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タイパ重視のライフスタイルに変化する中、忘れてはいけないこと。効率至上主義は必ずしもゴールへの最短距離ではない。

皆さん、こんにちは。今回は「タイパ」について書かせていただきます。

2022年の日経MJヒット商品番付に選ばれた「コスパ&タイパ」。
コスパはコストパフォーマンス(費用対効果)、タイパはタイムパフォーマンス(時間対効果)の略で、どちらもかけた費用や時間に対する効果や満足度がどの程度なのかを表します。

Z世代を中心にタイパを重視する行動をとることが多く、映画などの配信コンテンツを「ながら見視聴」「倍速視聴」「スキップ視聴」をすることに対する違和感を全く抱かない人が急増しています。
Z世代に限らず、「時短」と名のつく家電や、家事・買い物なども注目され続けています。
ビジネスシーンでも「タイパ」意識が醸成されており、あらゆるシーンでタイパ重視の意思決定がなされる傾向にあります。

私たちはこの変化に、どのように向き合っていけば良いのでしょうか。そして、個人の生活や人生設計はどのように変わり、企業はどのような選択を迫られるのでしょうか。

日本経済新聞社は2022年の日経MJヒット商品番付をまとめた。東の横綱は「コスパ&タイパ」。あらゆる商品の値上げが続く中で、費用対効果がより重視されるようになった。西の横綱は新型コロナウイルス禍で中止されてきたイベントやレジャーの復活を示す「#3年ぶり」を選んだ。新型コロナ禍も3年目となり、耐えるだけの生活には限界がみえてきた。暮らしの満足度を保つ商品やサービスが消費者の心を捉えた。

■「タイパ」がトレンドになっている背景

タイムパフォーマンスがトレンドになっている背景には、以下のような要因が考えられます。

●映像系サブスクリプションの普及
→動画配信サービスの普及により、安価で大量の映像作品を観られるようになった今、Z世代同士で話題になるコンテンツも多岐に渡り、限られた時間の中で多くの作品を効率良く視聴する必要が出てきました。

●SNSトレンドの変化
→SNSを日常的に利用している世代は、日々、または時間ごとにトレンドがどんどん変化していきます。今話題になっていることが、次の日には違う話題に目まぐるしく変わっていくため、その度に最新のトレンドをキャッチするためにも効率良くコンテンツを体験・消化していく必要があるのです。

●デジタル処理能力の向上
→デジタルネイティブ世代の台頭により、デジタルツールを巧みに使いこなし、多くのプロダクトやサービスをスイッチングしながら消費する傾向が出てきました。たとえばスマホで音楽を聴きながらパソコンで動画を見る、などの行動も自然と行える人が増えています。このデジタルリテラシーの高さと複数の情報を同時に処理する能力が、効率の良い消費スタイルを後押ししている可能性が高いです。

●人が集中できる時間が短縮化
→コンテンツ過多、情報過多な今の時代において、現代人の集中力が持続する時間がどんどん短くなっていることも挙げられます。コンテンツ消費の場面以外の日常生活の中でも、長々と説明を受けることに苦手意識を持ち、さっと購買行動や消費行動に移せるプロダクトやコンテンツの方に関心が行きがちなのです。

●承認欲求の増幅
→単純に情報を知りたいという知的欲求だけではなく、たとえば話題になっている映画やドラマはとりあえずストーリーの概要だけ知っておきたいという思いから、倍速視聴という手段を取る人が増えています。自分が属しているコミュニティに対して、「情報を持っている人」「話が盛り上がる人」などと思われたいという承認欲求の表れが強くなってきたのかもしれません。

●失敗を恐れる意識や文化の定着
→現在の10代~20代の親世代は40代~50代が中心で、子育ての上での教育方針としても、“厳しく”管理して締め付けるというよりは、友達感覚で仲良く行動する、共感する、経験を共有し合うといった、どちらかというと“優しく”接してきている親が多い傾向にあります。大人が子どもの気持ちを汲みながら、できるだけ傷つかないように先回りして失敗を回避しようとしたり、怒られたり恥をかいたりしないように対応してしまうため、「失敗」に対する耐性が非常に低いことが背景としてあります。失敗したくない意識が高まれば高まるほど、消費行動一つとっても、失敗を避けようと効率重視の考え方に変わっていくのではないかと思います。

●ネタバレ消費の増加
→事前に内容を調べた上でコンテンツなどを消費する「ネタバレ消費」が増加傾向にあります。時間をかけて視聴した結果、またはお金を払って購入した結果、満足度が低いという状況を回避するために、事前に内容やレビューをしっかり把握した上で消費するのです。これは、時間やお金を無駄にしたくないという意識だけでなく、少ない労力で満足度を最大化したいという意識の表れだと言えるでしょう。


