リモート勤務で地方移住が進んだら、僕らの給料は増えるの?減るの?
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リモート勤務で地方移住が進んだら、僕らの給料は増えるの?減るの?

日経COMEMOの募集記事 #この5年で変化した働き方 というテーマについて考えてみたところ、この5年間で起きた変化は、向こう5年間にどういう変化を与えるのか?という未来のことを考えてみたくなりました。

コロナ禍を受けまだ議論し切れていない重要な論点

コロナ禍の影響で、働き方の変化は一気に加速。中でもリモートワークが与える物理的・精神的な影響はとても大きいものでした。

企業がリモートワークを推進する中、経営や人事の視点では、これまで多くの論点で議論されてきました。リモート補助金の話から始まり、勤怠管理、就業規則改訂、ジョブ型雇用、そして最近では組織文化の浸透の弱まりなどの組織課題がよく議論されています。

これらの経営や人事視点での議論も重要ですが、働く一人ひとりの視点で見れば、こういう疑問も出てきているはずです。

「地方に移住すれば、家賃も下がって生活も楽になるから、フルリモートの会社で働いた方が実質の稼ぎは増えるのでは?」
「フルリモートの同僚と比べたら、オフィス勤務も必要で都心に住む私はその分の手当とかもらえるべきでは?」

ここに実は、まだ進んでない論点として、物価・地価の地域差と給与のねじれの問題が潜んでいます
「リモートが加速すると、どこに住んでも良くなるので、田舎に住んだ方が可処分所得が増えちゃうけど、それでいいんだっけ?」という問題です。

今はまだ国境を越えたリモートワークは多くないので、あまり大きな論点になっていませんが、これから人の往来が回復してグローバルでリモートワークが可能になると、日本でもこの論点は大きくなってくると思います。

これからの論点は、地域の物価差と給与のねじれ

地域により、物価や地価には差があります。物価の方は、ECが進んだこともありだいぶ平準化されてきましたが、地価の方はやはり東京都心は圧倒的に高いわけです。(僕自身、昨年に恵比寿から吉祥寺に引っ越して、家賃は下がり部屋は広くなりました)

物価については、仕入れる原価の差よりも、店の家賃や人件費単価(時給)が都心は高いのでその影響で差がついている感じですね。

こうした物価の違いを給与に反映すべきかという論点は従来からありました。つまり、住んでいる(働いている)地域により、給与に係数などをかけて調整するわけです。

オフィスが都心にしかないIT企業などは別ですが、全国に営業拠点を持つ会社や、小売や外食など店舗を構えるビジネスであれば、人事としては一度は通る論点でしょう。実際に、地方から東京に転勤になると、その分の調整で手当を出している企業もあります

経験してきたグローバル企業の例

僕が12年間働いた日本マクドナルドでは、正社員は全国転勤があることを前提とした採用だったため、給与は地域差がなく等級や評価に応じて全国一律でした。
そうするとどうなるかというと、たとえば同じ店長でも、物価の低い沖縄県で働く店長は可処分所得が多く、地元では所得の多い部類に入ってくるわけです。ただしこれは、直営店で働くスタッフに限ったことで、フランチャイズオーナーのもとで働く社員は、各地域のオーナーが定めた給与で働くので、地域差は実質加味されていたと考えられます。(日本マクドナルドは直営店中心からフランチャイズモデルに移行した経緯があり、各地のフランチャイジーに転籍するケースも多く、グループ全体としては実質的に調整がかかっていたことになりますね)

また、メルカリは、海外にオフィスがあったため、海外オフィスに出向する社員には物価調整をかけて給与支給してました。
アメリカの拠点をサンフランシスコやシリコンバレーに置いていたのですが、家賃が1LDKで30万円とか物価が遥かに高いので、日本の給与のままだと生活もままならず、その分を調整かけていた感じですね。

こうした動きはリモートワークになる前からあったわけで、これだけ物価が異なれば調整するのは自然な動きですよね。

それが、リモートワークがベースになってくると、同じ東京のオフィスに勤務し、同じ仕事をしていても、都心に住む人もいれば地方に住む人も出てきます。
そうすると、同じ仕事で同じ給料でも、地方に住めば家賃は下がるし、物価も低いから、可処分所得が相対的に増えることになります。

これを企業としてどう扱うか?という論点はこれから重要度を増してきますが、企業はどのように対応していくのでしょうか?

