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ニッチに終わらないジャパン・バリューを求めて

海外投資家から日本企業への興味が高まっており、その裾野は広い。中には、海外では知名度の低い、内需中心の「地味な」日本企業への投資を増やす外資ファンドもある。「日本の地方には磨けば光る企業が隠れており、発掘していきたい」という意向があるという。

中小メーカーがある製品群や技術にリソースを集中して、一点突破でグローバルニッチトップを獲得する成功ストーリーは、日本に限らず見られる。記事では九州のしょうゆ会社が取り上げられているが、消費者には目に触れないB2Bの部品などで多い「隠れたチャンピオン(企業)」と言われるパターンだ。

このような力を持つ企業を掘り起こし、ファンドのネットワークを使って海外の販売・マーケティング競争力を磨き、企業価値を高めることはあり得るだろう。

ただし、注意したいのは、これはあくまでも「ニッチ」戦略であり、「マス」には通用しない-頑張っても、世界中で生産されるコカ・コーラにはなれない-という点だ。これは、往々にして技術やプロセスが門外不出であることこそが「こだわり」の前提条件であり、なかなか本国日本以外の国で量産することが難しいからに他ならない。海外の販売・マーケティングは手伝えても、そっくりと技術移転まで支援できるファンドや商社はそういない。

世界中での生産を伴う「マス」で成功するためには、日本でできることの忠実な再現が必要だ。こだわりすぎると、再現性を失ってしまう。

例えば、化粧品の世界で比較しよう。日本企業は高い技術を誇り、国内では粋を詰め込んだ製品を販売することができる。ただし、そのため必要な原材料やレシピは、国内生産と国内の規制を暗黙の前提にすることが多い。これでは、いざ海外で生産しようにも原材料から輸出が必要になったり、製品を輸出したとしても年々厳しくなる欧州の規制に対応したりすることが難しくなる。良かれと思った日本でのこだわりが「あとで困る」事態を呼ぶ。

植民地支配の過去を持つからだろうか、欧州大手はこの点、「どこでも通用する」製品を最初から開発する傾向があるようだ。もちろん、化粧品が成功するには消費者のローカルな志向に合わせることが大切だが、そのカスタマイズはマーケティングで補っている。

この比較が示すように、ニッチに終わらない成功を目指すには、海外市場での再現性を視野に戦略を立てなければならない。では、それは必然的にこだわりの放棄を意味するのだろうか?

この点、マスの王様のようなコカ・コーラが良い参考になる。コカ・コーラの独特な味の源泉であるコンセントレート(濃縮原料)はアトランタ本社で管理される「こだわり中のこだわり」であり、門外不出のレシピに基づくとされる。この濃縮原料を供給するのがThe Coca-Cola Company(”TCCC”)であり、それを使う限り生産は世界のどこであってもコカ・コーラは再現可能。さらに、生産と販売は地域に根差すボトラー会社に任せるため、新しい市場であっても事業を素早く立ち上げることができる。このからくりが、TCCCの強みと言えよう。

日本企業にとっては、成功の選択肢は二つ;グローバルニッチトップを目指し収益性を規模よりも重視するか、または、コカ・コーラのように「こだわり」をマスに再現できる方策を見つけて収益と規模の二兎を追うか?ジャパン・バリューの在り方には、多様性があって良いと思う。

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