このような複数の要因から、「タイパ」という言葉が生まれ、「タイパ重視」の意識を多くの人に植え付けた可能性が高いと考えられます。


■「就職活動」でも「学びの場」でも「人生設計の場」でも台頭するタイパ意識

就職活動の場においても、タイパ意識を持っている学生が増加傾向にあります。

  • 内定につながらないような就活イベントには参加しない

  • 一つの企業を受ける時に、そのオフィスの近くにある別の会社もついでに受けておく

  • オンラインの説明会や面接を選択して時間を効率化しながらできるだけ多くの企業を受ける

など、「かけた時間に見合う成果が得られるか」に重きを置く学生が増えています。

就職活動中の学生と接する中でも、「社会人になるまでにこれだけは読んだ方がいいと思う本を教えてください」「エンタメ企業に入社する上で絶対に見ておくべき作品を教えてください」など、「これさえやっておけばいい・見ておけばいい」というものを教えてほしいという声は予想以上に多く、まさにタイパを意識している世代なのだと痛感します。

こちらの記事には、オンライン授業や講義に対して、

  • 長時間授業を聞いているのは苦痛だが、倍速の方が集中できる

  • 内容を短時間で理解して、さらに学びを深めたい

  • 捻出した時間を他の科目の学習時間にしたり、バイトや趣味の時間にも充てたい

など、「タイパ意識を持つ学生が増えている」こと、さらに社会に出てからの「昇進」や「キャリア設計」においても、

  • 年功序列の、昇進待ちの行列に並びたくない

  • キャリアを会社や他人から決められるのではなく自分で決めたい

  • 漫然と待つのは不安

など、「人生設計におけるタイパ意識を持った若い世代をつなぎとめる工夫が求められている」という記載があります。

平成不況や災害の痛手にからめ取られ、グローバル競争にもまれる日本。「Z世代」が抱える将来への不安は切実だ。明治大学の藤田結子教授は「少しでも早く成長して安心したいとの意識が強い」と指摘する。
「最小の労力で最大の成果を取る」スキルを重視するZ世代。人生100年の曲折を最短距離で急ぐだけでは見えない景色、得られない経験もあるが、「最速世代」の登場は日本の企業、社会の停滞を打ち破る原動力にもなる。

たしかに、できるだけ“最短”で、できるだけ“最小”の労力で、できるだけ“最大”、かつ“最高”の成果を求めることは、今の日本の閉塞感や停滞感を打破する一つの原動力になるはずです。

一方で、前述してきたような「倍速消費」や「タイパ重視行動」が、消費者の利便性や満足度を本当に高めるのか、そしてその考えをそのまま人生設計に当てはめても良いのかについては、議論の余地もありそうです。

■効率主義の追求によって失われるもの

このタイパ意識が先行し過ぎることでのマイナスな側面は、たとえば、学問においても「自分の将来やりたいことを考えると、この教科を学ぶ必要ない」と早い段階で見切りをつけてしまったり、就職してからも「やりたいことができないならすぐに転職しよう」と、入社間もないうちに自分にとって不都合な点ばかり見つけて後先考えずに行動してしまったりというような状況が生まれてしまいます。

もちろん、それが決して悪いわけではありません。自分にとっての「無駄」を限りなく取り除き、素早く自分にとって「有益なこと」「有効なこと」だけに時間を使うべきであるという考え方を否定するわけでもありません。

ですが、一見無駄に見えること、一見遠回りに見えることでも、そこから学び、それがあったからこそ“次”につなげられたという経験をしている人は少なくないはずです。何でもショートカットすることばかりに目を向けてしまっていては、長い目で見た時に重要なことを見落としてしまいかねません

「とりあえず大学に入ってから本当にやりたいことを見つけていく」、「まずは就職してから自分の強みや武器を見つけ、仕事に生かしていく」などということがあっても良いと思います。やりたいことが早期から決まっていて、それだけに時間もお金も労力も、全ての資源を集中させるのは素晴らしいことですが、やりたいことが見つからないまま、まわり道だとしてもゆっくりマイペースに自分の道を探していくこともまた素晴らしいことだと思います。

また、「無駄なことをたくさんやる」という過程を通して、新しいアイディアやオリジナルな発想につながることもあると思います。

私自身も、特に産休復帰後は常に時間に追われ、「タイパ」的思考を非常に強く持っていたタイプですが、“時間”だけで生産性を測るのではなく、成果を出す上で投入した要素に対してどれだけ成果を最大化させられたかを追求していくことが大事なのではないかと考えるようになりました。つまり、「何時間かけてどんな成果だったか」よりも、「投入した全ての要素(時間/人員/資本など)に対して、どれだけ成果を出せたか」を重視するという考え方です。成果が出るまでに仮に時間がかかったとしても、効率が多少悪かったとしても、それまでの失敗も含めた全ての投資に見合う成果が中長期で出せるのであれば、一見無駄に見えるようなことや、遠回りしたと思えることでも、十分価値があるのではないかと思います。

労働生産性を上げるためには、単純に考えれば、投入する資源(インプット)を縮小したり、成果(アウトプット)を増大させることがポイントになりますが、「無駄なことは一切許されない」というような環境で仕事をしても、縮こまったアイディアや発想しか出てこないように思います。

最小の労力で最大のリターンを得ることは大事な考え方です。
ですが、効率主義になりすぎてしまっても切り捨てることが多く発生するが故に、失うものも増えていってしまうのではないでしょうか。
「そんなことやっても無駄」ということでも、信じてやり続けることで大きな成果につながるケースもあるのではないでしょうか。

「効率性」は、非効率なことがあってこそ意味付けができるものでもあると思います。



#日経COMEMO #NIKKEI


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