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「XX離れ」が起きる前に、リポジショニングと話題化の組み合わせて対応すべし

まずは最近の日経電子版から、この2つの記事をご覧いただきたい。

2つの記事に共通するのは、
(1)かつて社会に定着・流行していたものが
(2)競合の台頭により販売が低迷したものの
(3)ブームが再燃している
3ポイント。言ってみたら「XX離れ」が起きた後に「ブーム再燃した」という現象が見られた、ということである。

追記:シルバニアファミリーの(2)については、以下の記事を参照されたい。1985年の発売直後大ヒットするも、1987年に競合が参入すると苦しい状況となったのを海外市場の売上によって支えられた、とのこと。

なぜこのようなことを書いているかというと、先日ひょんなことから消費行動に明るい、と言う立ち位置でAbema Primeの『梅干し離れが止まらない?復活の秘策は?巷にあふれる「〇〇離れ」大調査』と言う特集に出ることになったので、その時考えたことをまとめておこうと考えた次第。

ので、本稿では「XX離れ」が起きるとはどういうことなのか、そして「ブーム再燃」を起こすメカニズムはどういうものなのか、を考えてみたい。

「XX離れ」という現象が起きる前提として、そのXXは流行していたり、消費者に定着していたりしている、ということがある。
そのように何かが流行したり、定着したりするためには、その何かが、

(あ)何のために使われるか?
(い)その用途に使うために選択される時、他の何と比べられるか?
(う)比較対象と比べて、どこが優れているのか?

という3ポイントがしっかり顧客の心の中に根付いていることが必要である。
これは平たく言うと「AAするならXX」という想起が、顧客の心の中に起きる、と言うこと。
この状態を作ることが、マーケティングでよく言うポジショニング、すなわち、自社製品(この場合はXX)の、顧客の心の中の居場所=ポジションを作っていく営みである。

ポジショニングは、意図的・戦略的に成立する場合と、成り行きでできる場合があるが、どちらにしろ市場(=上記(あ)のこと、つまりどの商品の利用目的のことをここでは市場と言っている)で上手く行っているプレイヤーが出てくると、同じ市場に、それぞれの特徴を持った競合が参入してくる。

これにより、競争が激化して、売上が分け合われてしまって減じたり、後発競合に圧倒的な優位性がある場合は、先発品が飽きられ、市場がひっくり返ってしまったりする。

これが「XX離れ」の典型的な構図であり、上の例を使って整理してみると

<写真フィルムに最初に参入したメーカーの場合>

(あ)何のために使われるか?
  現実のシーンを切り取り、保存するという目的

(い)その用途に使うために選択される時、他の何と比べられるか?
  1:市場形成当初→スケッチなどの手段
  2:複数のメーカーが参入してから→それぞれのフィルムメーカー

(う)比較対象と比べて、どこが優れているのか?
  1:獲得するイメージの正確性とそのための手間
  2:画質や価格

以上のような市場状況の中、まずは、現像の手間やコストがかからず、イメージの取り回しが圧倒的に楽なデジカメが登場して、「写真フィルム離れ」を起こした。そして複数のメーカーがデジカメ市場に参入してしのぎを削った後に、今度は消費者の必需品とも言える携帯電話にカメラ機能が標準的に搭載されることにより、「デジカメ離れ」を起こした。そして今の所カメラ機能の良し悪しは携帯電話機種選択の大事な1要素になっている。

これが「現実のシーンを切り取り、保存する」と言う目的における、ポジショニングの様相の変遷である。

シルバニアファミリーはどうだろう?

(あ)何のために使われるか?
  子供が自宅で遊ぶ手段

(い)その用途に使うために選択される時、他の何と比べられるか?
  他のおもちゃ一般

(う)比較対象と比べて、どこが優れているのか?
  子供が夢中になって没入できる世界観、ディテール

と言う中、画期的な(う)の強みを武器に当初売上を伸ばしていたのであろう。
そんな状況で、複数メーカーが参入し、「人形+世界観の組合せである」類似商品を発売したことにより、(これは推測だが)1番手であること以外に際立った強みがなかったことにより勢いが減じてしまった、と言うのが上の記事にも解説があった1987年に起きた「離れ」なのではないかと思われる。

特集のテーマであった梅干しはどうだろう?

これもはっきりしたデータがあるわけではないが、梅干しを毎年漬けていた祖母の時代、つまり昭和初期の日本では、おそらく

(あ)何のために使われるか?
  ご飯のお供として

(い)その用途に使うために選択される時、他の何と比べられるか?
  漬物や鰹節など

(う)比較対象と比べて、どこが優れているのか?
  目が覚めるような酸っぱさ、強い味のインパクト+保存性

と言うポジショニングで1人あたり年間1kgを超える消費されていたのではないかと思う。
それが、日本が豊かになり、世界の様々な食材が頂ける環境が整い、ご飯のお供のバリエーションがすごい勢いで広がり、結果過当競争になって梅干しの取り分が減ったことに加え、塩分を忌避する健康志向の高まりにより、徐々にプレゼンスを失っていったのではないか、と考えられる。

それにより、普段の日々の中で梅干しを想起する機会が減少し、さらに消費が減っている、と言うスパイラルもあったかもしれない。人がものを買う理由の一番基礎的なことは「馴染みがある」「聞いたことがある」と言うことだからだ。

*人がものを買う理由は、大きく「馴染みがあるから」「良いから「好きだから」の3段階がある。詳しくは以下の記事をどうぞ。

では、梅干しはどのような戦略を取れば良いのか?

