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情報戦でもある新型ウイルスとの戦い

新型のコロナウイルス(COVID-19)についての情報は、公式なものからデマまで、ありとあらゆるものが溢れかえっているのが現状だ。

どうしてもセンセーショナルな情報に目が行き、それが拡散されて、必要以上の不安をかき立てられている。それによって、ややヒステリックと思える行動が、個人から国に至るまで、世界中で散見されるようになってきている。

こうした中、冷静に自社や組織の対応をわかりやすく説明し、安心してもらおう、という動きが少しづつ見られるようになってきている。

具体的に私が受け取ったものを紹介すると、たとえば、TAITRA(台湾貿易センター・中華民国対外貿易発展協会)は、トップのメッセージとして、台湾で開催される展示会に際し、TAITRAが参加者の健康の確保に最大限の努力をしていることを伝え、参加できない場合においてもオンラインの手段を使って展示会の機能を補う、という表明を、メールアドレスを登録している台湾国外の関係者にメールで送信している。以下はその全文である。

また、香港のキャセイパシフィック航空は、自社のコロナウィルスへの対応について、わかりやすいサイトを作って公開するとともに、マイレージ会員等メールアドレスを登録している顧客に対して「お客様の健康に対する取り組み」と題したメールを送信し、上記のサイトにリンクして、同社の取り組みを紹介している。しかも、日本人向けには日本語で情報提供がなされている。

もちろん、日本の企業や組織も様々に対応をとっており、その実質的な内容は諸外国と比較して遜色はないものと思う。

ただ、こうした情報を提供するという姿勢についてはどうだろうか。私が日本人だからかもしれないが、日本の企業や組織から、上記のようなメール等をまだ受け取っていない。もちろん、私がメールアドレスを開示し、登録している範囲でのことであるから、網羅的な話ではないし、実際には受け取っていても見落としている可能性もある。しかし、海外よりも日本の企業や組織とのお付き合いやメールアドレスの登録が多いにも関わらず、日本のものを見かけないということは、こうした取り組みに手が回っていない会社や組織が多いと判断しても、あながち間違いではないのでは、と感じる。

それでなくても、日本のCOVID-19に対する取り組みは、必要以上に過小評価され、日本が危険な国であるという論調に傾いているのではないか、と思う。たまたま、2月中旬ケニアに滞在していた時に、現地のテレビ局がダイヤモンドプリンセス号の件を大々的に報じているのを目にした。以下はそのニュースのFacebook(2月16日時点)のスクリーンショットだが、いいね等の反応やコメントの数に関心の高さがうかがえる。

報道の内容はどうしても結果的に不安を煽るものとなりやすい。まして、距離の離れた国の出来事であれば、実際にはごく限られた範囲で起きていることであったとしても、あたかもその国全体で起きているかのような印象を抱くことは無理もないことだろう。

こうした状況において、どのような情報が対外的に発信されていくか、ということに想像力をめぐらすことは、極めて重要だ。もちろん、正確な情報が隠されることなく伝えらえることが重要なのだが、往々にしてセンセーショナルな部分だけが切り取られ、全体像を理解するにはバランスを欠いた形で伝えられることは、ある程度致し方ないところがある。

そこを考慮するなら、最初からセンセーショナルな部分だけを切り出して伝えるような姿勢は、その内容が専門家による正確な情報であったとしても妥当性を欠くものと私は考えている。実際にそのような事態が発生してしまっていることを、非常に残念に思う。

一方で、せっかくあるべき取り組みをしているのであれば、それが大々的に拡散されることはないとしても、地道な広報活動をしていく必要がある。それでなくても目に留まりにくい情報なのだから、自社のホームページのお知らせ欄に掲載しただけ、というのではなく、送信して構わないメールアドレスに対しては節度を保ちつつ積極的な情報発信を心がけるべきであると思うし、その情報も、単に文字の羅列になるのではなく、写真や動画なども活用した、見やすくわかりやすいものにする工夫が必要だろう。また今回のようなケースであれば、最低限英語での情報を用意することは必須の対応だ。

政府専門家会議は、その見解の中で、

我々は、現在、感染の完全な防御が極めて難しいウイルスと闘っています。このウイルスの特徴上、一人一人の感染を完全に防止することは不可能です。

と述べ、もはや「水際対策」の段階は過ぎ、これから出来ることは感染拡大のスピードを遅らせ、ピークの患者数を低く抑えることで、医療現場の混乱を防ぎ、重症者と死者の数をなるべく減らすことである、としている。

こうした感染の拡大は抑えられない状況の中で、医療従事者等の感染した患者に直接対応をする立場ではない私たちが考えるべきことは、いかにしてこのウイルスによる経済的なダメージを最小限にとどめるか、ということだろう。最悪の事態としては、経済的なダメージによって倒産等が起こり、それに起因する自殺者等が発生する可能性は大いにある。恐れなければならないのは、ウイルス感染による死亡だけではないはずだ。

紹介したTAITRAやキャセイパシフィック航空のような取り組みは、さしたる費用は掛からないものの、自社の取り組みを対外的に開示することで、社会が落ち着きを取り戻すための一助となるとともに、この災厄から抜けだしたときの業績の回復を他社に先んじて得るための重要な施策でもあると思う。

新型ウイルスとの戦いは、もはや医療面にとどまらず、情報戦の一面を伴っている。この点を踏まえて、国のレベルから企業・組織、そして個人に至るまで、どのように適切に情報を発信し伝えていくか、改めて真剣に考えるべき時であると思う。

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