、企業が優秀な人材を獲得するために、そうした社会貢献的要素を含んだ事業展開をしていることをアピールできなければ、人材を思うように確保できない時代にある、ともいえるかもしれない。
今、私はアフリカの教育関連事業に関わらせてもらっているが、それも偶然とともに20年前の経験から意識的に選択した一面がある。一緒にプロジェクトを進めている20代のメンバーも、事業に内包された社会貢献の要素に魅力を感じているのだと思う。
「社会貢献」といった時にボランティアと思ってしまうのではなく、いかに社会貢献を事業の一環とするか、という発想の転換が求められているのだと思う。