幸せに働ける会社をつくるために大切な2つのこと〜仕事をどう選び、組織をどうつくるか
2019年10月1日にSlow Innovation株式会社を立ち上げたのは、2回目の起業だった。そのとき強く誓った経営方針が、「自分たちがしたい仕事しかしない」という「仕事をどう選ぶか」と、「社員が幸せになるために会社を使う」という「組織をどうつくるか」の二つだった。
それはとても自分勝手な方針ばかりなので、会社の売上さえ落ちなければ簡単にできることとたかを括っていた。しかし3年経って振り返ると、「自分勝手な会社をつくることへの心理的抵抗」が社長の私自身にも、社員の中にも思った以上に強いことがわかった。そして今、次の三か年を構想するうえで、「仕事をどう選ぶか」と「組織をどうつくるか」を再定義するタイミングに来ていると思う。
仕事をどう選ぶか〜「居住の自由化」
「仕事をどう選ぶか」で最初に挑戦したことが、「仕事を決めるのは会社ではなく社員」ということだった。いかに「社員が自由に仕事を選ぶ環境」をつくれるかが鍵なのだが、なんでもかんでもやれば成功するものでもなく、かと言って戦略の範囲内の自由はせますぎる。社長も社員も「何ならオーケー」なのか分からなかった。
それが自然に動き始めたのが、「コロナ禍による居住の自由化」だった。真っ先に二拠点居住を本格化させたのは、社長の私自身だった。大学の授業も、クライアントプロジェクトも、すべてオンラインになったからだ。京都を第一拠点にして、渋谷を第二拠点とした。そしてチームの定例ミーティングはZoomになり、話題も仕事のことではなくなり、生活の不便とか子育ての悩みとかになっていった。最初に起業した会社の定例は営業会議みたいだったので、同じ会社組織でもいろいろあるんだなあと、客観的に見ていた。
「仕事の選び方」の話に戻るが、こうして「地域につながって働く」ことを発信していくと、面白いことに「くらし方にあった仕事が入ってくる」ようになってきた。
つまり、「こういう仕事がしたい」と選ぶのではなく、「こうやって生きてます」と発信することで「それに合った仕事がやってくる」という順序だったのだ。次の3年は、社員個人の想い(心に立てた旗)を発信し、それらの想いで会社のポジショニングをすることをめざそうと思う。個性的な社員の集合体としての会社、というSlow Innovationのありたい姿に向かって。
組織をどうつくるか〜「組織のない組織」
そして次の大きなチャレンジが、組織をどうつくるかだ。「ティール組織」に「ホラクラシー組織」、そして昨年イベントで著者と鼎談した「ソース原理」の考え方など、検討したい概念はいくつもある。しかし、数年前にクライアント企業で、新規事業創造をホラクラシー組織で実行するプロジェクトを支援してみて、ほんとうに難しいと感じていた。だからこそ、次の記事には感動した。
2021年「働きがいのある欧州企業」ランキング(中小の部)で1位に選ばれた、フィージ共同創業者のヘンドリック・シャケル氏のインタビュー記事だ。とにかく感心するばかりである。この会社は、「第1に従業員、第2に顧客、第3にステークホルダー(利害関係者)」という優先順位を公言し、上下関係のまったくないホラクラシー型での組織運営を強みの源泉にしているのだ。そして驚くことに、「ホラクラシーを機能させるには、平等の徹底が重要だ。フィージには役職がなく、グループではリーダーも置かない。報酬金もボーナスもない。創業者を含めた全従業員に一律の給与テーブルを適用している」と、民主主義のお手本のような組織をつくっているのだ。
この記事のフィージは住宅ローンのコンサルティング会社なので、さすがに「仕事をどう選ぶか」に自由度はないだろう。強いビジネスモデルを構築したうえで、社員の完全なる主体性でパフォーマンスを向上させているのだと推察できる。
もしフィージから学ぶとするならば、一つ抽象度を高めて「組織のない組織」をめざすということだろう。「ソース原理」に関する本を出したトム・ニクソンさんが強調していたのは、「組織は幻想だ。組織を見てはいけない」ということだった。つまり、会社を「組織の集合体」として捉える見方を捨てて、「人のつながり」として捉え直すということだ。
組織を「人のつながり」として捉え直してみると、「仕事の選び方」で論じた「社員個人の想いでポジショニングする」ことは、とても相性がよい。
スローカンパニーとは
売上利益の目標を効率的に達成する装置のような会社を「ファストカンパニー」とするならば、一人ひとりの社員の想いで仕事を選び、その人たちのつながりで組織ができている会社は「スローカンパニー」と言えるだろう。
幸せに働ける会社をつくるために、スローカンパニーをめざそう。そのためには社長も社員も、自分の心の旗を立てておく必要がある。つまり、自分自身の心の声を聴くことである。
スローカンパニーが増えていけば、社会は少しずつ変えていけるはずだ。