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マーケティングだけ勉強しても、マーケティングできるようにならない〜その(3)〜

「マーケティングが出来る」とはどういうことか、の構造を考えるために始めた本記事。
ここまではマーケティングを下のスライドの様な四階層

に分け、まず「仕事のOS」階層から考えています。

*前回までの記事を格納したマガジンは、こちらです。

https://note.com/t0m0n0but0m1naga/m/m3b570b09df59

第三回の本稿では、引き続き「仕事のOS」階層の「懐疑的に観る」について考えてみたいと思います。

手始めに、こちらの画像をご覧ください。
ある小売店では、6月度の訴求でチラシのコンセプトを変えることを検討し、一度実施してみたところ、このような結果になりました。

チラシの効果測定は、そんなに単純ではありませんが、ここではチラシの有効期間=3日間であると仮定し、そこには疑義を挟まないものとしましょう。
このチラシは効果があり、従ってこのコンセプトを継続することを検討すべきである、と言えるでしょうか?

コンセプト変更前後で昨対比が伸びているので、直感的には「効果あり」と言えそうに思えるかもしれません。
では、以下のデータをご覧になったらいかがでしょう?

実は、6月度のコンセプト変更では、それを実施する対照店舗と、従来通りのチラシを投入する比較対象店舗を設定し、両者を比較できる形でテストしていました。

効果があったのかどうか、こうやってみると明らかになりました。
コンセプト変更店舗の昨対比も伸長しましたが、対照店舗はもっと伸びています。
つまり、6月はチラシの内容に関係なく全体的に好調であり、コンセプト変更はむしろ失敗であったのです。

次にこちらの画像をご覧ください。

スライドに書いてある、E,K,4,7は、テーブルに並べてある四枚のカードだと思ってください。
このカードは表面にアルファベットが書いてあり、裏には数字が書いてあります。
さて、しばらくカードを使っていたみなさんは、
・このカードは、表が母音であれば、裏は必ず偶数である
という法則があるのではないか、という仮説を持ちました。
そこで、あなたはこの四枚をめくってみて、この仮説が正しいかどうか検証しようとしています。
めくる枚数を最小限するには、どのカードを確認すれば良いでしょうか?

講義などでこの問いを投げかけると、結構答えがバラけます。
まず初めに皆さんが口を開くのはEをめくるべきだ、ということです。

そこで筆者がEだけでOKですか?と聞くと、4が追加されることが多いようです。

この辺で正解を明かしますと、めくらなければならないカードはEと7の2枚です。

Eをめくった裏が奇数であれば、仮説が成立しませんので、ここは確認する必要があります。そして7をめくって裏が母音であれば、母音の裏が奇数ということになり、やはり仮説が成立しません。

直感的にめくりたくなる4はどうでしょう?
4をめくった時を場合分けしてみると

裏が母音:仮説成立であり
裏が子音:仮説に関係なし

ということになりどちらの場合でも、結果に関係ありません。

さて。
上のチラシのエピソードと、カードのエピソードには、共通点があるように思います。
それは、人は自分の行為や仮説を検証するとき、自分が正しいことを確認したくなる、ということです。

チラシの例だと、力を注いで立案したコンセプト変更がうまくいったことを確認したい、という心理が働き、うまくいっていなかった可能性を検証することを見落としてしまいます。

カードの例では、Eは自分の仮説の前提なので自然とそれを確認したくなり、4は、裏に母音があることを確認したいのでめくっているように感じられます。しかしここは、仮説が間違っていないことを検証しなければならないので、めくるべきは奇数の方です。

冒頭でお示ししているマーケティングの四階層のうち、下から2つ目のマーケのOS=人間理解にも関係する話ですが、人のこの傾向(自分が正しいことを確認したくなってしまう)を確証バイアスと言います。

そして、自分の仮説吟味や施策の効果検証の際は、人である限りはこの確証バイアスに囚われていることを自覚し、懐疑的に観ることがとても重要です。

もう一つ。懐疑的に観ることの重要さを。

筆者が過去、ある企業のマーケティング責任者として転職した時のことです。初出社時、社長に呼ばれ、このようなやりとりがなされました。

社長:報酬が上がることにより社員がハッピーになり、品質はそのままに価格が下がることによりお客様もハッピーになり、利益が上がり経費率は下がることにより会社もハッピーになる方法がある。何かわかるか?

筆者:魔法のようなことですね。それはなんですか?

