フリーランスにポジティブな意味をもたせるなら平均年収の引き上げが急務である【日経COMEMOテーマ企画_#フリーランスだからできること(遅刻組)】
広く社会に浸透してきたフリーランス
特定の企業や団体、組織に専従しない独立した形態で収入を得るフリーランスという業態も真新しいものではなくなり、1つの働き方として定着してきた感がある。フリーランス人口も各団体から公表されているデータでは増加傾向にあると予想されている。内閣府やリクルートワークス研究所などの調査機関によるデータでは、フリーランスの人口は300万人中盤から400万人中盤にあると試算されている。
総務省の労働力調査によると、2020年の労働力人口は6868万人であるため、働く人々の約6%がフリーランスという計算だ。それでは、注目を集めているフリーランスのメリットはどのようなものがあるのだろうか。日経COMEMOで募集されていたテーマ「#フリーランスだからできること」を参考として考えてみたい。
複業としてのフリーランスと収入
新しい働き方として期待されているフリーランスだが、その形態は大きく2つある。1つは、本業を持ちながら副業としてフリーランスをしているケースだ。もう1つは、フリーランスを本業として生計を立てているケースだ。
内閣官房日本経済再生総合事務局によると、フリーランスの合計462万人のうち、本業とするのが214万人、副業が248万人という。つまり、現在のフリーランスは本業の補助的な性格が強い。
それでは、本業に対する収入の補填としてフリーランスを行っているのかというと、必ずしもそうとは言えないようだ。その理由は2つある。
1つ目の理由は、単純に目的の相違だ。内閣官房の同調査の結果では、フリーランスという働き方を選択した理由で最も大きいものは「自分の仕事のスタイルで働きたいため(57.8%)」と「働く時間や場所を自由にするため(39.7%)」がトップ2だ。「収入を増やすため」は3番目(31.7%)である。つまり、収入を補填する「副業」よりも、「複業」という自己実現や社会貢献のあり方としてフリーランスとなっている人々が多い。
2つ目の理由は、フリーランスの所得の低さだ。フリーランスを本業としている人々の年収で最も多い範囲が200万円以上300万円未満である(19%)。つまり、大学新卒程度の収入しか得ることができない。副業の場合では、100万円未満が74%である。世帯年収としても、300万円以上400万円未満が最大(16%)である。
このような年収の低さも10代や20代の若さであれば耐えることができるだろう。しかし、フリーランスの7割強が40代以上である。年齢階層で見れば、60歳以上が3割以上で最も多い。中には年収1000万円を軽く超える人々もいるが、全体傾向としてのフリーランスの所得水準は低い。
フリーランスの2極化問題が課題を見えにくくする
新聞やテレビなどのメディアを見ていると、フリーランスで活躍する人々が紹介され、優雅な暮らしぶりがピックアップされることが多い。また、行政主催のイベントやセミナーで取り上げられる事例でも、フリーランスによって自由と収入を両立されている人々が取り上げられる。これは、フリーランスが2極化しているためだ。
世帯年収でみると、フリーランスのうち年収1000万円を超える人々が10%存在する。この割合は、雇用者全体の世帯年収に占める年収1000万円以上の割合(14%)よりも低い水準だが、事例として紹介するには十分な人数がいる。
成功事例という少数派の特殊事例だけをみてフリーランスについて語っても、現在、低所得で苦しんでいるフリーランスの多数派の姿を見逃すことにつながりかねない。フリーランスを新しい働き方として定着させ、働く人々の幸せを求めるのであれば、少数派の成功事例を見てはいけない。毎日の糊口をしのぐことに精いっぱいな大多数のフリーランスに焦点を当て、所得の向上と待遇改善という泥臭い現実に向き合わなくてはならない。
60代で年収300万円のフリーランス。このペルソナが幸せになる社会を創り上げることができて初めて、「#フリーランスだからできること」という明るい未来を語ることができるのではなかろうか。
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