見出し画像

「女性に」ではなく「すべての個人」が活躍できる社会になろう【日経COMEMOテーマ企画_#女性に活躍して欲しい理由(遅刻組)】

なぜ「女性に」という枕詞が必要なのか?

働き方改革において、最重要事項の1つが女性活躍推進だ。残念なことに、現在の日本社会は主要先進諸国どころかG20と比べても男女格差が大きく、女性が背負う先天的なハンディキャップが大きい。具体的には、所得格差、管理職などの組織内の重要な地位に占める女性の割合、家庭内における業務負担の不公平、社会的望ましさのバイアス(Social-desirability bias)があげられる。これらの課題を是正し、女性だからとハンディキャップを負うことのない社会が求められている。

そのような世相を反映してか、日経COMEMOにて「#女性に活躍してほしい理由」というテーマ募集がなされた。しかし、そもそもこのようなテーマが設定されていることが問題なのではないかと定義したい。なぜ、「#女性に活躍してほしい理由」を我々は語らないといけないのか。

ダイバーシティの基本は「すべての人は違う」

女性活躍推進というと、ダイバーシティの問題として扱われる。ダイバーシティの問題に含まれる対象は多様だ。LGBTやシニア人材、障害者などが含まれる。米国の人事系の学会やシンポジウムに参加すると、それに加えて退役軍人や前科者もホットトピックとして頻繁に扱われる。

しかし、一見、ダイバーシティに対して先進国である米国であっても、女性活躍推進における課題がすべて解決したとは言い難いのが現状だ。ダイバーシティ研究者のロチオ・ロレンゾ氏による2017年のTED TALKの内容が端的に表している。特に、イノベーションのような革新的な成果を求めるとき、ダイバーシティによる強みを活かすには専門的なマネジメント行動が求められる。

革新的な成果を志向するときに、求められるマネジメント行動の基本は3つだ。

1つ目は、ダイバーシティには2種類あるということだ。性差のように目で見てわかる違いは「人口統計的な多様性」と呼ばれる。一方、価値観や思考方法のような認知プロセスの違いは「認知的多様性」だ。まずは、この2つの多様性が存在することと、概念として切り分けることが第1歩だ。

2つ目は、部署の業績を向上させるには「認知的多様性」への対応のほうが重要度が高いということだ。「人口統計的な多様性」を高めても、ただそれだけだと部署や個人の業績が上昇するか、減退するかはケース・バイ・ケースだ。例えば、女性管理職を増やしたくてロールモデルとなる女性管理職を設定したが、その苛烈な働き方に他の従業員は「同じようになりたくはない」と逆にモチベーションが著しく低下することがある。ロールモデルを機能させるには、画一的なイメージを提示するのではなく、個々人の事情や個性を把握してうえで個別対応するのが基礎となる。そのため、3つ目の基本が重要になってくる。

3つ目は、リーダーの行動だ。「人口統計的な多様性」と「認知的多様性」を両立させるということは、「そもそも人間はすべて違いがあり、異なる思考や価値観を持つ」という前提を組織や部署内に共通認識として持つということだ。これは、「新卒から終身雇用で、阿吽の呼吸が通じるのが仲間だ」という日本的経営の当たり前を否定することにも繋がる。それでは、異なる価値観や思考を持つ人材をどのようにチームとしてまとめるのか。そこで重要になるのが、リーダーの行動であり、メンバー一人一人の個別マネジメントだ。

例えば、多様性を活かしつつ、チームとしてまとめるためにはメンバー同士で共通の目的意識やゴールを設定することが有用だとされている。香港理工大学の研究パートナーによる研究結果では、変革型リーダーシップと呼ばれる変革のビジョンを提示してメンバーを方向づけるリーダーの行動が有用であると結果が出ている。

また、1on1ミーティングのように、管理職が部下と業務時間内にコミュニケーションをとる時間と頻度を高めることが求められているのも同様だ。異なる価値観や考え方を持ちながらも、進むべきゴールや達成すべき目的を摺合せ、協業のルールとなる行動規範を確認することでチームとしての一体感を持つながらも多様な価値観を活かすことができる。例えば、Netflix が率直なフィードバック、しかも否定的な意見を歓迎するのは、多様な価値観を活かすための行動規範である。つまり、多様な価値観や考え方とチームとしての一体感は二律背反ではなく両立できるということだ。そして、そのためにはリーダーによるマネジメント行動が鍵となる。

功利主義的な女性活躍論から卒業しよう

本当に女性活躍推進をしたいのであれば、まずは「#女性に活躍してほしい理由」というメリット探しをすることから辞めよう。メリットがあるから行動するような功利主義的な女性活躍論は、ダイバーシティ・マネジメントの研究成果から得られた知見とは趣を異とする。

すべての従業員やチームのメンバーが能力を発揮し、活躍できる場を作るには、「すべての個人の違い」を尊重することが基本なのだ。その上ではないと、どのような施策を講じても大きな成果を得ることは難しい。そして、「すべての個人の違い」を活かすために、現場のマネジメント層によるメンバーの個別マネジメントが鍵となる。個別マネジメントができない管理職は、これからは必要な職責を果たすことが難しいビジネス環境に変化しているのだ。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?