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男性の育児参加を受け入れられない、変わらない現場

男性の育児参加で「子育てしやすい体制」作り

2015年前後から「働き方改革」が全国的に普及する中で、大きな変革の1つだ男性の育児休暇取得だ。これまで、男性の育児参加を増やすことで、女性に偏っていた育児の負担を和らげ、子育てしやすい体制づくりが社会的課題となっている。

男性の育児休暇取得率も、徐々にではあるが高まる傾向にある。男性の取得率は2022年度に17.1%であり、10年前の2012年の1.9%と比べると大きく上がっている。しかし、まだ十分とは言えない数値であり、社会的に浸透しているとは言い難い状況だ。

今年の3月12日には、政府は仕事と育児や介護の両立に関する改正法案を閣議決定している。この改正によって、男性の育休取得率の公表義務の対象を、1000人超の企業から300人超に拡大する。また、取得率の目標値も100人超の企業は公表が義務となる。

男性の育児参加は社会問題として広く認知され、政府主導での取り組みも進んでいる。しかし、実態としての育休取得率は緩やかにしか伸びていない。そう簡単に社会は変わらないと言ってしまえばそれまでだが、問題解決のスピードが問題深刻化のスピードに追い付かなければ元も子もない。日本の少子化と人手不足の問題は深刻な状態にあり、子育ての体制を整えることで出産後の女性のキャリアの断絶を防ぐことと、子育てのハードルを下げることは急務だ。

人事の中では当たり前の「男性の育児休暇取得」

男性の育児休暇取得の問題は、その担当者となることの多い人事部にとっては2つの意味で「当たり前」がある。

1つは人事施策としての「男性の育児休暇制度」の整備だ。特に大企業では育休取得率の公表義務があることもあり、男女問わずに育休が取得できるように制度として導入されている。そのため、組織的な対応として「男性の育児休暇取得」の支援体制を作ることは「当たり前」だ。そのため、実際の取得率がどうであれ、会社としてはやるべきことをやっているという自己評価の企業人事の方と話すことも少なくない。

もう1つは、現場からの理解を得ることが困難だという「当たり前」だ。この「当たり前」は、働き方改革関連の取り組みで生まれやすい。そもそも、働き方改革関連の取り組みは生産性を高め、ワークライフバランスを高めることで従業員の知的好奇心を満たす活動を促し、イノベーションに繋げることが主目的だ。決して、残業代を減らすことや労働条件に制限を設けて生産活動に制限をかけることではない。しかし、働き方改革関連の取り組みを「生産活動の制限」として捉えている現場は少なくない。育児休暇の取得についても、「ただでさえ人手不足で大変な時に休まれると困る」と「生産活動の制限」のように捉える現場は少なくない。

パタニティーハラスメントにどう取り組むか?

育児休業などを理由に男性社員へ圧力をかけることを「パタニティーハラスメント(パタハラ)」と呼ぶ。厚生労働省の調査によると、管理職男性の33%が、育休の阻害などのパタハラの被害を受けたと報告している。管理職に限らない男性全体では、過去5年間で被害を受けたと回答したのは24.1%という。

パタニティーハラスメントの原因は、男性の育休によって落ちる生産性を受け入れることができない現場のマネジャーと同僚の存在が大きい。先の厚労省の調査でも、ハラスメントで最も大きな割合を占めたのが上司と同僚からの圧力だ。裏を返すと、現場のマネジメントのレベルで男性の育児休暇の取得が「当たり前」だと認識させることができれば、問題はかなり解決できる余地がある。このことは、同じように男性の育休によって落ちる生産性の受け入れに苦労した欧州諸国でも企業レベルでとってきた対策だ。

つまり、男性の育児休暇の取得は「当たり前」だという新たな文化を組織内に創り出す取り組みと言える。「男性の育児休暇の取得」を目的とした施策になると、制度のような入れ物を作ることや、研修などで啓蒙活動をするようなベクトルで考えがちになる。そうではなく、新たな価値観を持つことの必要性を事業戦略と結び付けてストーリーを構築し、全社的に文化を醸成していく取り組みとなる。文化醸成というアプローチでは、人事だけではなく、全社的な取り組みとして関係各所を巻き込んでいく経営陣のリーダーシップが求められる。

男性の育児休暇の取得は、現場目線で考えると「社会問題なのはわかるが、だからといって生産性が下がったり、目標未達になっても許してくれるのか?」という問題が付きまとう。その問題に直視せずに施策を講じても、現場が協力することは難しいだろう。そのためにも、男性の育児休暇の取得による不利益を受け入れる文化の醸成が肝要だ。


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