オープンからクローズへ:プライバシー重視を宣言するフェイスブックがもたらす潮目の変化
3月6日に投稿されたフェイスブックCEOのマーク・ザッカーバーグ氏による『A Privacy-Focused Vision for Social Networking(プライバシー重視のソーシャルネットワークのビジョン)』と題した3,000文字以上の長尺ブログ記事は、記事公開直後から各英語圏のメディアで取り上げられる大きなニュースとなっているようです(New York Times, WSJ, BBC, Washington Post, Recode, TechCrunch, Wired, The Intersept)。
ザッカーバーグ氏は投稿の中でこう語っています。
「多くの人々が、Facebookがプライバシー重視のプラットフォームを構築できるとは思っていないことは理解している。率直に言って今のところ、プライバシーを守るサービスの構築に関しては評判が良いとは言えないし、われわれはこれまでオープンに共有するツールに注力してきたからだ」
「コミュニケーションの未来はプライベートで暗号化されたサービスに移行していくと信じている。人々はより自分たちの発言が安全なものであり、それらメッセージやコンテンツが永遠に記録されないことに安心するようになる。これが私たちがもたらすことを希望する未来だ」
(I believe the future of communication will increasingly shift to private, encrypted services where people can be confident what they say to each other stays secure and their messages and content won't stick around forever. This is the future I hope we will help bring about.)
あれ、かつてフェイスブックの使命は「世界をよりオープンでつながったものにする(to make the world more open and connected)」ことを掲げ、自分の体験、写真、動画を公開することで世界で23億人以上が利用するサービスを創り上げたのでは(同時にターゲット広告により莫大な広告ビジネス収益)を実現したのでは...と思う人も多いかもしれません
*グラフで見る「世界最大のSNS」成長の軌跡:フェイスブックの15年(1)WIRED.jp (2019/2/23)
一方で、2016年の大統領選前後から問題となってきているロシアによる選挙介入疑惑、選挙コンサルティング会社のケンブリッジ・アナリティカによる8,700万人分のFacebook利用者の個人データの不正収集問題、さらにはフェイクニュース、ヘイト投稿などの問題山積みの状況が続く中で、欧州を中心に規制強化の動きが世界的な動きになっている背景も見逃せません。
ザッカーバーグ氏の投稿の中で、具体的なロードマップは示していないものの、長期的に取り組む課題として6つの点を掲げています。
1. ユーザーがプライバシーを簡単にコントロールできるようにする
2.エンドツーエンドの暗号化
3.コンテンツを必要以上に長期保存しないようにする
4.暗号化と安全性の両立(テロリストなどによる悪用防止)
5.Facebook Messenger、WhatsApp、Instagramでの相互運用性(将来的にはSMSも)
6.安全なデータ保存
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今回の投稿に対しては各種メディアやツイッターなどでもいろいろな視点から議論がされてます。フェイスブックの元チーフ・セキュリティ・オフィサーのアレックス・スタモス氏は驚きとともに「2年前に投稿してほしかった」と述べながらも、一定の評価をしているようです。
また、今回のフェイスブックの方向転換による勝者として以下のような存在を挙げています。
・暗号化推進者(Encryption advocates)
・専制国家で生活する利用者(Users in oppressive countries)
・国家や法的な執行機関にやりとりを見られるのを嫌う人(Users who don't like LE getting their chats)
・欧州のデータ保護機関(EU Data Protection Authorities)
・WeChat(今回の宣言によりフェイスブックが中国市場への参入の可能性が実質なくなったから/ never will face FB competition in PRC))
一方で敗者としては以下のようなグループをリストしています。
・コンテンツ監視を強化したいグループ(国家など?)Groups who want more content moderation
・欧州の法執行機関 (EU law enforcement)
・米国の法執行機関と諜報コミュニティー(US LE and IC (外国諜報活動監視法(FAA)702 条の有効性の低下 FAA 702 becomes a lot less useful)
・暗号化する余力のない他の競合企業 (Smaller competitors who can't afford E2E)
・WeChat (フェイスブックによる中国以外での成長の囲い込み /FB boxing out growth outside PRC)
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いちユーザーとしてこの方向転換をどう受け止めるべきか?
国内で生活をしているといきなり国家安全保障やインテリジェンスの視点は考える機会は少ないかもしれません。一人のユーザーとして、友達や家族、知り合いとのコミュニケーションのあり方として、巨大プラットフォームによる大きな方向転換が行われているらしい、くらいの認識はもっておいたほうがよいような気がします。
既に「ストーリー」機能を利用することで24時間で消滅する投稿を好む人がいたりしますし、フェイスブックへの投稿ではなく、LINEでの個別メッセージ、或いは少人数のグループを作成することで不特定多数に近いかたちの対象への投稿を控えめにするような動きも加速するのかもしれません。近況報告、公開で議論すべき議論、企業のマーケティング、拡散を希望する投稿など、オープンな投稿により得られたメリットが今後どのように影響を受けることになるのか、まだ予測がつきません。フェイスブックがもたらしてくれたプラスの部分もよい形で今後継続されることを個人的には願ってます。
*過去投稿記事:フェイスブックが始める独自『仮想通貨』とプライバシーへの懸念 (2019/3/1)
「壊れたインターネット」を修復する試みとして今回の投稿の中でも言及されている「decentralization(分散化)」の動き、そして先日ニューヨークタイムズの記事で明らかにされたフェイスブックによる独自仮想通貨・ブロックチェーンの計画など、今年1年を通じて無視できないテーマとなりそうです。
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*ちょうど今朝の読売新聞でも以下の記事が一面に掲載されていました。国内でも個人データをめぐる議論が今後広がっていく可能性がありそうですね