社長:一つでも多くの商品をお客様に買っていただき、売り上げを上げることだ。そのためのマインドセットを当社ではHigh Volume Mentalityと言い、それは当社の最も重要な強みだ。君もそれを持って仕事してくれ

筆者:はい・・・

はい、とは言ったものの、一つでも多くのものをお買い上げいただくことが重要である、というのはあまりに自明に思え、「何を当たり前のことを言ってるんだこの社長は?」と感じた筆者は、特に意識して行動を変えたりすることはありませんでした。

半年ほど経ち、社長肝入りの研修が執り行われました。High Volume Mentalityです。
役員と営業部門の重職者、合計20人の3日間コースでした。ずっと座学でやるのではなく、ゲーム仕立てのアクティビティがたくさん盛り込まれ、退屈しないように巧く工夫されたコンテンツでした。

1日半が過ぎ、散々High Volume Mentalityの重要性を説かれた筆者は、若干食傷気味でした。すでによく理解していることをくどくど説教されている気がして、正直「早く終わらないかな、これ」という気持ちになっていたところ、講師が次のようなゲームを開始したのです。

このゲームは、講習室をバレーボールのコートのように2つに分けて行割れます。

センターラインの右側にはテニスボールが100個あります。
左側には、みかん箱に黒いゴミ袋をはめたものが6組あります。

ルールは単純で、
・右側から、みかん箱+ゴミ袋を的としてボールを投げ入れる
・入った場合の点数は、壁に近い順に3点、2点、1点
・制限時間は3分、なるべく高い点を取るのがゴール

講師が問います。「さぁ、皆さん何点取れますか?」
受講陣は1日半の研修でHigh Volume漬けになっていることもあり、勢いで400点!などと答えます。全部3点に入っても300点なので、かなり無理がある受け答えですが、講師はどこ吹く風で「じゃあやってみろ」。

始めてみると、そもそも的に入らないボールも多く、400点どころか200点とるのも怪しい感じ。そこで講師にちょっと400点は無理ですねー、と申し出たところ、「そんなんで経営者は満足しません。頭使って考えてください」

しばらく考えているうちに、誰かが思いつきました。

的を全部壁側に寄せたら、全部3点ゴールになる。

講師に確認し、やってみると壁からの反射で命中率が上がったりもしたので、劇的に点数が上がりましたが、まだ200点台。

次にまた別のアイデアが出ます。

一度投げたボールを右側に戻して再利用しては?

これも講師に確認してやってみると、だいぶ効果があり、300点はこれで超えたように記憶しています。

次にまた別の誰かが

・ゴールの一つをみかん箱とゴミ袋にバラし
・ゴミ袋にボール100個まとめて入れ
・みかん箱を壁際につけてセンターライン側に口を向ける形で横置きし
・そこに100個ボールが入ったゴミ袋をボーリングの要領で投げる

というアイデアを出しました。
これも講師に確認してやってみると、何せ1投で300点入るので、面白いように点数が入り、獲得したスコアは1万点に迫るものとなりました。

講師は満足そうに言いました。「これがHigh Volume Mentality です」

筆者はその時、文字通り雷に打たれたような衝撃を感じました。
自分はHigh Volume Mentalityを、理解しているつもりだったが、全くそうではなかったことを悟ったのです。

それまで筆者は、たとえば自分が担当している商品やプロジェクトで、会社から寄せられた期待値を上回った数値を一旦達成したら、あとは誇らしくも涼しい気持ちになっていました。言われたことをやったから、それで満足、というマインドセットです。

他方、High Volume Mentalityでは、「まだいけるんじゃないか」「もっと他にできることはないか」「もっと高く」「もっと速く」と常に自分に問い続けることが求められます。会社から言われたことに拘泥することなく、常に自分にチャレンジしてほしい、これが初出社の日、社長が私に託した真意だったのです。

予算に到達すれば免罪符獲得、というマインドセットを懐疑的に観ることなく、ずっとこのような形式的な考え方できたことが非常に恥ずかしくなりました。と、同時に自分のマインドセット変える機会を提供してくれた研修に感謝し、あらゆることを懐疑的に観ることの大切さを再確認しました。

社員のマインドセットの変革をどのように進めるか、という点は、四階層の最上位「マーケの拡張」のところで、改めて詳しく論じたいと思いますが、本日の論点「仕事のOS」については、仮説や施策のみならず、自己のマインドセットも含めて懐疑的に観ることが重要である、という点をお伝えし、この辺で筆を置きます。

読者の皆さんは、どのようにお考えになりますか?

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富永朋信(プロフェッショナルマーケター・「幸せをつかむ戦略」著者)
9つの事業会社でマーケティングやってきました。うち、西友、ドミノ・ピザなど4社でCMO。現在は株式会社Preferred Networksの執行役員CMO、イトーヨーカ堂・セルム顧問、日経XTrendアドバイザリーボード、厚生労働省年金局広報検討委員、内閣政府広報アドバイザー等。