増えてきた定年後再雇用の年収維持と従業員の高齢化問題
日本航空(JAL)が再雇用したシニア社員に対して、現役時と同水準の給与を維持する新しい制度を導入する。この取り組みは、シニア社員の勤労意欲を高め、持続的な事業運営につなげることを目的としている。これまで再雇用時に給与が4〜6割減少していたが、改定後は現役社員と同等の水準が維持されるようになる。この変化により、JALは航空業界で深刻化する人手不足を解消し、経験豊富なシニア人材を積極的に活用しようとしている。
このような再雇用制度の改定は、他の企業でも見られる傾向である。近年、定年後の再雇用においても給与水準を維持する企業が増えている。特に少子高齢化が進む日本では、労働力の確保が重要な課題となっており、シニア人材の活用が必要不可欠となっている。しかし、高止まりした賃金に見合った仕事が社内にどれほど存在するのかという問題が浮上している。シニア社員に高い給与を支払う場合、その対価としてどのような業務を期待するのかが企業にとっての課題であり、組織の競争力を維持するためには、その人材の市場価値をどのように保つかが問われている。
現代は不確実性が高まり、変化のスピードも急速である。このような状況下で、定年後再雇用の人材が果たして市場価値を維持できるのかという疑問も残る。多くの企業はリスキリングに取り組んでいるが、単なるスキルのアップデートだけではなく、「スキルのリデザイン」が求められている。スキルのリデザインとは、既存のスキルを新たな文脈や意味に再構築することで、個人の価値を再定義し、社会における役割を刷新する取り組みである。デザインマネジメントの領域では、イノベーションは「意味の変革」によって生まれるとされており、スキルのリデザインも同様に、既存のスキルの持つ意味を変革することで新たな価値を創出することに近い。
スキルのリデザインの重要性は、さまざまな場面で認識されてきた。例えば、プロスポーツ選手のセカンドキャリアや、欧米での退役軍人の職業復帰、あるいは過去に犯罪歴を持つ人々が新たなキャリアを築くケースなどにおいても、スキルのリデザインが効果的であることが示されている。これらの事例は、単に技術や知識を学び直すリスキリングとは異なり、個々のスキルに新しい意味を持たせることが、キャリア開発の成功に繋がることを示唆している。
JALが導入する新制度では、シニア社員に成果に応じた給与が支給され、成果を上げれば現役社員を超える年収を得ることも可能である。しかし、定年後再雇用だからといって、これまでと同じ仕事を同じ給与で続けるだけでは、その人材の市場価値は低下し、結果的に企業の競争力も損なわれる恐れがある。再雇用されるシニア社員が企業にとって真の価値を提供するためには、単に経験に頼るだけでなく、新たな視点や役割を見出し、それに見合ったスキルのリデザインを行う必要がある。
日本における高齢化社会の進展に伴い、シニア人材の再雇用は今後ますます重要なテーマとなっていくだろう。しかし、再雇用の制度を充実させるだけではなく、その人材が新たな意味を持って企業に貢献できるよう、スキルのリデザインとキャリアの再構築が求められている。再雇用を単なる延長として捉えるのではなく、次のステップとしてキャリアを再設計し、新たな価値を提供する存在として再定義することが、企業の持続的な成長と競争力の強化に繋がるのである。