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ミニシアターという文化を支える2万人に迫る人たちが提起したもの(前編)

お陰さまで大きな話題となっているので、お聞き及びの方も多いかもしれません。
今、MOTION GALLERYでは『ミニシアターエイド』という名の、全国のミニシアターを支える為のクラウドファンディングを行っています。

ちょうどクラウドファンディングがスタートして2週間が経とうとしています。当初の目標金額であった1億円を開始57時間で突破し、今、2億円が目の前に迫っている状況です。そのうねりは各種メディアでも大きくとりあげられ、次々に伝播している状況です。調度昨日は日経新聞でも取り上げてもらいました。

新型コロナウイルスにより、ミニシアターが危機に立たされている。緊急事態宣言で、休館を余儀なくされている館も多く、多くの来場者が見込めるゴールデンウイーク期間の営業も難しい。ミニシアターを支援しようと、映画監督らが支援に動き出した。

カンヌ国際映画祭でも作品が上映された深田晃司監督と濱口竜介監督は「ミニシアター・エイド基金」を13日に設立し、クラウドファンディングを始めた。両監督は「この1、2カ月を乗り越えないと経営危機に陥る。行政の支援を待てない」と支援を呼びかけた。募集は5月14日まで。集まった資金は寄付の形で分配する予定で、4月20日時点で93団体110劇場が参加。24日時点で1億8000万円を超える資金が寄せられている。

また、同基金と連携し、諏訪敦彦監督らの呼びかけで「#Save The Cinema『ミニシアターを救え!』」プロジェクトも発足。内閣府などに休業などで生じる損失補填を求める要望書を提出した。会見した呼びかけ人の1人白石和彌監督は「(ミニシアターがなくなると)映画の人材を供給していく根源を失うのではないかという危機感を強く覚えている」と話した。

ここNOTEでも、これまでのMOTION GALLERYについて書いてきたので、繰り返しにはなってしまいますが、モノサシが経済的価値だけではない活動、たとえば文化芸術の様な「永続的な活動のために儲けなくてはいけない」上に「文化的な価値の創出も果たさなくてはいけない」というお金の面では相反しがちな活動をみんなで後押しする為に2011年に生まれたサービス。だから今回のプロジェクトに関しては、我々の存在意義とも言える大きな取り組みでもあり、わたしも発起人として立ち上げからルール設計まで関わり、そして運用も行っていたりします。

日本のクラウドファンディングで文化芸術活動として初の1億円を超えたプロジェクトとであり、2億円にも到達しようとしているこのタイミングで、一度この「ミニシアターエイド」について振り返りたいと思います。

新型肺炎コロナウィルス感染拡大は、文化芸術に多大な影響を及ぼすかも知れない

そう感じたのは、2月初旬のことでした。キュレーターとして『さいたま国際芸術祭2020』に関わり、4月開催へ向けて準備を進めていたのですが、開催延期の検討がされる様になりました(その後、最終的には無期限延期という判断が下りました。)実際、来日予定だった関係者、そしてアーティストから、来日キャンセルの希望も入りはじめており、これからの影響が世界的に大きなものになる事を直感させられました。

これまで私が代表を務めるモーションギャラリーではクラウドファンディングを通じてクリエイティブな活動への資金調達をサポートしてきました。ウィルス感染拡大が日々、深刻化する中で、これは何としてでも、自分達の利益を度外視しても 立ち向かわなければと、2月「新型コロナウイルスへの対策支援プログラム」をスタートしました。

様々な活動を支援していく内、自分の人生でかなり大きな位置を占めるミニシアターがまずい状況になっているのではないか? と、危機感が募る話を多く聞くようになりました。特にその危機感に火をつけたのは、名古屋シネマスコーレの副支配人・坪井さんにコロナで苦しむミニシアターの現状をインタビューしたnote《「ミニシアター、今どうなってますか?」シネマスコーレ・坪井さんの話》でした。

ミニシアターの収益減少は2月頃から始まり、外出自粛要請後は、観客ゼロの回が出てしまう映画館や、休館に踏み切る館も出てきました。ミニシアターは大きな資本の入っているシネコンと比べると経済規模が小さく、それゆえに今月・来月分の入金がないことで閉館を検討せざるを得ない場所も多いのです。立ち上げや運営には莫大な予算が必要なこと、また長い時間をかけて地域に文化を育んできた場所という意味においても、一度失われるとその回復は容易ではありません。

これは、「新型コロナウイルスへの対策支援プログラム」だけでなく、更に一段ギアを上げた何かを自分でもアクションするべきではないか。プロデューサーとして映画に関わってもいるからこそ、できること/やらなくてはいけないものもあるのではないか。

