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町内会はDX(デジタルトランスフォーメーション)すべきか〜京都で感じた町内会の「濃いつながり」

地域コミュニティっている?と思いながら渋谷区に長いこと住んでいましたが、いま京都市に住んでみて、地域コミュニティの中に、ウェルビーイング(心身ともに満たされた状態)を支える答えがあると感じるようになりました。たぶん移住者だからこそ、京都の「つながりの濃さ」を前提としたコミュニティ運営が新鮮であったかいものに見えたのだと思います。そして、コミュニティを一番大事な社会インフラなのだと考えるようになりました。


京都の町内会の「濃いつながり」

京都に来て一軒家に住むことにすると、まずすべきことはご近所への挨拶と、町内会に入ることでした。そしてまず驚いたのは、ちょこちょこ班長さんみたいな役の人が、ピンポーンとやってくることです。

例えば、近所の神社のお祭りの際には、お札みたいなものを何枚買うかという回覧板が回ってきて、何枚と書いて回すと、何日か後にお札的なものを持って班長さんがやってきました。全部の家を回っていて、留守なら出直すといいます。これをぜんぶ配るために、休日を一日使っているというのです。さらに驚いたのは、お金は?と聞くと、それは別の人が担当だということで、数日後にまた別の方が集めにくると。これって、GoogleフォームとPayPayでよくない?と直感的に思いました。

町内会費の払い方がわからなかったので、いつも近所を歩いているところをお見かけする斜向かいの豪邸の奥様に声をかけると、ちょっといらっしゃいと言うのです。おそるおそる後をついていき、大きな木戸をくぐり、美しい庭を抜けて母屋に入ると、広々とした土間があり、もう使っていないという大きな竈門が二つ並んでいる。ここは博物館か?と驚いていると、うちは武家だったのという話が始まり、時間がゆっくりと流れていきました。そう、京都は自社仏閣だけでなく、それぞれのお宅にも歴史が埋め込まれているんです。このコミュニティの奥深さは、PayPayで置き換えるべきものではないなと、ぼんやり思いました。

そしてしばらくたち、また回覧板が回ってきました。こんどは町内会の人たちがみんなでメンテナンスして使っている一軒家があって、今月はそこの掃除がうちの班の担当だというお知らせでした。週末の朝だったので出掛けていくと、けっこうきれいで、ほとんどすることはありませんでした。でも、班長はじめ、みなさんと雑巾がけをしながらおしゃべりしているうちに、なんだか楽しくあったかい気持ちになってきました。渋谷区にいたときには感じたことのない、自分が「何をしているか」(= Well-doing)を誰も気にせず、「ただそこにいるだけ」(= Well-being)で受け入れられるという、なんともあたたかな感じです。

そうか、町内会の「濃いつながり」をただDXしちゃうと、このあったかさはなくなるんだなと思ったことを覚えています。

20歳の町内会長

次の記事は、とても新鮮な驚きを与えてくれました。20歳の町内会長、金子陽飛さんのまちづくりの奮闘記です。加入する約50世帯のうち3分の1が75歳以上の町内会で、高校3年から会長を務め、もう4年目になるとのことです。

非常に示唆に富んだ部分があるので、そのまま引用させてください。

当初は空回りが続いた。他地域を参考に提案したのはマルシェ、食事会、お祭りなど。「面白いね」と言われても「やろう」という声につながらなかった。若者が減り運動会などは既に取りやめていた同地区。思いが現実とかみ合わなかった。

ひとりの住民の言葉が胸にしみた。「地元の声を聞きながらやりたいことを進めるのが地域にもあなたにもよいのでは」

自分が住む地域を知ろう――。会長就任の挨拶まわりで町内会に加入する家を一軒一軒まわり、できることや得意なことを尋ねた。金属加工が仕事の人、ドイツ語が話せる人、草刈りが好きな人……。かつては気にとめなかった町内会が多様な個性を持つ人たちでできていることを知った。

上記記事より

彼自身が若くして町内会長をしていることの面白さももちろんありますが、それ以上に、「一人ひとりの住民の声を聞きながら進める」ことを本当に実践しきっているところに、このコミュニティのすばらしさがあると思います。

スローリーダーシップというあり方

先の記事の引用部分を「リーダーシップ論」として読み解いていきたいと思います。一般的にリーダーシップは、「ゴールを示し、そこに皆の方向性をあわせ、影響を与えて行くこと」と定義されます。つまり、あっち行くぞと宣言して、みんなを説得して、巻き込んでいく、ということです。ゴールが明確で、そこに素早く向かって行くことを是としている考え方ですので、これを「ファストリーダーシップ」と呼びます。

金子さんも最初はこのスタイルをとって、失敗します。他地域を参考に、マルシェ、食事会、お祭りなどを提案したが、みんなが乗ってこなかったといいます。そこに「地元の声を聞きながらやりたいことを進めるのが地域にもあなたにもよいのでは」という神の声が届きます。この言葉を素直に受け止め、リーダーシップのスタイルを大きく変えられたことが、彼の素晴らしいところです。

金子さんがとるようになったリーダーシップは、自分の信念は持ちつつ、みんなの声を聴ききり、ともに変わって行くという、私たちが提唱する「スローリーダーシップ」であったといえます。どうしてもリーダーという役割に立つと、自分は組織を代表して成果を出さないといけない、と意気込んでしまうものです。そうすると、組織のメンバーが自分のアイデアを実現するための道具のように見えてしまい、説得しようとしてしまうのです。それに対してスローリーダーシップは、「市民としてのリーダーシップ」です。自分が成果を出すことよりも、一人ひとりの市民がその人らしく輝くこと自体が目的なので、メンバーは手段ではなく目的になります。

組織代表のファストリーダーシップから、市民としてのスローリーダーシップ

町内会の未来

では、「町内会はDXすべきか」という最初の問いに戻ってみましょう。まず、私が京都に来て最初に感じた「コスパ悪い」という考え方に基づくDXは、すべきではないと思います。つまり、生産性が高いことはいいことだというWell-doingをめざしてはいけない、ということです。

金子さんの事例にあるように、町内会は寄付金収集システムではなく、お互いの出番を作り合い、ここにいるだけで受け入れられているというWell-beingを支えるものです。もしDXをするならば、この理念のもとに、まったく異なるプロセスをデジタルで実現することを考えて行く必要があります。

町内会の何を残して、何を変えて行くのか。それこそがウェルビーイングの最大のテーマになるかもしれません。

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