グリーンウォッシュをどう防ぐか(前編)
みなさんこんにちは、シェルパ・アンド・カンパニーの中久保です。今回から2回にわたって、今話題の「グリーンウォッシュ」とは何か、どのように防ぐことができるのかについて考えていきたいと思います。
グリーンウォッシュとは何か
みなさんはグリーンウォッシュという言葉をご存知でしょうか。ESG・サステナビリティの業務に関わる皆さんであれば、今年は特に意識されている言葉かと思います(ESGトレンド予測2024にも執筆させて頂きましたが、私も今年の一大テーマであると認識しております)。
グリーンウォッシュに関する動きは、環境をはじめ、サステナビリティの取り組みが進むにつれて、その中身が本質的なものであるかどうか、問われるフェーズになってきたことを意味します。読者の方々もサステナビリティの取り組みに関与されている場合、その内容について点検が必要な時期が来ているのではないでしょうか。
昨年には日本の消費者庁が初めてグリーンウォッシュ関連の摘発を行いました。生分解性プラスチックについて、実際は特殊な環境下において分解されるというものであったにも関わらず、自然に分解されると誤解されるような表現を使っていた10社が、景品表示法違反と判断されたのです。
下記の日経記事でも取り上げられているように、グリーンウォッシュに関する訴訟は、グローバルで2019年から2022年の3年間に4倍となっています。
・グリーンウォッシュの定義・類型
グリーンウォッシュは、英語でgreenwashingと表現されます。「企業やその他の団体が、実際以上に環境保護に取り組んでいると一般大衆を誤解させること」であると国連が定義しています。Greenという言葉が入っていますが、最近では社会面も含めてサステナビリティ全体を対象に、この用語が使われる場合もあるようです。その他関連して、SDGsウォッシュや、レインボーウォッシュ(LGBTQ+フレンドリーであるかのように見せかけること)というような言葉があります。
国連によると、グリーンウォッシュには、具体的には以下のような6つの「手口」があるとされています。
・具体例
最近の具体例として「アップル史上初のカーボンニュートラル製品」とされるApple Watchが、グリーンウォッシュであるという批判を浴びました。カーボンニュートラルと聞くと「この商品を買うことによって、地球温暖化に何も影響を与えない」と消費者が勘違いしてしまう可能性があるためです。
製品のライフサイクル全体において、細部まで気候変動への影響を正確にトラッキングすることは依然難しいです。さらにアップルはカーボンクレジットを利用して、Apple Watchのライフサイクルにおいて生じる排出量を相殺することにしていますが、このカーボンクレジット自体にも論争があります。
このスキームを通じてアップルが植林した木々は、追って伐採され木材として売却されるということなので、木々に蓄えられたCO2は加工の過程などで大気中に再度放出されてしまうといった意見もあるのです。
グリーンウォッシュの影響と、対策の難しさ
企業にとって自らの環境活動についてグリーンウォッシュであると判断されることには、大きなデメリットがあります。上記のアップルの事例のように批判を受けるだけでなく、投資家からマイナスの評価を受ける可能性もあるのです。
また、グリーンウォッシュの批判を恐れて、サステナビリティの取り組みを開始すること自体を躊躇する場合がありますが、それでは本末転倒と言えるでしょう。
こうした理由から、グリーンウォッシュの明確な基準が知りたいという声をよく耳にしますが、世界共通の基準が存在するわけではありません。グリーンウォッシュの様々な類型について各分野の専門家が議論をしている最中です。そのため企業としては自らの活動に関する判断に迷うことがありますし、投資家や消費者としても企業がグリーンウォッシュをしていると判断することが難しいのです。
関連する規制
上記のような状況ではあるものの、すでにいくつかの関連する規制が存在します。これらの規制は、グリーンウォッシュを考える手がかりになるでしょう。ここでは主要な規制について、簡単に説明したいと思います。
企業の経済活動に関する規制:EUのタクソノミー規則が代表例です。企業の経済活動が、グリーンか、そうでないかについての判定基準を定めたものになります(Taxonomyは「分類」という意味です)。EUタクソノミー規則では産業ごとの個々の経済活動について細かく基準や閾値が定められており、たとえば建設・不動産セクターにおいては、一定値以上の建物のエネルギー効率改善の実施について、グリーンな活動であると分類されることになります。
金融商品に関する規制:EUのサステナブルファイナンス開示規則(SFDR)が代表例です。SFDRによって、金融機関は、自らが提供する金融商品についてサステナビリティに関する情報を開示することが求められます。これによって投資家は、サステナブルな活動を推進するための金融商品を選ぶことができるようになります。ひいては投資を通じて企業のサステナブルな活動を促進するということを目指した規則というわけです。関連して、日本でも金融庁がESGファンドの監督指針を公表しています(金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針)。
環境主張に関する規制:EUの環境訴求指令が代表例です。企業が環境に関わる主張をする場合には、それについて科学的な根拠に基づいて立証することが求められます。この規制は、まさに冒頭でご紹介した、生分解性プラスチックにかかる主張の摘発のような事例を念頭に置いています。
後編予告
次回「グリーンウォッシュをどう防ぐか(後編)」においては、企業や投資家がグリーンウォッシュをどのように避けることができるかについて考察してみたいと思います。AIをはじめとしたテクノロジーがどのように貢献するかについても検討したいと思いますので、引き続きお読み頂けると幸いです。