学校教員、若者理解のためにアニメイベントを訪問 教員研修の一環で=ドイツ
ドイツ中央部の町エアフルトで2月頭にアニメ漫画イベント「MAG-C」が開催されました。イベントには公的機関が協力し、学校教員向けにメディア教育研修が実施されたようです。背景には、親と子/先生と生徒の間の理解差がありそうです。今回はそのあたりの事情を考えてみたいと思います。
まずお断りしておきたいのは、筆者は教育分野の専門家ではないということです。ドイツにおけるアニマ・マンガ文化の受容に注目しつつ、国際交流の機会を探り、時にはイベントに協力していたりします。
日本では、「教員研修」といえば英語や情報といった科目への対応は社会の課題でもあり、メディアでも注目されています。
今回、取り上げるのは、こういった日々変化する授業内容への対応ではなく、学校教員が生徒をよりよく理解するための試みとなります。
まず、イベント「MAG-C」は、「マンガ」、「アニメ」、「ゲーム」に「コスプレ」を加え、それぞれの頭文字から名付けられています。ドイツ中央部、テューリンゲン州の州都エアフルトで開催された、比較的新しいイベントです。公共放送「中央ドイツ放送(MDR)」によると、今年は1万1,500人を超える来場者がありました。イベントには在ベルリン日本大使館から公使が、州政府からは経済相が招かれており、国際交流の場になっていたのがうかがえます。
この「MAG-C」の関連情報を調べていると、メディア教育研修の存在が明らかになりました。アニメイベントの場に学校教員や参加者を子供に持つ親、保護者を対象にしたものです。テューリンゲン州のメディア規制当局が、イベント主催者と協力し、実施するもので、州内の学校教員が参加すれば、州政府が定める教員研修として認定されるというものです。(以下に概要サイト、ドイツ語)
筆者はネット上で公開された事前情報を見ているだけなので、実際に開催されたかは確認していません。
研修内容は、イベント内を視察し、日本の若者/サブカルチャーへの理解を深め、その後、議論を行うとあります。世界中の子供、若者、大人たちを魅了するアニメ、マンガ、ゲーム、コスプレの魅力を探り、およそ適切な対応策について考えるといった内容です。こういった試みはドイツでは筆者の知る限りレアなケースとなります。
これは、つまり、学校教員や親・保護者が、生徒や子供たちが熱中するアニメやマンガに対して、理解しようと歩み寄る姿勢を示していると筆者は考えました。もっと言えば、見る前から有害だなどと禁止するのではないということです。
同時に、学校や社会に、アニメやマンガに熱中する子供たちと学校教員などの親世代との間には、ミスコミュニケーションの存在が示唆されているようでもあります。
少し、イベントから離れた例を見てみましょう。
例えば、ドイツの民放SAT.1は、いわゆるリアリティ番組となる病院ドラマ「Klinik am Südring」で、コスプレに「ハマった」少女が脅迫的な変身願望により、心身ともに問題を抱えて病院で治療を受ける様子が放送されました。(オンラインでも公開されています)
彼女の親はコスプレ趣味にまったく理解を示さず、それが少女の心をさらに病み、コスプレに心酔する理由になるといった、極端に演出された作り話です。コスプレイヤーやアニメファンからは誇張された内容に批判が集まりました。
ただ、家庭における親子の間で、趣味を巡る理解、不理解の問題は一般論としてドイツでも存在するのだなとうかがい知ることができそうです。
もうひとつ例を。「コスプレとは何か?」(ドイツ語)という本が2016年に出版されました。
著者のフリチョフ・エッカルト氏は、ドイツにおけるコスプレ黎明期からコスプレ・コンテストの運営に携わってきた、ドイツにおけるコスプレ事情を最もよく知る人のひとりです。彼はこの本の冒頭で、想定する読者としてコスプレ趣味を持つ子供の親や学校教員などを挙げ、コスプレへの理解を深めるために書かれた点を強調しています。
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いかがでしょう?
アニメやマンガは、有害だと批判の的になったり、親が子供に、または先生が生徒に禁止することもあるでしょう。ドイツでは、先生や親といった大人は、自分たちの一方的な価値観で否定せずに、まずは理解しようと試みている「風土」があるように思いました。その端的な例が、冒頭のイベント「MAG-C」で触れた、メディア教育研修なのかなと思いました。皆さんは、どう思いましたか?
タイトル画像:アニメイベント「MAG-C」を報じる記事を撮影したもの。