「今必要な金融危機対応とは何か」
現在、米国でも金融システム不安を起こさせないための措置が考慮されているところである。7月27日には銀行に求める自己資本要件を厳格化する規制案を発表した。大銀行のみならず資産規模1000億ドル以上の金融機関にも自己資本要件の適用を求めること、G-SIBSに対してはより厳しい規制をかける(自己資本の上積み)ことなどを規制強化案として11月30日まで意見を募集、2028年7月1日の完全施行を目指す。また8月29日には、長期債務の保有に関する規制案も発表し、捕捉できるリスクの幅を広げたことになる。
流動性の枯渇やSNSによる風説の流布をどう遮断するか、といった新しいタイプのリスクにはそぐわないように見える旧来型のリスク対応策に、若干呆れるが、翻って欧州はどうか。
欧州でもクレディ・スイスというあれだけの規模の銀行をUBSに買収させる形で処理したことで、金融危機対応を再度俯瞰する必要性が浮上したことは間違いない。その間に、株主価値が残されたままAT1債の価値をゼロにしたという荒療治も行ったことは広く知られるところであり、今でも係争が続いていることも周知の事実。「金融危機を未然に防いだ点で買収は成功した」と言われても、そもそも何が問題であったのか、や、これまでの金融機関当局によるストレステストの正当性のチェックなどについては、巷間言われている専門家グループの意見ではなく、スイス政府当局の意見として、知りたいところである。
金利上昇が急激で、それがゆえ資産価値が下がるものが多く、結果、金融システム不安を招きやすくなったことにより金融危機対応を改めて考えさせる一因となったことは否定できない。米国の貸出などには少なからず影響が残っているなど、金融システム不安について、本当にこれで対応が出来ていると言えるのだろうか。取り越し苦労に終わることを望むが、不安は払しょくできない。