ビジネスの場で求められる“伝える力”。AI時代にこそ生きる最適なコミュニケーションの在り方。
皆さん、こんにちは。今回は「伝える力」について書かせていただきます。
就職活動や転職活動での面接の場面や、顧客や取引先に対して企画提案をする場面、大人数に対してプレゼンテーションをする場面、上司との定期的な面談の場面など、人に何かを伝えなければならない場面は数多く存在します。相手が理解しやすいように物事を「伝える力」は、仕事のパフォーマンスを高める上でも欠かせないスキルの一つです。
今回引用した記事の中には、
とあり、営業や企画などAIを活用する人材を対象にオンライン講座を提供していくそうです。その中には、プレゼン能力やコミュニケーション力を高めるための講座もあるとのこと。
AIの知識や活用経験を持つリテラシーの高い人材を増やすことの重要性は言うまでもありませんが、それだけでなく、記事にあるように「プレゼン能力」や「コミュニケーション力」を高めることの重要性も、不確実性や多様性の高い今の時代において、さらに高まっているように思います。
特にコロナ禍を経て、働き方に対する価値観や、あらゆるデジタルツールの発展により人とのコミュニケーションに関する考え方が確実に多様化してきました。誤解を恐れずに言えば、「必要以上にコミュニケーションを対面でとらなくてもオンラインで十分」と考える人や「話が合う人や同じ目的を持った人、仕事上関わらなければいけない人とだけコミュニケーションをとっていれば十分」という人が増えているような印象も持っています。また、近年のタイパ意識の浸透により、「人とのコミュニケーションは必要最低限でOK(それ以外は時間の無駄)」と割り切っている人も多いのではないかと思います。
価値観は人それぞれでいいのですが、ビジネスを発展させていく以上は、人とのコミュニケーションやコラボレーション、周囲の人と協力し合いながら成果を最大化していくことは避けて通れません。
何もしないと、若手世代のコミュニケーションスキルが低下してしまいがちな現代において、改めて、企業や個人が意識すべき点を考えていきます。
■若手世代のコミュニケーション能力低下は本当か
Z世代の多くはコロナ禍で、一定期間オンライン教育を受けることを余儀なくされた世代です。対面で人との交流が大幅に減ってしまった影響で、コミュニケーション能力を磨く機会が少なくなってしまったと考えられます。
「コミュニケーション能力」とは、単に人と対話することだけを指しているのではなく、「場の空気を読む」「適切に人間関係を築く」「相手の表情を見ながら言葉を選ぶ」「相手の話を傾聴し、共感する」「自然発生的な会話に加わる」「その場の状況に合わせて柔軟に意見を調整する」「非言語コミュニケーションによって感情や態度を伝える」なども含まれます。中には、オンラインでの打ち合わせやプレゼンテーションでは、持ち前のコミュニケーション力を発揮するのに、対面になった途端に自信がなくなってしまう人も少なくありません。SNSなどテキストでのコミュニケーションやリアクションに慣れていて、顔を合わせてコミュニケーションをとると、うまく意図が伝わらずに相手に誤解を与えてしまうこともある、といった悩みを抱えている人もいます。
若手世代のコミュニケーション能力は本当に低下しているのでしょうか。
上の世代から見ると特に、対面でのコミュニケーション力が低下しているように感じる場面があるかもしれませんが、「能力の低下」というよりは社会的背景やコミュニケーション手段が変化したことが影響していると思います。
具体的には以下の通りです。
●技術の進化によって人と接触せずに日常生活を送れることにより、対面のコミュニケーション機会が減少
→デジタルツールによるつながりは多いものの、実際に深い人間関係を構築する機会が減ってしまっています。他者と深く関わる経験が少なく、信頼関係ありきの複雑なコミュニケーションに苦手意識を持つ人も増えています。
●SNSなどデジタルツールの普及により、対面でのやり取りの機会が減少
