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2020年上半期の円相場の需給環境~国際収支から分かること~

8月11日に本邦6月国際収支統計が公表されました。

これで2020年上半期の国際収支統計が出そろったことになります。為替市場の現状と展望を議論する上でもこ、同統計から試算される基礎的需給バランスを把握することが重要になるため、ここで簡単に整理したいと思います。国際収支統計を元に筆者が試算した円の基礎的需給は2020年上半期において約▲14.5兆円の円売り超過でした:

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基礎的需給の算出方法についてここで詳述は避けますが、図で積み上げているような項目を足し引きして作っている、と思っていただければここでは結構です。この約14.5兆円という円売り超過としては2016年上半期の約▲16.7兆円以来、4年ぶりの大きさです。図示されるように、2016年当時の円売り超過はあくまで対外証券投資の増加にけん引されたものでした。これに対し今回は対外証券投資が細る中で経常黒字が目立って減少した結果、円売り超過が大きくなったという印象です。

注目すべきは経常黒字減少の中身です。2020年上半期の経常黒字は前年同期(2019年上期)と比較して約▲3.3兆円も減少しています。この減少は主に貿易・サービス収支の赤字拡大で説明できるものです。国際収支統計上の貿易収支は前年同期の+1734億円から今年は▲1兆976億円に転落しており、上半期としては5年ぶりの赤字を記録しています。また、サービス収支は前年同期に+1726億円の黒字であったものが今年は約▲1.2兆円の赤字に転落しています。これは言うまでもなく、訪日外国人数が激減したことでサービス収支黒字が稼ぎ頭だった旅行収支黒字が激減した結果で、前年同期の約+1.4兆円から今年は+4213億円と約1兆円も減少しました。

こうした結果、貿易・サービス収支全体では前年同期の+3460億円の黒字が今年は約▲2.6兆円へ一変しており、この動きが経常黒字の水準を押し下げたことが良く分かります為替需給を考える際、貿易収支や旅行収支で稼ぐ外貨は円の買い切り(外貨の売り切り)というアウトライト取引のフローを多く含むことが期待されるため、相場へのより直接的な影響が想定されます。なお、2016年上半期は対外証券投資の増加が円売り超過の状況を作り出しましたが、対外証券投資の小さくない部分は為替ヘッジ付きであることを割り引いて評価する必要があります。貿易・サービス収支の大幅赤字転落で円売り超過が膨らんだ今年上半期の方が相場にとっての示唆は大きいように感じられます。

崩れる需給の均衡
周知の通り、過去2~3年、ドル/円相場の動意は失われてきました。この背景には諸説考えられますが、シンプルに「需給が均衡しているからではないか」という仮説もあるのではないかと筆者は考えて参りました。図示されるように、2017年頃から円の基礎的需給環境については顕著な傾きが失われるようになり、これに応じてドル/円相場の動きも大人しくなった印象です:

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そうした経緯を踏まえれば、ここにきてはっきりと(しかも貿易・サービス収支赤字主導で)円売りが拡大していることは無視できないと考えます。

もちろん、過去のnoteでも議論しましたように、今後の為替市場における最大のテーマは米財政赤字拡大に伴う「ドルの過剰感」であり、円の基礎的需給環境を主因としてドル/円相場を展望すると誤った判断になりかねないとは思います。あくまで潮流はドル安という整理が為替市場では適切です:

過去に円高が加速する局面では貿易黒字を背景とする本邦企業による(ドルの)投げ売りが果たした役割は大きいと考えられてきました。現状の需給環境を見る限り、そのような展開は殆ど予想できそうにありません。ドル安相場の結果として円高方向を予想するのが基本と思いつつ、金融危機後に見られたようなヒステリックな円高にはなりそうにないというのが上半期の需給環境から得られるイメージでかと思います。

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