原油高が日本経済に及ぼす影響

添付記事の通り、OPECプラス合意の雲行きが怪しくなりましたので、WTIは続伸して75ドル台を回復しています。

原油価格が上昇すれば、企業の投入コストが上昇し、その一部が産出価格に転嫁されるため、変動費の増分が売上高の増分に対して大きいほど利益に対する悪影響が大きくなります。また、価格上昇が最終製品やサービスまで転嫁されれば、家計にとっても消費者物価の上昇を通じて実質購買力の低下をもたらすことになります。そうすると、企業収益の売り上げ面へも悪影響が及び、個人消費や設備投資を通じて経済成長率にも悪影響を及ぼす可能性があります。

実際、今年の原油先物価格が平均70ドル程度で推移すると仮定すると、総務省の消費者物価と家計調査の関係に基づけば、2021年度の家計負担を+26,013円も増加させることになると試算されます。このため、足元の原油高が持続すれば、家計に無視できない悪影響を及ぼすことには注意が必要でしょう。

また、今年の原油先物価格が平均70ドル程度で推移すると仮定すると、内閣府の最新マクロ経済モデルの乗数に基づけば、今年の経済成長率を▲0.28%ポイントも押し下げることになります。このため、足元の原油高が持続すれば、マクロ経済的に見ても無視できない悪影響を及ぼすことにも注意が必要です。

さらに、足元の原油価格と過去の交易利得(損失)との関係から、今年の原油先物価格が平均70ドル/バレル程度で推移すると、今年は▲4.4兆円もの所得の海外流出が生じることになる計算となります。これは、日本国内で消費税率が+1.5%ポイント以上引き上げられたのと同程度の負担増が生じることを意味することになります。

このように、経済のグローバル化や市場の寡占化が進展して以降、物価がこれまでと比較して世界の需給条件を反映した水準で決まりやすくなっています。特に、新興諸国が経済成長率を高めた2003年頃から、経済のグローバル化が実体・金融両面を通じて商品市況の大きな変動要因として作用しています。このため、今後もコロナショックからの世界経済の持ち直しが持続すれば、世界の商品市況は下がりにくい環境が続くことになるでしょう。特に今後は、ワクチンの普及により移動を伴うビジネスが回復することが予想され、世界の原油先物需要は更に拡大する可能性もあります。このため、今後もしばらくは原油先物価格が高水準で推移し、中長期的に見ても原油価格が高止まる可能性があるといえるでしょう。

そして、資源価格が上昇すれば、資源の海外依存度が高い日本経済が資源価格上昇の悪影響を相対的に受けやすく、日本経済は構造的に苦境に立たされやすい環境にあります。特に足元の個人消費に関しては、新型コロナウィルス感染に伴う緊急事態宣言や雇用・所得環境悪化等の影響により消費者心理は大きく低下していますが、ワクチン接種の進捗などに伴い、秋以降は経済が正常化に向かうと期待されています。しかし、今後の個人消費の動向を見通す上では、原油価格の高騰といったリスクが顕在化していることには注意が必要でしょう。

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