→SNSやメッセージアプリが普及したことで、対面で会話する機会が減少し、テキスト中心のコミュニケーションが一般的になっています。場の空気や相手の感情を汲み取る機会が少なくなってしまった一方で、SNSなどを通したオンラインでのスムーズなやり取りや、瞬時に何らかのリアクションをすることなどは得意な人も多いです。
●オンライン会議やリモートワークの普及により、雑談や対面でのやり取りの機会が減少
→効率が重視されがちでタイパ意識の強い現代社会では、じっくり話し合う時間を確保することが難しくなっています。社内での雑談の機会も減り、直接時間をかけてコミュニケーションを取るよりも、短時間で効率的なコミュニケーションが優先されがちです。
●人との話し合いや意見交換などを通して、議論の機会や、時には対立する機会の減少
→若手世代はコミュニケーションに限らず、失敗やリスクを避ける傾向が強まり、人との意見交換の場においても対立を避けたがる傾向にあります。SNSやオンライン環境において、失敗や失言なども記録されたり、広く共有されたりする可能性もある分、発言を控えることにより、コミュニケーションスキルが育ちにくくなってしまっています。
●炎上リスクなどを踏まえ、自己表現を控える人の増加
→コミュニケーションの間口が広がったことで、自分とは異なる意見や批判に敏感になっている人も少なくありません。SNSを通して、不特定多数の人の前での発言などが炎上するリスクもあり、自分の意見を率直に述べることを含めた「自己表現」を控える人が一定数出ていることも要因の一つです。
●グローバル化や価値観の多様化に伴い、集団よりも「個」を尊重する文化へのシフト
→個人の意思や価値観が尊重されている時代背景において、集団の中で他者の意見を傾聴しながら、一つの方向に意見を調整していく能力が未熟になっている可能性があります。協調性を持って意見をまとめる経験が不足しがちです。
このように、若手世代のコミュニケーション能力が低いとされる背景には様々な要素が絡み合っており、従来の対面重視の評価基準では低下していると感じられるかもしれませんが、新しい表現の在り方に適応しているという側面もあり、必ずしも悪化しているわけではありません。
「コミュニケーション能力」は、時代とともに変化し続けていきます。従来の定義のまま、コミュニケーションのスキルを評価せずに、定義や評価方法をアップデートしていかなければならないのかもしれません。
若手社員に限らず、今職場でのコミュニケーションがどうなっているかというと、これまでは重要で大型の案件や会議ほど、直接会ってコミュニケーションをとることが当たり前で、「メールやオンラインミーティングで気軽に済ませるなんてとんでもない」という感覚もありましたが、そのコミュニケーションスタイルしかないという企業の方が減ってきているように思います。最終的には企業間のトップ同士が顔を合わせて決めるという形はいまだ健在かもしれませんが、重要案件でさえSNS一つで完結してしまうこともあります。役員会議などもオンラインで実施している企業も少なくありません。
多少、職場でのコミュニケーションが「希薄化」したとしても、その代わりに得られる利便性が増し、コミュニケーションの「多角化」に成功しているとも言えます。
■AI時代にこそ生きる、「伝わる」伝え方とは
AIが普及し、仕事の進め方や成果の出し方にも確実に変化の波が迫る中、人間に求められる能力も変化し続けていきます。その中でAIに代替されない能力の一つが人間のコミュニケーション能力です。人が人に何かしらメッセージを伝えていく上で、ただ相手に伝えればいいわけではなく、狙った意図や背景が伝わり切るような伝え方を、工夫して見出していく必要があります。
こちらの記事には、
とあり、人材投資の成果を可視化する目的で、行員の能力データを定量的に測る工夫を施しているとのこと。能力や行動特性を測るものとして、「リーダーシップを発揮できるか」「相手に分かりやすく伝える力があるか」など、仕事でパフォーマンスを発揮するために必要な要素を抽出し、その計測結果を見ながら、育成計画にも反映させているのです。