写真フィルムにおいては、アナログの画質が好まれたり、失敗も含み画像が出来上がるプロセスを楽しめたり、簡単にエモい写真が撮れたりすることが新しい強みとなり、再びブームになっている。そこで起きていることは

・当初、写真フィルムの目的だった「現実のシーンを切り取り、保存する」の中で「現実のシーンを、回顧的な情緒を呼び覚ますイメージとして切り取り、保存する」「現実のシーンを記録する行為そのものを楽しむ」と言う部分が細分化され切り出された

・当初の目的での強者であるスマホは、今の所上記、画質・エモさ・プロセスの楽しさなどの強みにおいてはフィルムカメラに及ばず、ブームが再燃している

と言うことであり、意図的になされたかどうかはわからないが、ポジショニング(目的・競合・強みの内容)がアップデートされていることがみて取れる。
このアップデートを意図的・戦略的に行うことをリポジショニングと言う。そしてリポジショニングは「離れ」が起きてしまった後に「ブーム再燃」させるための王道的な手段である。

シルバニアファミリーも同様である。当初の目的であった「子供が自宅で遊ぶ手段」から大きく離れ「大人が童心に帰る、昔を懐かしむ手段」を包含する形にリポジショニングされており、それに対応するようにポップアップカフェ、赤ちゃんのプロダクトラインが発表されたり、SNSで盛り上がりを見
せたりしている。

これに倣い、梅干しをどうしたらリポジショニングできるか考えてみよう。
例えば、こう言うのはどうだろう?

(あ)何のために使われるか?
  炭酸水と合わせることによって、止渇・ミネラル補給ができる材料

(い)その用途に使うために選択される時、他の何と比べられるか?
  ポカリスエット・アクエリアスのような機能性飲料

(う)比較対象と比べて、どこが優れているのか?
  オーガニックであること、伝統持つ日本の文化であること、味

これに限らず、リポジショニングのための要素(=新しい用途や競合、競合に勝つための強み)をできるだけ沢山考え、実際に新しい用途で使ってくれそうなユーザーにぶつけてみて、その筋の良さを確認し、方向を定めていく。

上記、機能性飲料のアイデアは筆者のたまたまの思いつきであるが、実際に梅干しを購入してくれたお客様のお話を伺い、あるいは生活に貼り付き観察することを通じて、作り手がまだ想像していなかった食べ方・使い方を見つけられることもある。つまりお客様にリポジショニングのネタを教えていただくわけだ。

筆者の祖母は梅干しを煮詰めたエキスを作り、筆者がお腹をこわしたら飲ませてくれたものだった。(そして気のせいかもしれないが、筆者は治ったような気がしていた)嗜好品としていただくだけではなく、このように健康を軸としたリポジショニングの方法もあるかもしれない。

リポジショニングの方向を決めたら、あと一つ、それを顧客に伝え、理解していただく、と言うことをしなければならない。

顧客は毎日、ウェブなどのメディアを通じて、非常に多くのマーケティングメッセージと接している。その中で顧客の関心をひき、記憶に残るためには、相当なインパクトが必要であり、そのためには、リポジショニングの方向や内容がどのようにやったら社会・顧客の間で話題になるか、と言う考え方でコミュニケーションを設計した方が良い

人は、自分が関与したことは、馴染み・身近さを感じて、高く評価したり選好しやすくなったりする性質があるように思われる。
であれば、例えば上記の機能性飲料であれば、炭酸水+梅干しに、あと何を足せば美味しく健康に良い機能性飲料が完成するか、と言う問いを立てて、顧客に一緒に考え、応募していただき、優秀アイデアは実際に商品化する、と言うのはどうだろう?

あるいは、機能性飲料の大先輩として、梅干しメーカーがアクエリアス(=日本コカ・コーラ)に宣戦布告する、といった広告キャンペーンを展開するのはどうだろうか?

どちらも緻密に考えたわけではないので、効果のほどは定かではないが、直感的にはどちらもそこそこメディアが取り上げてくださったり、SNSなどで取り沙汰されることにより、話題になりそうな気がする。

一旦そうなれば、新しい用途の認知や試行も起きるだろうし、商品名や梅干しというカテゴリーが連呼されることにより、顧客の心の中での馴染みも上がり、想起される機会も増えるだろう。

以上、「XX離れ」と「ブーム再燃」について、いくつかの題材で考えてみた。読者の皆さんはいかがお感じだろうか?

最後に、筆者が出演した番組のアーカイブはこちらである。
出演者の方々、皆さんとても面白い発言をしておられるので、よかったらご覧になってみてください。




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