アメリカのB2Cロイヤリティマーケティングの勝ち筋を考える
こんにちは、あらゆる組織とひとが融け合う未来をつくる、コミューンの高田です。
わたしたちは顧客起点経営(カスタマーレッドグロース)を当たり前にするCommuneというソリューションを日本語・英語で提供しています。
顧客起点経営とは
顧客起点経営は、「顧客満足を基盤として、企業のあらゆる事業活動に顧客の力を活かすこと」です。例えば顧客のUGC発信を促進し新規顧客獲得に活かすマーケ活用や、製品開発に顧客のアイデアを取り入れるR&D活用など、企業は顧客の力を活用することで力強く持続的な成長を実現できます。
市場縮小や人件費高騰、顧客のメディアパワー増加に伴い、顧客起点経営はすべての企業にとって必須の考え方になります。
さてコミューンの英語版はグローバルに使われていますが、アメリカに拠点を有しているため、特にアメリカのB2C企業と話す機会が多くあります。
そこでこの記事では、アメリカB2C企業と話すなかで見えてきた顧客ロイヤリティ施策の日本との違いや、勝ち筋の考え方について記述します。
グローバルに展開されている日本企業の方の参考になれば、と思っています。私自身まだまだ勉強中ですので、グローバル展開される日本企業の方にぜひコミューンを知っていただき、意見交換させていただくきっかけになれば幸いです。
日本企業のロイヤリティマーケティングは世界をリードしている (と思う)
いきなりですが、日本ほどロイヤリティマーケティングに頭を巡らせ、かつ効果的な取り組みができている国はないのではないか、と感じます。
その理由は下記のとおりです。
毎年90万人という急激な人口減少による顧客ロイヤリティに向き合う必然性
毎年1%ずつ市場のパイが小さくなっているなかで売上/利益向上を実現するために既存顧客のちからは必須
組織の横断的な取り組みを許容する企業文化があり、顧客最適な視点から顧客接点をつくることができる
顧客からすると、企業内の部門割やKPIの違いはどうでもよい。もちろん日本でもその課題はあるが、ジェネラリスト型社内異動も相まって相対的に部門の垣根が小さい
中長期的な取り組みを実行し、評価できる制度
顧客起点経営の成果を大きな果実にしていくのは数年スパンの取り組み。(特に意思決定者層の)人材流動性が低いためこのような中期的な施策にコミットが得られやすい
実際にアメリカの企業に対して当社が支援する日本のB2C企業の取組、その売上/利益貢献を伝えると、とても驚かれます。
また、当社のお客様のロイヤリティ施策の考え方や設計をお伝えすると、その練度に、「うちでも学んで取り入れたい」という声を聞くこともあります。
課題先進国であるからこそ、日本のロイヤリティマーケティングは世界をリードしている、と考えています。
アメリカに適用できるのか?
では、日本の素晴らしいロイヤリティマーケティング手法はアメリカでも適用できるのでしょうか?
私の現時点での見解は、「思想は適用できるが、アプローチは変える必要がある」です。
ロイヤル顧客を大切にし効率的な売上を創出することは大事だよね、顧客のちからを事業の様々な側面に活かすことが大事だよね、という思想は、市場によらず普遍的に重要なものです。
アメリカでも、それを説明して反対する人はいません。
しかし、アメリカ市場で日本と全く同じアプローチを取ることは極めて困難です。
その理由は下記だと考えています。
消費者のちがい: 簡便で即時的な価値提供
私自身も消費者として生活し、かつアメリカ企業や日本企業のアメリカ拠点の方とお話する中で感じるのは、アメリカの消費者の大部分は即時的なベネフィットを求め、かつ複雑なことは嫌う、ということです。
例えば、即座の見返りを期待する傾向が強いため、日本だとほとんどのスーパーマーケットで見るポイントを貯めるカードはあまりなく、Buy One Get One Freeや会員限定価格などの即効性のある特典が主流です。
とはいえ、別にアメリカの消費者が即時的にロイヤリティを持つわけではなく、そこは積み重ね=日本と一緒です。そのため、企業は中期的な視点でロイヤリティを考えながら、消費者向けには短期的なインセンティブを設計する必要があります。
企業論理の時間軸と消費者論理の時間軸の違いを理解することが重要です。
例えばコミュニティを通じたロイヤリティ施策では、
早いタイミングでの実利的なインセンティブ
消費者視点でROIが合う行動対価(リワード)設計
ゲーミフィケーションによる Engagement 促進
が重要です。
日本でB2Cコミュニティ施策をするときには、「インセンティブは付与しないべき。するとしても金銭価値がないものにすべき」がセオリーですが、これはコミュニティの核となるコアファンの方が中長期的に企業と関わりたいと考えていて利害が一致しており、金銭価値があるとそれ目当てのファン以外の方が参加してノイズになるリスクがあるためです。