「相手に物事を分かりやすく伝える力」は、ただ単にコミュニケーション能力が高ければいいというわけではありません。また、仕事をしていくうちに勝手に身に着くものでもなく、意図的にトレーニングが必要だと思います。
伝え方が上手な人に見られる傾向は以下の通りです。
●知っている情報を全て伝えようとしない
→伝え方が上手な人は、知っている情報を1から100まで全て説明せず、十分情報を集めた上で余計な情報を取り除き、要点を凝縮して伝えることができます。100の情報を集め、そのうち大事な部分だけを“絞って”伝えるからこそ、人に伝わりやすい言葉になるのです。
●難しい言葉ではなく、平易な言葉で伝える
→不必要に専門用語や難しい言葉を選択して話す人がいますが、伝えたいことが相手に伝わらなければ意味がありません。誰でも理解できる平易な言葉を使ったり、誰にでも想像できる例え話ができると、人に伝わりやすくなります。
●自分の言葉で伝える
→他者が発した言葉を自分ではよく理解しないまま使ったり、相手が理解しにくい言葉を使うのではなく、自分の言葉でしっかり伝える方が相手に真意が伝わりやすいはずです。定型表現ばかりを用いて決まりきった言葉ばかりを並べたり、本音とは裏腹に思ってもいない言葉を使っていては、熱意や想いが伝わりにくいと思います。
●伝える相手の視点に立って、相手の立場で考える
→自分の伝えたいことを、自分が伝えたいように伝えて満足するのではなく、相手の視点に立って、相手が伝えてほしいように伝えることが重要です。「自分の伝え方は分かりやすくて、誰が相手でも理解しやすいはず(伝えたいことが伝わるだろう)」と過信せずに、相手の立場や置かれている状況に思いを馳せながら最適な伝え方を考えられる人は、相手のタイプや考え方の分だけ、伝え方のバリエーションも増えていきます。
●記憶に残りやすい伝え方を意識する
→上手な伝え方をする人は、人の記憶に残りやすい伝え方をしています。人が一度聞いたら忘れないような、語呂がいいもの、シンプルなもの、要点が絞られているものが、記憶に定着しやすいはずです。実際に説明をする場面などでは、話し方に抑揚をつけたり、テンポを変えたり、注目を集めるような前置きをしたり、大事なことを繰り返したりと、相手の記憶に残すためのテクニックを多用する人もいます。
●たとえ話を上手に用いる
→話す言葉、書く言葉の中に「たとえ」を用いて伝えることがありますが、せっかくたとえたのに逆に伝わりづらくなってしまうケースも残念ながら多く見られます。本来、抽象的なことなどを分かりやすく伝える目的なので、相手がよく知っているものでたとえたり、「つまりこういうこと」ということが明確に説明できる形でたとえを用いる必要があります。
逆に、伝え方が下手な人は、
自分の伝えたいことだけを伝え、相手の気持ちや状況を考慮しない
話が抽象的で、何が言いたいのか伝わりにくい
怒りや焦りの感情が前面に出て、伝えたい内容が歪んでしまう
要点が分かりにくく、冗長でダラダラと長く話してしまう
相手の意見や反応を気にせずに、一方的に話をしてしまう
などの特徴があり、周囲の人の顔を思い浮かべてもこれらの特徴に合致する人がいるかもしれません。「伝え方」は少し意識を変えるだけで、またはトレーニングをするだけで、大幅に改善させることができるのです。
さらに、これからのAI時代だからこそ、私たちが意識しなければならないポイントがあります。どれだけAIが発展しようとも、人にしかできない「伝え方」とは、たとえば、
相手の気持ちを察して、適切な言葉を選ぶことができる
相手に共感し、さらに相手からの共感を得ながら、順序立てて物事を伝えることができる
客観的に事実を捉えた上で、相手の反応を見ながら、伝えることと伝えないことを決めることができる
相手との信頼関係を構築した状態で、理解しているからこそ説得力のある伝え方ができる
相手の価値観や考え方に応じて、場に合った伝え方ができる
相手の感情に訴えかけて、モチベーションを高めるための伝え方ができる
自分自身の経験や感情をベースにした、リアリティのある伝え方ができる
表情や声のトーン、ジェスチャーなどの非言語的な手段で多くの情報を伝えることができる