そう漠然と考えていたその日、濱口竜介監督そして深田晃司監督から連絡がありました。すでに日本の映画界を背負っている二人が、全く同じ危機感に対して、同じビジョンを持ち同じアクションを起こそうとしていることが分かりました。運命的とも言えるというか、このメンバーが連帯して、この苦境を打破する為の一歩を踏み出すことの義務感を感じた瞬間でした。そこで、存続の危機に立たされている全国のミニシアターの運営継続を支援するため、深田監督・濱口監督、そして、大高を含むプロデューサー有志が集まり、ミニシアター・エイド(Mini-Theater AID)基金を立ち上げました。

始まる前から胸が熱くなる映画愛

ミニシアター・エイド(Mini-Theater AID)基金を立ち上げるに当り、
ミニシアターの定義はどうするのか、どの様な制度設計が良いのか、どの様なプロジェクトページをつくるべきか、どの様なリターンにするのか。
実際のミニシアターの皆様への打診やヒアリングといった実務も含めてかなり膨大な作業を発起人みんなで次々にこなして行きました。凄いスピード感で。

色々と検討していくなかで議論になることも多々ありましたが、
我々ミニシアターエイドのメンバーが持っている共通意識として、
コロナで生み出されている分断を、ミニシアターエイドで少しでも連帯に向かわせたいという思いであり、つまりミニシアターエイドの制度設計などで分断が広がるような結果を決して生んではいけないという強い決意がありました。

例えば、これはミニシアター、これはミニシアターではない、みたいな選別をゆるいロジックで行って線引を我々が行ってしまうことは、ミニシアター同士の分断を生んでしまうわけですよね。

では、どうすればいいのか。そんな少し哲学的でもある問いに一つ一つ答えを出していけたのは、そこの揺るがない北極星が常に議論の中心にあったことで、正しく公平でそしてスピーディーな決断が行われて来たのだからだと思っています。

この短期間でプロジェクトを組成し、決め事を決め、そして実行していく中で、
ある意味で事務方経験が豊富である発起人の中のプロデューサー陣の奮闘は当然すごかったわけですが、今冷静に考えると何よりすごかったのは、濱口監督・深田監督の両監督の、設計力と言語化力と実務能力でした。この二人が、ガンガン進めてガンガン書類に落として、ガンガン実務を進めていたことでかなり強力にプロジェクトが推進されていました。人間慣れって怖いもので、毎日ZOOMで顔を突き合わせて作業していると、なんか普通に、同僚とかと仕事でプロジェクトを遂行している気がしてくるので特に違和感なく作業してましたが、よくよく考えると2人は作家であり映画監督なんですよね(笑)。映画監督の仕事は、方向性を指し示し現場で決断することだ、と某監督が言っていましたが、決断以上にキャリア官僚の様な精度とスピードで実務を遂行していくこの動きは、一体映画のどの現場で得たものなのか・・・?やっぱ世界で戦う人は凄いですね。結構本当に誇張なく思っています。

そんな風に、分断ではなく連帯を生み出すミニシアターエイドを立ち上げていったこの過程で、忘れてはいけない人が居ます。

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それは、このミニシアターエイドのロゴをつくってくださった、COMPOUND inc 小田さんです。

この急ピッチでプロジェクトページを立ち上げようとしている中で、それこそ全国のミニシアターと映画ファンとを一つにして糾合するようなロゴは、クラウドファンディングに欠かせません。そんなロゴを誰に頼めばいいのか。
私の中では、もうその答えは小田さん1択でした。やって頂けるかは別として。

小田さんとの初めての出会いは、多分4〜5年前。
友人でもある、真利子哲也監督のトークイベントに遊びに行った時に、その後の飲み会で席が隣になった時に色々話したことが今でも覚えています。
語り口がめっちゃ切れ味鋭い!どうやら凄いデザイナーの人らしい!という話しもありつつも、何よりその迸る映画愛と、シネフィルな感じに話がめっちゃ盛り上がりました。その時に、「小田さんとはいつか映画の仕事を一緒にしたいなあ」と思ったものです。

とはいえ、売れっ子デザイナーの方に、こんな短期間でしかも色々度外視でお願いしてしまって、良いものなのか(本当は良くない・・・)と少し逡巡しつつも、でも絶対小田さんなら受けてくれるだろうとも思い打診してみました。
なぜなら小田さんの映画愛は初めて会ったときから今に至るまで、常にすごかったからですね。

結果、小田さんの映画愛と男気は、自分のそれを遥かに凌ぐものでした。
イラストレーターの寺本愛さんを巻き込み、素晴らしいミニシアターエイドのロゴを完成させるだけでなく、ミニシアターエイドと同時並行で進んでいた、署名活動の「#SaveTheCinema」のロゴまで・・・!