しかしアメリカにおいては、コアファンの方でもそのコミュニティや企業に関わることによる自身への便益を強く意識するため、早いタイミングでのインセンティブ付与による成功体験や、消費者視点でROI(時間対効果)が合うリワード設計が必須です。なお、ちょっとしたインセンティブくらいだとまず当該企業に興味のない消費者は動かないのでポイント目当てのノイズはそんなに心配しなくてもよいと考えています。
市場のちがい: 広大な市場
今更ですが、アメリカには3.3億人の人口がおり、少し成長率は低下傾向とはいえ人口も前年比1%増加しています。
ゆえに、多くのB2C企業にとって、既存顧客からの売上増大ももちろん重要ですが、新規顧客獲得がより重要であることがほとんどです。
一方で顧客獲得にかかるコストが高騰しているのは日本もアメリカも変わりません。
特に北米では、Adsを見たときにクリックするなどのアクションを行わない、と答える人の割合がバナーで55%(v.s. 25% in APAC)、モバイル広告で66%(v.s. 33% in APAC)となっており、日本以上に広告を効かせるのが難しい状況です。
また、同じくNielsenの調査によると、88%のひとが友人や家族のオススメがどんな他の広告よりも購買に最も影響を与える、と答えています。
特にアメリカはひとつの国でありながらニーズや嗜好の統一性が低い国です。日本と対比するととてもわかりやすいですよね。普遍的なニーズが乏しいのでランダムな広告の効果は低く、一人ひとりに響く’オススメ’が相対的に重要性を持っています。
Authenticityの観点から購買にひとの影響が強くなっているなかで、そのひとが実際に製品を使っているという事実はよりAuthenticityを高め、購買につながりやすいと考えられます。
ゆえに、ロイヤリティ施策も、既存顧客自体の売上を高める(LTV向上)ためではなく、ロイヤルユーザー起点で新規顧客を効果的に獲得する装置(UGC増加、リファラル増加)という発想により力点を置いたほうが効果的であると考えます。
例えば化粧品業界で近年急成長を遂げたGlossierは、ロイヤルユーザー起点の新規顧客獲得に軸足を置いてユーザーコミュニティを運営しており、下記のような仕組みを導入しています。
・コミュニティ活動のなかでもUGC生成にインセンティブ
・ロイヤルユーザーをプチインフルエンサー化し顧客紹介/アフィリエイトでマージンを付与
・SNSでシェアしたくなるイベント/体験の実施
・運営が一般ユーザーの投稿を日次で取り上げスターにし発信を促進
組織の違い: 縦割りで短期間のコミットメント
最後に、組織面はどうでしょうか。
日本の企業が取り組む場合にも、企画は日本で行って実行は現地拠点に推進してもらったり、採用を行うこともあると思います。
米国企業の特徴として、
部門と役割が明確に分かれた縦割り組織
1-2年でのわかりやすい成果を雇用主も従業員も求める
があります。
縦割りというと聞こえが悪いですが、専門性を持ったスペシャリスト人材がよりクオリティの高い仕事を分野に特化して行うべき、という考え方です。
また、エグゼクティブ層や意思決定者層が1-2年で交代となることも珍しく有りません。(自主的な場合もそうでない場合も)。その期間で出せて、かつわかりやすい成果が求められがちです。
ロイヤリティ施策は中長期的な取り組みとなることが多く、かつ多くの部門を横断することでよりよい成果を生みやすいものでもあります。(部門横断のわかりやすい例が工場見学です。ロイヤリティ向上のための有効な打ち手ですが、当然製造部門や研究開発部門が管掌しているため協力が必要です)
そこで、
KGI、KPIおよび中期ロードマップの明確な言語化で引き継ぎを容易に
オーナーの明確化とKPI(≠KGI)ベースでの短期人事評価
短期的ROIの可視化(および短期的に費用対効果が合う施策を見せ玉に思えてもしっかり行う)
部門ごとのKPIへの接続とそれつながる価値提供
が重要です。
まとめ: 鍵は3つ
アメリカ市場でのロイヤリティマーケティング成功の鍵は、
・「消費者への即効性ある価値提供を仕込むこと」
・「新規獲得への貢献に重心を置くこと」
・「短期的なコミットメントを前提とした実行体制を敷くこと」
にあると考えています。
もちろんこれはあまりにも一般論なので、企業規模や業界特性に応じて、上記以外の要素も適切にミックスし、アメリカの消費者特性に合わせた独自のロイヤリティ戦略を構築することが重要です。
この文章が、グローバルに展開される日本企業の方に少しでも参考になれば、と思っています。
また私自身もまだまだ勉強中ですので、この記事を通じてグローバル展開される日本企業の方にぜひコミューンを知っていただき、意見交換させていただくきっかけになれば幸いです。
(コミューンは、消費者企業の顧客起点経営、ロイヤリティマーケティングを支援する会社です)
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コミューン株式会社
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