感情の起伏やその場の空気感を反映して、伝え方を途中で変更することができる
相手の感情を察して、時には自己犠牲を払って物事を伝えることができる
矛盾することや曖昧なことを意図的に表現として用いて伝えることができる
などです。逆にAIは、
データや事実を「正確」に伝えられる
短時間で膨大な量の情報を処理し、要点を整理して伝えられる
感情に左右されず、「中立的」かつ「論理的」な表現を維持できる
明確なフォーマットに基づいた、パターン化されたコミュニケーションを得意とする
など、論理的、かつ客観的に、広範囲な情報を効率よく人に伝達することには長けていますが、人のように、感情的かつ直感的な伝達は難しい部分があります。いわゆる「人間らしさ」が伴う伝え方や表現を、工夫しながら適切に用いることが、人を動かす原動力にもなり得ます。AIの良さを補完的な役割として機能させ、人間らしい伝え方に磨きをかけていくことが、最も効果的なコミュニケーションの在り方を模索するヒントになるのではないでしょうか。
■表現する力はどの場面でも求められる
前述した通り、これからのAI時代において、人の感情に訴える表現力やコミュニケーション力を磨くことは非常に重要で、人間らしさや感情への共感力は、これからますます貴重なスキルになっていきます。人間らしいコミュニケーションの重要性は、これからさらに価値が高まっていくと言えるでしょう。
こちらの記事には、
上場企業による人的資本開示について、人的資本への投資や人材戦略の在り方をあらゆるステークホルダーに対して分かりやすく伝えていくことの重要性が書かれています。
経営戦略と人材戦略を連動させた上で、企業価値向上に寄与する開示をするには、経営戦略実現に向けたストーリーとセットで効果的に伝えていく必要があるのです。
さらにこちらの記事の中には、
という言葉が紹介されています。デジタル化が加速する現代社会において、自由な発想で幅広い学びを深めるリベラルアーツ教育が注目されていることに触れられていて、教科書を読んで覚える勉強だけではなく、考えたことや感じたことを発言したりデザインしたりすることを通して、豊かな発想力や表現力を育んでいくことが重要であるとしています。技術だけでなく、それに加えたデザイン力、表現力がセットになって初めて世の中に大きな影響を与えるプロダクトやサービス、事業を生み出すことができるのです。そのような観点からも、ビジネスの場においていかに表現する力が重要かが分かります。
繰り返しになりますが、AIはゼロから新しいアイディアを生み出したり、複雑な問題に対して多角的なアプローチを考案したりすることは現段階ではできません。人間の持つ直感や感性、問題解決能力や思考力、そして異なる分野の知識や経験を統合して新しい価値を想像する力などが、決定的に重要になっていきます。
さらに、AIを活用していくには、人間がAIに指示を出し、反応を調整し、最適化していく必要があります。そう考えると、結局はAIに「指示を出す」のも「調整する」のも「最適化する」のも、言語をベースに行っていくため、人間の「伝える力」が求められることは明らかです。つまり、AIに対しても適切な指示を出せなければ、AIの能力を十分活用できないということになります。
人間が伝える力を高めていくためには、
①広く深く、情報をインプットし続けること
②インプットした情報や物事に対して深く思考し、自分なりの見解を持ち続けること
③自分の見解を言葉や文章として発してアウトプットし、様々な角度からフィードバックを受け続けること
が必要です。①→②→③→①→と好循環サイクルを作りながら、あくまで「アウトプットするためのインプット」が重要であると位置づけるのが良いのではないかと思います。これを習慣化していくことが、伝える力を磨いていくための第一歩であり、これからのAI時代においても確実に人間に求められる能力の一つとなるはずです。
テクノロジーの進化はこれからもコミュニケーションの方法を確実に変えていきますが、AIが補完できない人間特有のスキルを磨き、人間らしいコミュニケーションの価値を創造し続けていくことが明確に求められているのではないかと思います。