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令和時代のお店の役割『顧客へ提供する価値は合理性か?それとも体験か?②』ー体験篇ー

「モノ」から「コト」消費にと言われているように、サービス業において顧客にどのような「体験」を提供するのかという問題は大きな課題だ。特に、「体験」の重要性が増してくるのは大企業よりも中小企業だろう。なぜならば、GDP比で言えば、「合理性」を重視する顧客数の方が「体験」を重視する顧客数よりも大きく、市場が大きいためだ。これは、小売り業界や外食業界、服飾業界の産業構造を見た時に、「安く、早く、品質そこそこ」をウリにした大企業が売上高ランキングの上位を占めることからもわかる。人類の社会構造は、有史以来、どうあってもピラミッド型を描き、全員が中級層という共産主義的な世界を作ることは成功していない。合理化を推し進めた商品群を好む人々の方が絶対数が多いのだ。そのため、「合理性」を追求したビジネスは大企業が強くなる。

一方、中小企業の状況は一層厳しくなる。特に、地方に行けば行くほど深刻な状況になって来る。地方都市の多くのビジネスは、首都圏との所得格差があるために、安売りすることが前提のビジネスモデルを構築することが多い。筆者が東京から大分県に来て驚いたのが、「食べ飲み放題 3,000円」のサービスをうたった飲食店の多さだ。その価格設定では、どう考えても利益構造が悪く、経営の足腰が弱くなってしまう。そこに、同価格帯で大企業のチェーンが参入してきたとたんに、地場ビジネスは破綻してしまう。

テクノロジーの進化は地理的な障壁をなくし、「Every-time, Everywhere, Everything(いつでも、どこでも、何にでも)」、ビジネスを展開することが可能になってきている。今は、出店コストに対して地方都市の市場規模が小さいことから出店してきていない大企業が、テクノロジーの進化によってコストが下がり、進出してくる未来は安易に予想できる。そうした時、地方都市の中小企業は、全て駆逐されかねない。スーパーマーケットとコンビニの登場によって、商店街が壊滅した過去の再来だ。


地方の中小企業こそ、「体験」を重視せよ

地方の中小企業が持続可能な発展(生き残りと言い換えても良いかもしれないが)を果たすためには、「安売り」モデルからの脱却が必要だ。そして、それは地元市場を主な対象としたビジネス形態からの卒業も意味する。

テクノロジーの進化は地理的な障壁をなくすと前述したが、これは地方の中小企業にとっても武器となる。上手くビジネスモデルやマーケティング戦略を構築することで、地理的に離れた場所でも市場となりうる。葉っぱビジネスがヒットし、一昔前に時の人となった徳島県勝浦郡上勝町の株式会社いろどりが、日本国内での成功事例の1つだろう。


海外の事例にはなるが、タピオカミルクティーの世界的なブームの火付け役となり、連日観光客が押し寄せる、台湾の「天仁茗茶」も地理的な制約をビジネスモデルで突破した事例だ。


地方のお店であっても、顧客に特別な「体験」を届けることで、地元市場の制約に縛られずにビジネスを展開することが可能だ。それでは、地元市場に縛られない顧客とは、どのような対象を指すのだろうか?

そこでキーワードとなるのが、「関係人口」だ。


「体験」重視の地方型お店の未来は、関係人口が成功の鍵となる

「関係人口」とは、一言にまとめると地方都市のファンである。総務省によると、「関係人口」とは、移住した「定住人口」でもなく、観光に来た「交流人口」でもない、地域や地域の人々と多様に関わる人々のことを指す。


住んでいるわけではない、旅行者でもない、その地方都市や地域のファンとして、長く交流し、愛してくれる。この関係人口を増やすことが、地方都市における地場企業、特に「お店」の売上を伸ばすために重要となる。

「関係人口」とは、言い換えると、特定の地方都市に高いブランド・ロイヤリティを有した人材ともいえる。ブランド・ロイヤリティはマーケティング論の用語で、顧客があるブランドや商品、またはサービスに対して感じる「信頼」や「愛着」を持つ。顧客満足度と比べ、感情的に企業やサービスへ持つ強い結びつきを表し、宣伝や営業活動を自主的に行ってくれることもある。

例えば、宮崎県新富町の一般財団法人こゆ地域づくり推進機構の取り組みは、2年間で1万人以上の関係人口を創出しており、起業人材の移住を加速させている。


同地域は、ユニリーバジャパンのTeam WAA!との共同プロジェクトでも成果を出しており、関係人口を爆発的に増やしている。


地方都市の「お店」の将来は、「関係人口」を増やす拠点

「モノ」消費から「コト」消費へ、「体験」重視のビジネスというと、リッツカールトンのような洗練された高級サービスを連想する人が多いかもしれない。しかし、これまで述べてきたように、「体験」重視のビジネスは特別なスキルや技術、機材や施設などの設備もいらない。適切なビジネスモデルやマーケティング戦略があれば、実現可能だ。つまり、アイデア勝負である。

その中で、「お店」の将来は、地方都市や地域の関係人口を増やす窓口として機能することが期待されている。自分たちの地域の良さを誰よりも知っているのは、ほかでもない地元でビジネスをけん引してきた中小企業だ。彼らが「関係人口を増やすためには何ができるのか」、真剣に考え、地元市場に捉われない広い視野を持つことができたとき、「令和時代のお店の新しい役割」が生まれるだろう。



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碇 邦生(大分大学)

大分大学経済学部の講師(人的資源管理論)をしています。採用や育成などのタレントマネジメント、地方創生・地方発ベンチャーなどの話題を中心に取り上げていきます。自動車メーカーやシンクタンクを経て、30代で大学教員とジョブホッパーです。 ※日経のキーオピニオンリーダーに選出されました。

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