大きく2方向の選択肢があります。

(方向A) 住む場所は個人の自由

「どこに住んでも給与は成果に応じて同額が支払われます。都心に住むもよし、地方に住むもよし、個人の判断で好きにしてください」という発想がまずあります。

企業としては、働きぶりに対して給与を支払うわけなので、どこに住んでいても、成果に対して同じ給与を支払う。そう考えたら、どこに住んでいようと成果に対する報酬という意味では、地域にかかわらず揃える考え方がフェアだということになります。

ただ、職種によっては出勤が必要というケースも実態としてはあるわけで、全員が地方に住む恩恵を受けられるわけでもなく、不公平感を与えてしまうマイナス面があります。
また、「だったら地方がいい」と社員はみんな地方にバラバラになってしまって、「オフィスは誰も来ない」「メンバー間の会話が少なく連携が悪い」という会社になりかねないですね。

(方向B)地域差を調整して公平さを保つ

そうしたマイナス面を考慮して、「実質的な生活水準で公平になるよう、地域の物価を反映して給与を調整する」という考え方が出てきます。

こうした考えは実はアメリカでは一般的です。国土が広くてオフィスが点在している上に、物価の地域差大きい。そのため、働く拠点ごとに係数をかけていて、同じグレードや評価でも給与額が違うわけですね。

たとえば、GitlabというIT企業が給与の計算式を公開していて、「Location Factor(地域要因)」の係数をベースの給与に掛け算して支給額を決定しています。
そしてこのLocation factorというのは、200以上の地域を対象に係数を決めてグローバルで定義しているようです。

Your compensation = SF benchmark x Location Factor x Level Factor x Exchange Rate

また、HR Techの外部サービスとして、世界中でリモートすることを前提に給与の物価調整などを自動出かけてくれるサービスも出てきました

リモートベースで世界中で採用している企業からすれば、こうした物価の調整は当然のことといえます。

「同じパフォーマンスを出しているのに、生活水準が違うというのはむしろ不公平であり、支払額を揃えるよりも、実質の手取りによる生活水準で揃えた方が公平だ」と考えるのはごく自然なことですよね。
また、働く従業員にとっても、どこに住んでも同じ生活水準を保てるという意味で非常にフェアだと言えます。

この方法をとると、サンフランシスコにオフィスがあるとしても、物価の安いタイに住んでいる人を採用した場合、企業側としては物価分を調整して大きく人件費を抑えることができます

これは実は、人件費の安いベトナムに工場を作って世界に輸出している製造業と同じことで、人件費の安い地域で雇って世界に価値を提供するために働いてるという意味では同じなんですよね。

企業にとっては、リモートワークによって、工場やオフィスという拠点がなくても、より安価な労働力を雇うことが可能になったとも言えます。

これからの5年間でどうなっていくのか

で、これからどうなっていくのかというと、究極的にはあらゆる物価や地価の不均衡が是正されて、地域差というものがなくフラットになっていくと僕は考えています。

そもそも、従来の資本主義モデルは、中央集権型で密になることで生産性を高めてきました。だから、日本であれば東京に全てが集まって、物価が上がってきたわけです。
コロナ禍を受けて、密から「疎」の概念が重視され、分散型で組織を設計する力学が働いています。このようにして、そもそも不均衡は是正されてフラットになる流れは始まっています。

そこに、上記の地域による給与のねじれの概念を是正する動きが入ったら、どのようになっていくでしょうか?

まず、「(方向性A)住む場所は個人の自由」を選択した企業では、社員はできるだけ物価の低い場に移り住んで生活水準を上げようとする力学が働きます。
人口が物価の低い方に流れ、人気が高まってるくとその地域の物価が上がっていきます。物価が上がるとその地域は人気は低下し、他の物価の低い方に人が流れていく。
こうやって、徐々に不均衡が是正されていくわけです。

また、「(方向性B)地域差を調整して公平さを保つ」を選択するGitLabのような企業は、世界中からリモートでエンジニアなどの採用を進めます。同じ金額を払うならスキルレベルの高い人を雇いたいわけなので、物価の高いエリアでの採用は抑制され、必然的に物価の低い国・地域の労働力の採用の優先度が上がり、獲得競争が始まります
そうやって物価の低い国・地域の人気が高まると結局のところ人件費のインフレが起きていき給与が上がります。そうすると、そこに人が集まってきて、物価も自ずと上がっていきます。
そうやって、こちらの方向からも不均衡を是正する力学が働くのです。

このようにして、長期的には地域による物価の差というものが完全に是正されていき、どこに住んでいても金銭的な損得がない世の中になります

しかもこの均衡が、世界中で起こるわけです。

コロナ禍が落ち着いて、世界がボーダレスにリモートワークできるようになったら、急激にこの論点の重要度が高まると思います。

「どこにいても同じ物価でフラットな世の中になっていくとしたら、どこで暮らしてどんな生活を送りたいか?」

今からフラットな未来に備えて、こんなことを妄想するのもいいんじゃないかなと思います!

#日経COMEMO #この5年で変化した働き方


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Almoha共同創業者COO, デジタル庁 人事・組織開発, グロービス経営大学院 客員准教授 ← SHOWROOM COO ← メルカリ執行役員 人事組織責任者 ← 日本マクドナルドマーケティング部長・社長室長 / 『カルチャーモデル 最高の組織文化のつくり方』著者