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「 映 画 の 歴 史 へ の 敬 意 」 と 、「 結 集 す る 意 義 」 を「 映 画 ス ク リ ー ン の ア ス ペ ク ト 比 の 変 遷 」 と 、「 色 光 ( R G B ) の 三 原 色 」 を シ ン プ ル に 組 み 合 わ せ て 表 現 した「#SaveTheCinema」のロゴ

もうこの時点で、こんなに映画そしてミニシアターの事を深く応援してくれる人が居るんだから、きっと大丈夫、と胸を熱くしました。

そして、映画『さようなら』『ほとりの朔子』のクラウドファンディングでご一緒して以来、深田晃司映画祭りなどを企画したりしているご縁の深田監督、
映画『ハッピーアワー』という超大作の製作に際してのクラウドファンディングでご一緒した濱口監督、
飲み会以来色々と相談にのってもらっている小田さん、
というようなお三方を始め、MOTIONGALLERYをはじめてからの10年で知り合い、一緒に仕事をしたりして、つながってきたご縁がここで一つに集まった感、そうまさにアベンジャーズ感満載のこの動きに、更に胸アツでした。

そんな準備を経て、ついに開始の日が近づきます。

集まった1億円の意味

目標金額は1億円。
目標額が達成されると、基金に参加した全国のミニシアター各館へ平均150万円ほどの分配金をお渡し出来るという試算。ミニシアターが1〜2ヶ月乗り切るだけの金額の想定としての設定でした。

つまり、「集まりそう」とかの議論ではなく、論理的に最低限必要な金額をノーギミックで設定した目標金額でした。実はクラウドファンディングでの目標金額の設定において、この考え方はとても重要です。(なぜ重要なのかは後日また違うエントリーでお話します)

とても重要で、且つ正しい目標金額設定ではありますが、その結果が1億円・・・。普通は尻込みする設定ですが、こと今回においては集まるか集まらないかではなく、集めなくてはいけない。そういう思いが発起人メンバー間で暗黙の了解として動き始めていました。

「さあ、これから本当に大変になるぞ・・・・」

そんな気持ちで、クラウドファンディングの開始と、同時にDOMMUNでの記者会見に臨みました。

記者会見は、発起人の濱口監督・深田監督だけでなく、
俳優の斎藤工さんや、渡辺真起子さん、
そして、シネマスコーレ・坪井さん、出町座・田中さん、シネ・ヌーヴォ・山崎さん、シネマ尾道・河本さん、シネマ5・田井さん、アップリンク浅井さん、
といった全国のミニシアターの劇場支配人の方々にご出演頂きました。

我々としても、ステイホームというメッセージングも行いたく、
モニターを並べた無人記者会見を提案し、ドミューン初となる記者会見となりました。

ここをきっかけにどの様な動きになっていくのか。
これから苦しい30日が始まるぞ、と記者会見直後からいささか緊張し始めていた当時、流石にこんなに一瞬で目標1億円に到達するなんて考えてもいませんでした。

ところが、この記者会見を皮切りに、各種メディアにも大きく取り上げられるなどして大きな話題になりました。そして何より、スタートしてから、メディアが報じるスピードが追いつかない、物凄い勢いで、お金が集まり続けていたのです。

こんな勢いで、しかもそれが絶えることなく持続していくクラウドファンディングは流石に始めて目の当たりにしました。1億円という大台に到達するまで、一切緩む時間がなく、ただひたすら伸び続けたのです。

そして、色々用意していたアップデート記事さえ上げる間もなく、開始57時間で気づいたら1億円突破。ここまでくると現実感がないというか、とんでもない一大事を目の当たりにしているという感覚でした。

なんでこんな大成功が実現できたのか。
そういう問いを今、数多く頂いています。
MOTIONGALLERYを10年運営してきて、我々が持っている知見や切り出し方、そしてページづくりなど、全てを注ぎ込んで挑んだ訳ですが、それがピッタリとあたったところもありつつ、また勉強させて頂いたところも本当に大きくて、その分析は次回の記事に譲らせていただくとして、実はこの1億円突破の直後に我々の中で生まれた議論は、「達成に喜ぶ」とか「浮かれる」といった類のものとは180°違うものでした。

・・・後編に続きます。


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大高健志@MOTION GALLERY
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